April 16, 2018 / 3:33 AM / 6 months ago

コラム:米中対立の予想着地点、株式市場に吉か凶か=村上尚己氏

村上尚己 アライアンス・バーンスタイン(AB) マーケット・ストラテジスト

 4月16日、アライアンス・バーンスタインのマーケット・ストラテジスト、村上尚己氏は、中国が市場開放の方針を保ちながら米国に対峙していることは、株式市場の動揺を和らげる要因になり得ると指摘。写真はトランプ米大統領(写真左)と習近平・中国国家主席。北京で2017年11月撮影(2018年 ロイター/Damir Sagolj)

[東京 16日] - 前回3月のコラムでは、トランプ米政権の保護主義政策が世界貿易戦争に至るシナリオを「テールリスク」と位置付け、その蓋然(がいぜん)性は高まっていないとの考えを述べた。

4月になり、米中間での500億ドル規模の関税引き上げ応酬の直後に、トランプ大統領が1000億ドルの関税引き上げを米通商代表部(USTR)に指示した。これらの報道に米国株式市場を中心に一喜一憂する状況が続いている。ただ、現時点では、どの品目に関税引き上げが及ぶかは不明で、高めのボールを投げ合うような「口撃」の応酬が続いているようにみえる。

確かに、リストの一部品目については、関税引き上げは実現するのだろう。長期的に見れば、1990年代後半から続いた関税引き下げの局面が終わりつつあると言える。

将来新たな経済覇権国となり得る中国の台頭を受けて、米国が関税などでより公平な条件を要求することは、過去20年間のグローバリゼーションが終わるということなのかもしれない。ただ、米国など大国の関税率はすでに2015年からわずかに上昇しており、その意味では、この大きな流れがトランプ政権で強まると捉えるのが正しい見方だろう。

グローバリゼーションが止まることで貿易フロンティアが縮小し、世界経済成長率やインフレ率の長期的なすう勢に影響が及ぶことは考えられる。しかし、米国などの関税引き上げが極めて緩やかであれば、影響はかなり長期の時間軸で捉えるべきだ。

また、米国などの輸出品に高い関税を課している中国をはじめとする新興国については、将来的に関税が引き下げられる余地があるため、世界全体の関税率の行方は分からない。いずれにせよ、米国の保護主義政策やグローバリゼーションは長期の時間軸のテーマであり、ここから1年、2年先の経済成長率、インフレ率に大きく影響する可能性は低いと考えている。

<米関税引き上げより大事な論点>

今後の米中間の関税交渉については、現実的な落としどころを探っていく展開を筆者は想定している。関税引き上げが広範囲に及べば、自国の経済活動に悪影響を及ぼす自傷行為になるため、いずれの政治家も許容しないだろう。そして、部分的な関税引き上げであったとしても、今秋に中間選挙を控えたトランプ政権の政治的パフォーマンスの役目を果たすことは可能だと思われる。

米国は1990年代半ばまで、日本をターゲットに、政治的理由で保護主義政策を繰り出してきたが、貿易制限などの政策は、世界の景気循環を変えるほどの悪影響には至らなかった。また、経済学的には、経常収支はマクロ的な貯蓄投資バランスによって決まるので、保護主義的な通商政策で貿易収支そのものを減らすことは、もともとかなり難しい。

どの程度の関税引き上げが実現するかを予想するのは困難だが、仮に500億ドル規模の関税引き上げが米中双方で実現すると、米中の国内総生産(GDP)成長率に対して短期的に及ぼす影響は0.1%程度と試算される。米国の中国からの輸入については関税引き上げの規模が大きくなる可能性はあるが、それでも2018年に米国の減税による成長押し上げが本格化するため、米国経済が大きく減速するには至らないと判断している。

1年から2年のタイムスパンで、株式、金利の方向を決定する景気循環への影響という観点でより重要なことは、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策が景気抑制的に作用するかどうかである。その点、2018年は利上げの打ち止めにはまだ距離がある。また、前述した通り、米国での財政政策の後押しが成長押し上げをもたらすだろう。

貿易戦争への思惑から米国株式市場は日々乱高下し、ボラティリティー・インデックス(VIX指数)も高止まったままだ。ただ、3月に入ってから、米国の債券・為替市場の値動きは限定的になっている。そして、ドル円は、米国金利に連動する場面が多くなっているようにみえる。貿易戦争の落としどころは不明だが、2018年については経済回復の長期化と緩やかな金利上昇という、年初からのシナリオは変わっていない。米国金利の値動きは、このシナリオが妥当であることを示している。

確かに、関税引き上げなどの保護主義政策は、個別企業の業績を決定的に左右しかねない。そのため、貿易戦争や規制強化懸念で、ハイテク株など割高感が強まっていた米国株式市場の動揺が長引いているのはやむを得ない。それが、米国株式市場と債券・為替市場の値動きの違いをもたらしていると思われる。

また、米国にとって、自国から中国への輸出金額は1500億ドル規模である一方、米国の中国子会社における財・サービスは2000億ドル規模の売り上げとなっている。米国株式市場への影響では、関税引き上げよりも、中国による外国企業への市場開放が続き、グローバル企業が売り上げを増やせるかどうかがより重要になる可能性がある。

その意味で、中国が市場開放の方針を保ちながらトランプ政権に対峙していることは、米国株式市場の動揺を和らげる要因になり得ると考える。

村上尚己 アライアンス・バーンスタイン(AB) マーケット・ストラテジスト(写真は筆者提供)

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。近著に、「日本の正しい未来 世界一豊かになる条件」(講談社刊、2017年11月)。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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