June 19, 2018 / 6:32 AM / a month ago

コラム:市場に新たな不確実性、ノイズか脅威か=村上尚己氏

[東京 19日] - 2018年の金融市場は不安定なままだが、世界経済については、足元までの企業景況感の動きを踏まえれば、米国に支えられて2017年同様の高成長が続いていると判断できる。

 6月19日、アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト、村上尚己氏は、政治情勢などに起因する新たな不確実性が増えており、市場心理の揺らぎに注意を払うべき時間帯に近づきつつあるかもしれないと指摘。写真はドル紙幣、シンガポールで2017年6月撮影(2018年 ロイター/Thomas White/Illustration)

5月のグローバル製造業購買担当者指数(PMI)は53.1と前月から低下したものの、3月からほぼ同様の高水準を維持。米アップルの「iPhone」減産を受けた半導体需要の一服などで3月に低下した後、景況感指数は安定している。2018年初頭までみられた欧州製造業の過熱も落ち着いた。

さらに、非製造業の景況感指数は5月に54.3と前月から2カ月連続で改善。非製造業に対する在庫調整や貿易戦争の影響は相対的には限定的であり、減税による景気押し上げ効果が本格化しつつある米国を中心に、非製造業の景況感は再び上向きに転じる兆しがみられている。

こうした非製造業の状況は米国、中国などの国内需要の底堅さを示しており、製造業での在庫調整による下押しを相殺し、2017年に始まった世界経済の高成長が持続していることを意味するだろう。

<利上げが米景気拡大を妨げる恐れは>

米国の経済指標については、1―3月は個人消費が鈍化したが、4月以降の持ち直しは顕著だ。アトランタ地区連銀の経済予測モデル「GDP(国内総生産)ナウ」などを見ても、4―6月は高成長となる可能性が高いだろう(GDPナウでは、6月14日時点予測で4.8%)。

債券市場における年初来の緩やかな金利上昇は、米連邦準備理事会(FRB)による利上げ継続がもたらしているが、現状その市場の判断は総じて正しいようにみえる。

6月12―13日の米連邦公開市場委員会(FOMC)において、ドットチャート(フェデラルファンド=FF金利の予想分布)や経済成長率の引き上げ、フォワードガイダンスの修正など、いくつかのタカ派的な要因が散見され、金利上昇・ドル高方向に市場は一時反応した。もっとも、パウエルFRB議長の発言などを踏まえると、FOMCのスタンスが利上げに前のめりになっているようにはみえない。

ドットチャートの上方修正といってもメンバーの1人が年4回利上げにシフトしたことによるもので、大きな変化ではない。利上げ継続に慎重なメンバーが半数残っていることが、利上げ判断に影響する可能性もある。

また、今回、失業率の見通しが大きく改善しているが、これは足元の失業率低下を反映させたとみられる。想定される均衡失業率を下回っていることが、断続的な利上げの根拠となり得る。

ただ、パウエル議長は均衡失業率のレンジを広くみている模様で、さらに賃金の伸びが鈍いことに言及している。今後の利上げの判断は、経済指標の動きを重視する、つまり「データ次第(data dependent)」の側面がより強くなるということだろう。

加えて、FF金利がすでに2%近くに達しているが、最近のインフレ率上昇などを踏まえれば、総じて実質金利は依然低い。このため、財政政策の後押しもあって名目経済が拡大している中で、これまでの利上げが米国経済のリスクになる可能性は高くないだろう。FRBによる政策金利上昇が、米国経済の回復を妨げるリスクは低いと筆者は現状考えている。

こうした中で、5月から6月にかけて米国株はじりじりと上昇している。米国の債券市場が織り込んでいるとみられる経済や企業業績などの対比で考えれば割安であったところに、北朝鮮や中東情勢などを巡る地政学リスクが低下するなど、いくつかの不確実性への警戒が和らいでいることが株高を後押ししてきたようにみえる。

<市場心理はやや楽観方向に傾斜気味か>

一方で、米国以外に目を転じると、5月に入り政治情勢などに起因する不確実性を高める要因は新たに増えている。例えば、ユーロ離脱懸念をきっかけに、大きく上昇したイタリア国債金利は高止まったままだ。

また、新興国における政治リスクは「後付け」の側面が大きいようにみえるが、5月初旬ごろからアルゼンチンやトルコなどが資産売りに見舞われたことをきっかけにいくつかの新興国で通貨安が進み、一部の国では中銀が利上げを余儀なくされる事態となっている。

ただ、これらが、底堅い世界経済全体のトレンドを変えるには至らないと当社では現状判断している。

確かに、イタリアの問題はユーロシステム存続に対する疑念をはらんでおり、政治情勢次第で楽観、悲観いずれの方向にも容易に作用し得る。しかし今後、イタリア政府が掲げる拡張的な財政政策に対し、欧州連合(EU)諸国がそれを抑制する方向で政治交渉が行われるとみられる。2010年代初頭までのような債務危機再発が市場のテーマとなる局面はあるかもしれないが、現状ではあくまでテールリスクとの判断でよいだろう。

他方、新興国の通貨安については、米金利上昇の余波が及んでいることが本質的な問題だと認識している。中国経済の安定がアンカーとなり、原油などの資源価格が上昇基調にあるため、2015年時のように新興国地域全体の景気減速が起きる可能性は低いとみている。

もっとも、今後これらの不確実性に起因して、市場心理が揺らぐ可能性はあるかもしれない。米中関税引き上げを含めて、新たな不確実性はいずれもノイズである可能性が高いが、5月以降、特に米国の株式市場ではこれらの不確実性がやや軽視され、若干楽観方向に市場心理が傾いていると言えるかもしれない。

2018年はファンダメンタルズが底堅さを保つ一方で、さまざまな不確実性は予想外に増えている。市場心理の揺らぎが続くことに、やや注意を払うべき時間帯に近づきつつあるかもしれない。むろん、仮に米国などの株式市場の調整があっても春先までの下落と同様に、それは投資機会を提供することになると考えている。

村上尚己 アライアンス・バーンスタイン(AB) マーケット・ストラテジスト(写真は筆者提供)

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。近著に、「日本の正しい未来 世界一豊かになる条件」(講談社刊、2017年11月)。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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