April 15, 2016 / 5:41 AM / 3 years ago

コラム:日銀緩和は十分か、円高阻止の条件=村上尚己氏

[東京 15日] - 4月に入りドル円は110円を割り込む円高ドル安が進んだ。3月までの円高はユーロ高を伴いながら進んでおり、ドル安の側面が大きかった。

ドル安の1つの背景には、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で明らかになったように、FOMCメンバーの主流派が利上げ再開に慎重になったことがある。ドル高や海外経済の停滞が米国経済の足かせになっている点が強調されたことはドル安に作用した。FRBは利上げという正常化を進めながらも、利上げペースについて市場の期待に働きかけることで、為替レートのチャネルを通じ、緩和的な金融政策を実現していると言える。

そして、4月に入りドル円が一時107円台まで円高に動いた数日は、ユーロドルはほぼ横ばいで推移していた。ここからはドル安よりも円高の側面が強かったということになる。

ただ、円高の値動きはファンダメンタルズで説明するのは難しい。4月初めに判明した、3月分の企業景況感指数(PMI)は、米欧中に加えて、新興国の多くで改善した。2014年末からの原油急落による資源セクターの収縮がもたらした製造業の生産調整は、幅広い地域で峠を越えたと見られる。

そうした中、日本企業の景況感だけが、3月調査の日銀短観に示されたように悪化し続けている。これは、2015年から続いた資源セクターの不況が日本企業に与えたダメージが、米国や新興国の企業に比べて相対的に深刻でなかったことの裏返しだろう。日本企業は、米国や新興国の企業と同じ景況復調の流れには乗っていないのだ。

また、2016年に円高トレンドの転換が意識されたことがデフレ再来の懸念を高め、加えて消費増税の痛手で個人消費停滞が続いていることも、日本企業の景況感悪化をもたらしていると考えられる。

<日銀の金融緩和が「小粒」と見なされた可能性>

企業景況感の悪化を反映し通貨安が進めば良いが、2016年に入ってから実際には円高が進み、企業業績予想を低下させ株安を後押ししている。最近の円高をもたらした要因としては、米大統領選挙への思惑や日本の経常収支拡大基調などが挙げられているが、いずれも本質的な要因とは言い難いだろう。

円高を招く確かなメカニズムとして挙げられるのはインフレ期待の変数である。2013年から高まっていたインフレ期待が2015年央から低下し、それが円高を招いていると見られる。

日銀は、2015年末の補完措置導入、2016年1月末のマイナス金利導入と金融緩和を繰り出した。ただ実際には、過去半年のインフレ期待の動きを見ると、金融緩和は十分に行われていなかったと言わざるを得ない。また、日銀の政策は限界に達したなどの見方が散見されるが、それらの言説は定義が不明であり、実際には2%インフレ率実現に金融緩和の程度が足りないということだろう。

事実、2015年に株価は上昇したが、消費増税後のショックが長期化し日本経済の成長率は高まらず、食料とエネルギーを除くコアコアベースのインフレ率も頭打ちになっている。2015年以降の金融財政政策の後押しが不十分だったことを示唆している。

ヘリコプターマネー(実際にお金を空からばらまくのではなく、Money Financed Fiscal Programという減税などの財源にマネタリーベース拡大を充当するポリシーミックス)が政策オプションになり得ることに、ドラギ欧州中銀(ECB)総裁が言及したことが欧州では話題になっている。米国では、バーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長らがヘリコプターマネーについて論じている。このように、総需要安定化策を進化させる必要性が幅広く議論されている中で、日銀の金融緩和強化は、小粒と見なされたのかもしれない。

ドル円下落(円高)が長期化するとの予想は根拠に乏しいが、購買力平価の観点から100円台前半まで円高が進む可能性を指摘する見方がある。確かに、国際通貨基金(IMF)が算出するドル円の購買力平価は103円前後だ。ただ、米国と日本のインフレ率と金融政策の立ち位置を踏まえれば、購買力平価までの円高進行は行き過ぎだろう。

こうした円高シナリオは、2%インフレ実現に程遠い中で日本の金融政策が機能不全となりデフレが再来するシナリオを前提とした議論である。デフレに陥っていた時期、日本では購買力平価よりも大幅な通貨高を強いられていた。デフレから脱却する過程では、購買力平価よりも通貨安な状況を長期化させ、デフレ期待を払しょくする必要がある。つまり、これ以上の円高容認は、アベノミクスの金融政策の根幹が変わることを意味する。

逆に言えば、4月末の日銀の金融政策決定会合は、過去1年ほど続いたドル円下落(円高)トレンドの転換をもたらす「きっかけ」になり得るだろう。また、上述のような100円前後までの円高進行という極端な見方が出てきたことは、円高の潮目が変わるシグナルと筆者は見ている。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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