July 8, 2016 / 6:51 AM / in 3 years

コラム:ブレグジットがもたらす投資機会=村上尚己氏

[東京 8日] - 世界的な株価急落や円高をもたらした英国民投票から2週間が経ったが、欧州連合(EU)離脱派勝利という予想外の結果を受けて、金融市場は依然、不安定なままである。

米国株市場は国民投票の翌週に6月24日の結果判明後の下落分をいったんほぼ取り戻したものの、その後、余波とも言える英国の不動産ファンドの流動性懸念、イタリアの銀行の資本不足問題などが浮上。英国のEU離脱、いわゆるブレグジットに起因する不確実性が意識され、ボラティリティーは当面高止まりするだろう。

当社エコノミストは、ブレグジットを前提として英国を中心に経済見通しを改定した。英国の次期政権の陣容やEU離脱協議の行方が分からない中での予想は困難だが、まず英国経済の2017年の成長率は0.9%まで低下すると予想している。離脱実現までにかなりの時間を要する中で、設備投資や個人消費の減速が見込まれるためだ。

ただし、0.9%という数字が示すように、2017年の景気後退入りはないとみている。根拠の1つは通貨安効果である。

英国民投票の結果を受け、イングランド銀行(英中銀、BOE)のカーニー総裁は早期の金融緩和転換を示唆している。年末までに政策金利はゼロまで引き下げられる可能性が高い。BOEの政策転換は、さらなるポンド安を促すだろう(当社予想では、1.25ドル前後までポンド安が進行)。この通貨安効果がブレグジットによる成長下押しをある程度相殺すると考えている。

<世界経済の安定成長は継続>

では、ブレグジットを受けた世界経済の見通しはどうか。確かに、英国経済との依存関係が強いユーロ圏経済の減速は避けられないだろう。

ただ、想定される英国の成長減速を踏まえれば、2017年のユーロ圏の経済成長率への押し下げはマイナス0.3%ポイントにとどまる。この見通しは、欧州経済の停滞を懸念する他のエコノミストに比べるとやや楽観的な部類に位置づけられるかもしれないが、欧州経済がこの程度の成長減速にとどまれば、米国など世界経済に及ぼす悪影響は自ずと限られる。

米国経済は、2012年に欧州債務危機の影響でユーロ圏がマイナス成長に陥った時も持ちこたえた。しかも、当時よりもユーロ圏の成長率減速はかなり小さい。このため、英国経済の成長減速は長期化するとしても、米国の成長加速と中南米などの成長率の持ち直しで英国と欧州経済の減速は吸収可能だと考える。つまり、2016年春先から持ち直しつつある世界経済の安定成長は、ブレグジットを経ても変わらないと予想する。

また、英国民投票での離脱派勝利というサプライズで実現した世界的な金利低下が、新興国を含めた主要国の金融緩和をもたらすことが世界経済の成長を押し上げる影響も無視できない。英国民投票の結果を受けたBOEの政策転換で、米連邦準備理事会(FRB)の政策も影響を受け、さらにFRB以外の中央銀行の国債購入を含めた金融緩和も長期化しよう。

すでに英10年国債金利は連日で史上最低水準を更新し、7月5日には0.7%台まで低下。米10年金利もそれに連れて一時1.3%台前半まで低下し、同様に最低水準を更新している。ちなみに、米長期金利が最低水準を更新したのは、ブレグジットで世界が変わるという過度な悲観も影響しており、行き過ぎと筆者は考えている。英国が経済的には小国に位置づけられることが(世界のGDPに占める割合は約2%)、冷静に認識されていないように思える。

むろん、英国がEU離脱に動く過程では、欧州の金融機関の資本・流動性不足に対する懸念などを理由として、市場心理が揺れ動く局面もあるだろう。EU離脱を目指す政党の欧州各国での台頭が予想される中で、複雑怪奇な欧州政治の機能不全が表面化するシナリオも想起される。

加えて、金融機関にとってロンドンのシティは特別な存在であり、可能性はともかくその存続を左右しかねないブレグジットが投資家心理に及ぼす影響は大きい。

ただ、これらの思惑で短期的に市場のリスク回避姿勢を強める場面があるにしても、上述したような理由から、世界経済全体の成長率を変えるまでは至らないのではないか。むしろ、ブレグジット懸念に起因する価格形成の歪みが大きくなる可能性があり、そこを捉えて有効利用することが投資パフォーマンスを高める機会になるとみている。

なお、最後に補足すれば、BOEがEU離脱に備え銀行の自己資本比率要件を緩和したことは、金融引き締め的に作用してきた世界的な金融機関に対する規制強化の流れが、今後変わるきっかけになり得ると筆者は考えている。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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