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コラム:トランプ相場「復活」期待の落とし穴=村上尚己氏
2017年9月16日 / 05:23 / 6時間前

コラム:トランプ相場「復活」期待の落とし穴=村上尚己氏

[東京 16日] - 前回8月17日掲載コラムでは、米株高が止まった背景には、北朝鮮情勢に加え、米国経済減速リスクに対する懸念があると述べた。この直後に、主要メンバー辞任によるホワイトハウスの混乱があり、米国株は下落。そして、いったん反転したものの、9月3日に北朝鮮が核実験を行うと、再び軟調に転じた。

ただ、懸念された北朝鮮建国記念日は無難に通過、国連安全保障理事会において経済制裁に関して米国が譲歩案を示し軍事衝突懸念が後退すると、S&P500指数は9月12日に年初来高値を更新した(15日は初の2500台乗せで終了)。筆者の想定とは異なり、北朝鮮情勢などを理由に金融市場が一喜一憂する展開が続いている。

一方、米10年金利は9月12日から上昇したが、まだ2.2%前後の低い水準にある。米国では、景気指標は8月まで企業景況感を中心に改善が続いてきたものの、大型ハリケーンによる被害で9月に下ぶれることはほぼ確実だ。

もっとも、ハリケーンによる経済活動停止があっても、それはその後の復興需要で相殺され、年末までの期間でみれば米経済にとってはニュートラルである。2005年に襲来したハリケーン「カトリーナ」も当時回復途上にあった米経済への影響はほぼなかった。

米10年金利が2%に接近するまで大きく低下したのは、北朝鮮情勢の緊迫化とハリケーン到来という予想外の出来事が重なり不確実性が高まったことで説明できるだろう。ハリケーンに関する報道の落ち着きなどで、債券市場が冷静を取り戻せば、長期金利がやや上昇するのは当然と言える。2018年まで米連邦準備理事会(FRB)による利上げがないとする市場の織り込みは、やや行き過ぎていたかもしれない。

<FRBの低インフレ警戒は変わらず>

では、最高値を更新する株高に追随して、米10年金利は上昇に転じるのか。米消費者物価指数(CPI)は変動の大きい食品・エネルギーを除くコアベースで2017年3月から5カ月連続で前月比プラス0.1%未満の停滞となっていたが、8月に同0.2%の伸びに高まった。

ただ、FRBの12月利上げに対する期待が首の皮一枚つながった程度だろう。8月の個人消費支出(PCE)物価指数の前年比はなお1.3%程度とみられ、FRBが低インフレを警戒する状況は変わらないと筆者はみている。

エコノミストの多くは、年末までのCPI上昇転換を予想している。実際、米経済については減速しているのは自動車、住宅市場など一部に限定され、全体でみれば4―6月には3%成長に加速した。また、ハリケーンの被害で労働市場も一時的に悪くなるが、失業率の低下基調は変わらない。

とはいえ、想定されるハリケーン復興のための局所的な政策対応だけでは、成長率は持続的には高まらないだろう。むしろ、これまでのFRBの利上げや金融機関に対する規制強化などから、米経済は減速する可能性が高いと筆者はみている。また、労働市場は完全雇用にあると言われているが、米国を含めて世界経済のスラック(余剰)は大きい。そのため、成長加速がなければインフレ率・賃金が高まらない状況は長期化する可能性がある。

確かに、国際商品市況に目を転じれば、7月になって中国経済復調に対する期待から、銅を中心に貴金属価格の上昇が続いていたことは事実だ。これは、新興国主導での世界経済の再加速を示している可能性もある。

ただ、4―6月にかけて景気が加速したのは、2016年までの比較的大きなリセッションからリバウンドしたブラジルやロシア、そして資源国であるカナダなどに限られている。8月の中国の輸出や設備投資にはやや減速の兆しがみられ、世界経済を押し上げるほど新興国経済が回復しているようにはみえない。9月8日発表の中国貿易統計を受けて銅価格が急落したが、世界景気再加速のシグナルは今後消えていくとみている。

<「米金利上昇でドル高円安」は期待薄>

もちろん、トランプ政権が公約通りに拡張的な財政政策を打ち出せば、金融市場の状況はこれまでと大きく変わってくるだろう。2017年初までみられたトランプ相場の復活である。

債務上限問題については、民主党議員と協力して12月までの先送りが実現した。また、政府債務上限を定める法案についても、トランプ大統領が民主党議員と協力し成立を目指す新たな動きもみられる。

これは、トランプ政権が拡張的な財政政策を発動させる観点では望ましいと評価できる。大規模な拡張財政政策実現の可能性が今後高まる展開も想定できなくはない。

ただ、均衡財政を主張する共和党議員らと政治的にどのように折り合いをつけるかは全く不明であり、実現可能性は低いと考えられる。

一方、経済政策の司令塔であるコーン国家経済会議(NEC)委員長とトランプ大統領の関係悪化を示唆する報道が流れている。フィッシャーFRB副議長の突然の辞任表明にも、何かのメッセージがあるのではないかと邪推できるだろう。

そして、米紙の報道が正しいかは不明だが、次期FRB議長の有力候補だったコーン氏就任がなくなったとされている。トランプ大統領や共和党との「相性」を主たる理由に次期FRB議長が選ばれる可能性が高まっていると言える。これらは、米経済政策への市場の疑念を高める要因となろう。

このようにプラス・マイナス要因を勘案すると、米経済の上ぶれ余地が限られ、またトランプ政権への疑念が高まりやすい状況は、なかなか変わらないと思われる。すなわち、米長期金利の上昇余地は限定的であり、為替市場でのドル高円安基調への転換も期待しづらいということだ。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。著書に「日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?」(ダイヤモンド社、17年2月)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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