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コラム:最大の市場リスク、「パウエルFRB議長」で解消か=村上尚己氏
2017年11月13日 / 02:13 / 7日後

コラム:最大の市場リスク、「パウエルFRB議長」で解消か=村上尚己氏

[東京 13日] - 米国株式市場は、朝鮮半島での有事発生リスクに対する懸念が和らいだ4月後半に反発、その後じり高が続き、11月に入ってからもダウ工業株30種など主要指数は最高値を更新している。

一方、米国債券市場では、連邦準備理事会(FRB)による12月の再利上げが織り込まれるなかで、10年国債金利が9月中旬の大底からやや上昇。10月後半にはタカ派と目されるテイラー・スタンフォード大学教授のFRB議長指名の思惑で一時2.4%台に上昇した。

ただ、米10年金利はその後再び低下しており、2017年3月の連邦公開市場委員会(FOMC)前の2.63%水準に比べて依然、低いままである。年間を通してみれば、長期金利の低下基調は変わらず、株式、債券市場は異なる「シグナル」を発し続けていると言えよう。

<法人減税を追い風に米好況は長期化の公算>

米国を中心に株高と債券高が併存する状況が長期化する要因としては、株式市場を筆頭に金融市場全般のボラティリティーが低下していることが挙げられる。米国株は、じり高によって最高値更新となる日が増えているが、その価格変動率は実は近年低下している。株式という資産クラスが持つ本来の価格変動リスクが低下し、高配当を得られる高リスク債券と似たような性格を帯びつつあるのだ。

懸念された政治に起因するリスクが低下しつつあることも重なり、投資家の資産配分戦略が変化しているのかもしれない。その結果、「金利低下で株高」のメカニズムが強まっている可能性がある。

また、低インフレに対する配慮を強く示しながら政策金利を慎重に引き上げたイエレンFRB議長が投資家からの信認を保ち続けたことも、世界的な株高、長期金利低下、経済成長をもたらしたと言えそうだ。筆者は、2017年夏場まで高値更新を続ける米国株市場を警戒していたが、FRBによる手綱さばきが予想外にうまくいったことが、そうした懸念が杞憂になった最大の要因だったと考えている。

FRBは年初のFOMCメンバーの想定通りに、3月に利上げに踏み切り、その後バランスシート縮小を始めたが、長期金利の低下基調は続いた。その結果、貸出金利の安定に加えて、為替市場でのドル安定、株高を実現し、利上げが続くなかで金融環境はむしろ緩和された。それが2017年4―6月以降の米国経済の成長率を押し上げたと言えるだろう。

ちなみに、米株高の背景について、もう1点言い添えれば、法人税率引き下げを中心とした大規模減税政策の実現可能性が、秋口から高まっていることも、大きな要因になっているとみられる。ロシアゲート疑惑浮上などで一時は期待できないと思われたトランプ政権の税制改正案はここにきて前進している。

むろん、今後、上院との妥協などで減税プランが小規模にとどまるリスクは依然、無視できない。ただ、不安定なトランプ政権のなかにあっても、経済政策の司令塔であるコーン国家経済会議(NCE)委員長とムニューシン財務長官は、拡張的な財政政策を実現させつつあるように筆者にはみえる。

米国経済は2017年半ばから年率3%ペースで成長しているが、2018年からの企業に対する減税を追い風に、高成長が長期化する展開に期待できると現時点では考えている。

<米経済の過熱は杞憂、イエレン路線継承へ>

さて、米国を取り巻くリスクとして筆者が最も懸念していたイエレンFRB議長の後任人事については、パウエルFRB理事の指名で落ち着いた。2017年内にも議会で承認され、2018年2月3日に任期満了を迎えるイエレン議長に代わり、パウエル理事が新たなFRB議長に就任する見通しである(米国内の報道によれば、この人事が決まるプロセスでも、先に触れた経済政策に携わる司令塔が大きな役割を果たした模様だ)。

パウエル新議長誕生によって、筆者が想定していた金融市場の最大のリスク要因(金融政策の非連続性リスク)は当面、ほぼ解消されたと思われる。パウエル次期FRB議長は、これまで理事を務めていたイエレン現体制の考え方、アプローチの多くを引き継ぐことになるだろう。

具体的には、景気指標を慎重に判断しながら、緩やかな政策金利の引き上げが2018年も続く。そして、長期金利は極めて緩やかな上昇にとどまるのではないか。完全雇用が実現しつつあるなかで、米国でもインフレ率が2018年4―6月から上昇するだろうが、経済全体が過熱するには至らず、2018年もインフレが抑制された状況が続くと予想する。

ところで、2017年の株式市場の堅調さを演出した大きな要因は、イエレン議長が積み上げた市場との信頼関係だったと筆者は考えているが、それは2018年も期待できるだろうか。

まず、バーナンキ前議長、イエレン議長のような大物経済学者ではないパウエル次期議長が、自らの金融政策論を強く打ち出す可能性は低い。今後決まるFRBの副議長(2つのポストのうち、金融規制担当副議長にはクォールズ元財務次官がすでに就任)や新たな理事の金融政策に関する見識が、FOMC全体の方向性を左右することになるだろう。

むろん、仮に米国経済が今後、デフレの危機に陥るようなことがあれば、バーナンキ氏、イエレン氏のように、アグレッシブに金融緩和に踏み出すリーダーシップが問われることになるかもしれない。ただ、経済、金融市場が平穏であれば、イエレン体制の遺産をパウエル次期議長は有効に使うことができるだろう。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。近著に、「日本の正しい未来 世界一豊かになる条件」(講談社刊、2017年11月)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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