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コラム:米株高に歯止めがかかった本当の理由=村上尚己氏
2017年8月17日 / 06:35 / 1ヶ月前

コラム:米株高に歯止めがかかった本当の理由=村上尚己氏

[東京 17日] - 前回7月20日掲載のコラム株高楽観の落とし穴」では、NYダウが最高値を更新し、米金利は低下するという「株式と債券市場のかい離の拡大」は長続きしないと述べた。その上で、株式市場の調整が先行し、低下していた金利に追いつき、為替市場では短期的に円高ドル安に動くとの見通しを示した。

8月上旬までは米金利は低位安定が続く中で、NYダウは最高値更新が続いたが、8月8日米国時間午後から北朝鮮と米国との間で軍事的緊張が高まり、株高は止まり、10年国債金利は2.2%割れまで低下、ドル円も一時108円台まで下落した。実際、前述した見立て通りの動きとなったわけだ。

市場関係者の間では、8月8日の動きに着目して、米朝関係の緊迫化が米国株調整の理由であり、上昇再開を見込む向きも多いように思われるが、筆者の見方はやや違う。直接のきっかけこそ米朝関係の緊迫化だが、より本質的な理由は先行きの米景気減速に対する懸念であり、やはり「株式と債券市場のかい離の拡大」は長続きしないと考える。以下、その根拠を説明しよう。

<欧州株はすでに下げ基調、米株にも調整圧力>

まず、グローバルの景気指標を概観すると、企業景況感、消費心理などのソフトデータは引き続き高水準を維持、またアジア各国の輸出も前年比2桁前後の伸びを保っている。夏場に入ってからも、企業業績改善が変調を来たす兆候はみられない。北朝鮮リスクの再浮上を受けても米国株市場は最高値圏から2%前後調整しただけだ。

ただし、トランプ政権による大型財政出動の可能性が低下する中で、米連邦準備理事会(FRB)は労働市場改善を理由に金融引き締めを続ける姿勢を鮮明化させている。緩やかであっても金融政策が成長率にブレーキをかけるため、今後、米国株には調整圧力が加わる可能性がある。

また、欧州株市場は5月半ばをピークにすでに下げ基調に転じている。欧州中銀(ECB)の政策転換に対する期待がもたらすユーロ高が、欧州株の上値を抑えている。欧州では景気指標の改善が続いているが、ユーロ高に株式市場が耐えられるほど成長率は自律的には高まってはいないのだ。

<新興国物価も低迷、米欧引き締めは尚早か>

このように考えると、FRBやECBなど先進国中銀の多くは、金融緩和の正常化に前のめりになっているように筆者にはみえる。実際、米国ではソフトデータが堅調でもハードデータはさえないという状況が続いている。特に弱さが目立つのが消費者物価指数(CPI)などのインフレ指標だ。

確かに雇用統計は堅調であり、インフレ指標の弱さは一部の品目の下落という側面もあるが、国内総生産(GDP)などの伸びがさえず需給ギャップが残っていることがインフレを抑制しているとみられる。

インフレ率が高まらないのは米国だけではない。循環的な景気回復が続いている新興国にも共通する現象だ。8月にインド中銀が利下げを再開するなど、ディスインフレ(物価上昇率の鈍化)を受けて、多くの新興国中銀が金融緩和姿勢を強めている。

中国経済の「意外な底堅さ」で世界経済の成長率は一見堅調だが、実際にはグローバルでは米国同様に経済資源のスラック(余剰)がインフレを抑制している可能性がある。そうした中で、労働市場改善やバランスシート正常化などを理由に、FRBなど先進各国の中銀が引き締め政策を続けることは、世界経済の「予想外の減速」をもたらすリスクがあると筆者はみている。

<米朝関係の緊迫化、相場への影響は>

最後に、米朝関係の緊迫化について補足すれば、今後どのような展開をたどるかを見通す力量は筆者にはない。それは、多くの市場関係者も同じではないだろうか。

投資家の不安心理を示すVIX指数(いわゆる恐怖指数)をみると、8月10日に再び17前後まで一時上昇。市場も不安を高めている様子が読み取れる。2016年には、中国景気の先行きに対する懸念の高まり、英国の欧州連合(EU)離脱決定、米大統領選挙を材料に、VIXが20台まで跳ね上がったことがあったが、今年に入って17前後まで届いたのは4月の北朝鮮リスク浮上、5月のトランプ政権とロシアの癒着問題(ロシアゲート疑惑)紛糾に続いて3回目だ。北朝鮮を巡って「何が起こるかわからない」という意味では、VIXが再び20台に向けて上昇しても不思議ではないだろう。

中国対米国のパワーゲームとして朝鮮半島情勢を考えると、このゲームに参加するプレーヤーは多岐にわたるため、今後のシナリオの不確実性はきわめて高いと言わざるを得ない。

中国による経済制裁が一段と強化されれば緊張関係は高まるだろうし、ロシアゲート疑惑がくすぶる中で不安定な政権運営を余儀なくされているトランプ大統領が外交・軍事面で一段と強硬な姿勢に出るリスクもある。そして、何より瀬戸際外交を続けている北朝鮮の出方が読めない。

いずれにしても、予断を持つのは賢明ではなく、米朝関係を材料にした取引は、いわずもがな、ハイリスクとなろう。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。著書に「日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?」(ダイヤモンド社、17年2月)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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