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コラム:株高と債券高、偽シグナルはどちらか=村上尚己氏
2017年6月7日 / 02:51 / 5ヶ月後

コラム:株高と債券高、偽シグナルはどちらか=村上尚己氏

[東京 7日] - 米国の株式市場と債券市場において、成長率やリスク要因を巡る認識に温度差があることなどに鑑みて、5月初旬から進んでいたドル高は続かないとの見通しを前回コラム5月15日付)では述べた。

その直後に、米トランプ政権とロシア・プーチン政権との癒着疑惑、いわゆる「ロシアゲート」に対する懸念から、米金利低下、ドル安円高が進み、米国株も一時急落した。その後も、米金利の低下基調は変わらず、ドル安円高はさらに1ドル109円台まで進展し、筆者が想定した通りの展開となっている。

ただ、いったん下げた世界の株式市場は程なくして反発。米国株も6月初旬にかけて最高値更新を続けている。一方、米長期金利は6月2日発表の5月雇用統計の下振れを受けて、さらに低下している。つまり、米国の株式市場と債券市場の温度差は足元で、さらに広がっているように思われるのだ。

<日本株は消去法で買われた可能性>

もっとも、結論から言えば、米国の株式市場と債券市場の方向性が異なる状況がこのまま続く可能性は高くないと筆者は考えている。

成長見通しが高まらない中でも、地政学・政治リスクへの悲観後退または金利低下によって株価収益率(PER)が上昇しているため株高になっているとの説明は可能だが、世界的に株式市場は想定される企業業績対比でやや割高な領域に入っているように思われる。

日経平均株価は6月2日、2015年12月以来約1年半ぶりに2万円の大台に達した。「為替離れした日本株上昇」との解釈が一部で聞かれるが、株式市場の中で最も出遅れていた日本株が消去法的に投資先になっただけの可能性はある。

また、米債券市場での金利低下は、米国の経済成長率やインフレ率の動きが妥当に反映されているようにみえる。筆者が最も重視する今年の市場変動要因は、トランプ政権が打ち出していた、大型減税を軸とする追加財政政策の実現性である。ただ、軍事外交・安全保障政策におけるトランプ政権の対応などを踏まえると、米国の国内総生産(GDP)を高める追加財政政策が議会を通過する可能性はかなり低下していると現状では判断している。

確かに足元までの経済指標は総じて底堅く、米経済について過度に慎重になる必要はない。ただ、個人消費支出や耐久財受注などハードデータの回復が鈍いことを踏まえると2017年も2%前後の成長率にとどまる可能性は高まっている。また、景況感指数など一部ソフトデータにはピークアウトの兆しが現れている。さらに、景気の先行指数の1つである、原油など商品市況に目を転じても、春先以降ピークアウトしたようにみえる。

米債券市場での金利低下にはさまざまな要因が考えられるが、トランプ政権で期待された財政政策のレジームチェンジが実現せず、引き続き成長率がさえないシナリオの蓋然性が高まっていると筆者は考えている。

<価格調整は短期間で収束か>

もちろん、米連邦準備理事会(FRB)による6月利上げはほぼ既定路線だろう。ただ、FRBが想定している、9月の再利上げ、あるいはバランスシート調整開始を後押しするほど、米国を中心に世界経済が堅調なのかは、やや慎重にみた方がよいかもしれない。

米株式市場では、最近の金利低下で金融株の上昇が止まっている一方で、ハイテクなど成長株がドライバーとなり株高が続いている。また、投資家の不安心理を示すVIX指数(別名・恐怖指数)が10前後の低水準で推移していることについては、いつかの解釈はあり得るだろうが、債券市場以外はリスクに対して鈍感になっているため、VIX指数が大きく低下している側面もあるだろう。

そもそも、政治・地政学を巡る情勢は、年初からほとんど変わっていないように思える。それどころか、不確実性を高めるような新たなイベントが続いている。

例えば、6月5日には、サウジアラビアなど中東5カ国がカタールと国交を断絶したことが伝わった(その後、モルディブやモーリシャスも追随しカタールと断交)。現時点で、カタールが湾岸協力会議(GCC)から脱退するなどのドラスティックな情勢変化につながる可能性は高くないと当社は判断しているが、地政学の観点から市場への影響が懸念されるイベントであるのは確かだ。これらに対して、株式市場を中心としたリスク資産の反応だけが小さくなっているように思われる。

筆者のこうした認識が正しければ、足元で広がっている米国の株式・債券市場の値動きの乖(かい)離は、早晩縮小するかもしれない。どのような形で縮小するかの判断は難しいが、リスクに対してやや楽観方向に傾いている米欧株式が調整する格好で、両者のかい離は修正される可能性が高いのではないか。

ただ、トランプ政権による追加財政支出が実現しなくても、2017年後半にかけて、緩やかな回復基調にある世界経済全体の方向性が変わるほどの停滞は予想していない。ファンダメンタルズは変わらないため、仮にリスク資産の調整が起きたとしても短期間で収束するとみている。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。著書に「日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?」(ダイヤモンド社、17年2月)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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