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コラム:株高「楽観」の落とし穴=村上尚己氏
2017年7月20日 / 04:34 / 5ヶ月前

コラム:株高「楽観」の落とし穴=村上尚己氏

[東京 20日] - 前回6月7日付のコラム株高と債券高、偽シグナルはどちらか」では、1)米国の株高と債券高は持続しない、2)米国など株式市場は楽観方向に過度に傾いている、との認識を筆者は示した。

その後6月末の欧州中銀(ECB)カンファレンスでのドラギECB総裁発言(「デフレ圧力はリフレに変わった」)などを受け、欧州市場を中心に長期金利は世界的に上昇し、株式市場もやや調整地合いとなる場面があった。ただ、7月中旬からは、米消費者物価(CPI)の停滞などを背景に、米金利が低下に転じ、ダウ平均株価の最高値更新が再開するなど、長期金利と株価があらためて「かい離」する値動き(株高・債券高)となっている。

筆者は、こうした値動きは長続きしないと考えている。むしろ、基調としては、「かい離の縮小」は始まったばかりであり、足元の「かい離の拡大」は偽シグナルとの認識だ。以下、その根拠を説明しよう。

<盤石ではない金融政策正常化シナリオ>

まず、主要国金融政策の現状を押さえておきたい。ECBは2018年からの量的緩和縮小(テーパリング)開始を9月までに宣言するとみられ、さらに英中銀(BOE)やカナダ中銀(BOC)なども政策金利正常化をうかがっている。米連邦準備理事会(FRB)についてはイエレン議長の本心は定かではないが、インフレ率が低下する中で、9月にもバランスシート縮小を始めるとみられる。

一方、先進国では日本、新興国ではブラジル、コロンビア、インドで金融緩和の強化が続き、各国で金融政策の方向性にばらつきが広がっている。

こうした各中銀の政策に金融市場はどう反応するのだろか。まず、金融政策のばらつきが拡大することは、市場の不確実性を高める一因になる。また、成長率、インフレ率が高まっていれば中銀による引き締めは正当化される。

ただ実際には、利上げ開始で最も先行する米国は、春先からインフレ率が鈍化している。加えて、外交やスキャンダルへの対応に直面するトランプ政権が、議会を説得して拡張的な財政政策を実現する可能性は低下している。こうした中で、労働市場改善と政策正常化だけを理由に、バランスシート縮小を開始するFRBの姿勢に対して筆者は違和感を覚える。政治的な要因で、緩和縮小を急いでいるのかもしれない。

ECBについても同様で、ドラギ総裁はテーパリング開始について慎重だろうが、正常化を急ぐタカ派メンバーや政治家からの声に配慮しているように感じられる。BOEについても、景気減速の兆しがみられる中で、早期利上げ開始を唱えるメンバーの声はやや軽率に思える。

一方、米国の4―6月のハードデータはさえないものが多く、春先までの景況感指数改善が示すほど成長率は高まっていない。最近のインフレ率鈍化の背景には、実体経済の回復が停滞していることがありそうだ。また、景気指標は総じて底堅いが、グローバル購買担当者景気指数(PMI)、消費心理指数などは春先からピークアウトする兆しがみられる。

米欧株式市場では、FRBの政策に対する信認が強いままで、金利低下が株高の一因になっているが、すでに米国では自動車販売が減少、さらに銀行貸出が慎重化するなど、これまでの利上げの景気抑制効果が出ている。企業による自社株買いも減っており、今後、株式市場において企業業績改善に対する懸念が高まる展開に筆者は警戒している。

特に欧州では、ECBによるテーパリング開始への期待が高まる中で、2017年前半はユーロ高と株高が共存していた。ECBの政策への懸念から長期金利が上昇し、企業決算発表が本格化する中で、株高とユーロ高の構図が崩れる可能性がある。

株高と景況感指数改善が続いていることで、ECBはテーパリング開始への前傾姿勢を強めていると思われるが、欧州経済の足腰の強さに筆者は期待を持てない。ECBがファインチューニングに成功するよりも、ユーロ高によるインフレ停滞に直面するのではないだろうか。

<米引き締め頓挫なら新興国通貨に追い風も>

ドル円市場は、米金利と米株式の双方に影響を受ける値動きとなっている。米CPIの下振れで米金利が低下した場面でも、株高によって低下していた金利がやや上昇するなど、株式市場と債券市場の綱引きが起きており、その結果、ドル円の方向感は定まらない。

ドル円が目先どちらに動くかは、どのように両者のかい離が縮小するかで決まるだろう。株式市場の調整が先行して、低下していた金利に追いつく格好となれば、短期的に円高ドル安に振れるだろう。

筆者は、トランプ政権の政策想定が変わった4月から、株式市場に慎重なスタンスを保っている。この想定に反する動きを示しているのが、中国など新興国の復調と商品市況だ。中国では、中銀による信用抑制政策が続くと考えていたが、銀行貸出が拡大、また上昇していた市場取引金利に落ち着きがみられる。

秋の「政治の季節」を控えて、中国政府は景気底入れ政策に注力しているようだ。また、7月に国際商品市況が上昇しているが、中国や新興国経済への期待が影響しているのだろう。

新興各国の経済指標をみると、輸出入、個人消費などは、中国を含めたアジア、中南米、東欧でいずれも総じて堅調である。新興国経済の好調は、筆者のシナリオにとっては計算違いだが、これは一段の新興国株高、通貨高要因といえる。

ドル安による新興国通貨高がインフレ抑制と金融緩和を後押しし、ブラジル、コロンビア、ロシアなどの成長率を高めている。仮にFRBによる引き締め政策が頓挫すれば、これらの高金利通貨に対する追い風がさらに強まる可能性がある。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。著書に「日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?」(ダイヤモンド社、17年2月)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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