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コラム:総選挙後のアベノミクスと日本経済シナリオ=村上尚己氏
October 2, 2017 / 1:54 AM / 3 months ago

コラム:総選挙後のアベノミクスと日本経済シナリオ=村上尚己氏

[東京 2日] - 安倍晋三首相は9月25日に行った記者会見で、9月28日招集の臨時国会冒頭に衆議院を解散し、10月10日公示、22日投開票で総選挙を実施すると表明した。9月中旬からメディアで報じられていた通りの展開となり、首相は今回の解散総選挙を「国難突破解散」と位置付けている。

一方、解散表明の当日に、小池百合子・東京都知事が希望の党を正式に立ち上げたことで、今回の総選挙の主たる対立軸は「安倍vs小池」にシフトしたように見える。すでに9月半ばから解散が現実味を帯びる中で、最大野党である民進党議員が希望の党へ合流するだけではなく、民進党自体が希望の党に合流するような動きを見せるという驚きの展開が報じられている。

これで、自民・公明の連立与党がどの程度の議席を確保するかを予想するのは難しくなった。だが、希望の党などの野党が得票を増やしても、与党が勝敗ラインである過半数を割り込むような展開は想定しにくい。よって、選挙後も安倍政権による経済政策運営が続くと筆者は想定している。以下、その前提で、アベノミクスと日本経済の行方について考察したい。

<株式には若干ネガティブ>

まず、安倍首相が「国民の信を問う」とした経済政策プランを前提に、今後の政策運営はある程度予想できる。報道によれば、2019年10月実施が予定される8%から10%への消費増税の使途変更によって、増収分約5.6兆円の半分程度である約2兆円を「人づくり革命」に充てるとした。

2兆円の使い道に関してある程度判明しているのは、幼児教育・保育無償化など子育て支援の1兆円強だ(内訳は3―5歳児7300億円、0―2歳児4400億円)。ただ、所得制限を設けるとほぼ半分の規模までこの再分配は縮小する。

さらに、残り約1兆円の使い道については、年末にかけての予算編成で決まるとみられるが、これが家計への再配分になるかどうかは不明である。このため増税時の経済的なインパクトは現時点では確かではないが、増収分約5.6兆円分のうち、仮に2兆円分の家計への再分配などが実現すれば、2019年10月から3.6兆円、国内総生産(GDP)比で0.6%の緊縮財政政策である。

2014年には8兆円規模の消費増税がほぼダイレクトに緊縮財政となり、2014年度のGDPはマイナス成長となったが、その半分弱の緊縮財政政策が2019年度後半に実現することになる。

この安倍政権の姿勢を踏まえると、2018年から拡張的財政政策を行う可能性は極めて低いと考えられる。2018年は最大でも中立財政、実際には今後策定される補正予算は大規模に膨らまず、そして年度予算策定で防衛費などの限られた歳出増にとどまり、引き締め的な財政政策に再び転じるとみられる。こうした意味で、今回の総選挙を通じてはっきりした安倍政権の経済政策運営は、日本の株式市場にとっては若干ネガティブに作用することになる。

<景気回復頓挫は杞憂>

ただ、景気回復を頓挫させるほどの緊縮財政には至らないだろう。すでにこれまでの安倍政権の政策姿勢などからはっきりしていたが、消費増税の使途変更と同時に、プライマリー収支黒字実現を先送りすることを今回明確にした。もともと、2020年時点でのプライマリー収支黒字化は経済的には全く意味がないと筆者は考えている。経済情勢に応じて緊縮財政の程度を調整するのは妥当な政策であり、それを安倍政権は今後実行していくということだ。

また、2014年に強烈な緊縮財政となっても、日本経済は短期間で再び回復途上に戻ったが、これには日銀が金融緩和政策を徹底し続けたことが大きく貢献した。2014年の半分以下の緊縮財政であれば、日銀による金融緩和政策によって対処可能と、安倍政権は認識しているとみられる。

そして、2019年後半からの緊縮財政のネガティブインパクトを前提にすれば、日銀による金融引き締め政策への転換は、2020年以降になる可能性が高いと筆者は予想する。

むろん、安倍政権が今後、実際どのように財政政策を運営していくのかについては、不透明な部分は大きい。2019年10月からの消費増税を前提にすれば緊縮的な財政政策が想定されるので、先にも述べた通り、日本の金融市場にとってややネガティブ要因だ。ただ、実際の政策運営次第では、さらに大きなネガティブ要因になり得るし、逆にポジティブに転じる可能性もあると筆者はみている。

というのも、今後の政策判断は、政治経済情勢次第で変わり得るからだ。そもそも、安倍政権が今回掲げた消費増税の使途変更は、総選挙勝利のために示された側面が大きいように思われる。

<最悪シナリオ到来の条件>

まず、ネガティブインパクトが大きくなるケースを考える。実際に子育て支援による制度改革が所得制限で5000億円前後の再分配にとどまり、残り1.5兆円分が追加的な歳出とならず、年間予算などに含まれて扱われることになればどうなるか。

この場合、5兆円規模の恒久的な増税となり、緊縮財政が始まる2019年後半以降、日本経済は2014年同様に再びマイナス成長に陥るだろう。これは、2014年の消費増税の悪影響を見誤ったのと同様の失敗だが、そうなるかどうかは「人づくり革命」を実現する遂行能力を官邸が持っているかどうか次第である。

より深刻なのは、2018年4月8日に任期満了となる黒田東彦総裁の後任人事を含む次の日銀執行部の人選の結果、金融政策スタンスが変わってしまうリスクだ。そうであれば、2019年の緊縮財政に対して十分な金融緩和政策が実現しないことになる。

ただ、安倍首相は9月27日のテレビ番組で「黒田総裁はしっかり仕事をしていただいている」「(金融政策で)雇用が195万人増え、有効求人倍率が1倍を全都道府県で超え、正社員も1倍を超えた」などと語った。これらの発言を踏まえれば、金融政策スタンスの変更は可能性が低いリスクと位置付けられる。いずれにせよ、総選挙後に判明する日銀執行部人事によって、この点は判断するしかない。

なお、仮に今回の総選挙で与党が敗北すれば、日銀執行部人事が2012年のアベノミクス以前に戻る、という筆者にとって最悪のシナリオが到来する可能性は極めて大きくなる。

<財政拡大に転じる可能性>

一方、財政政策が景気刺激的に転じる真逆のシナリオもあり得る。まず、2019年の消費増税の判断については、約1年間の時間が残されている。安倍首相は9月26日夜のテレビ番組で、「(2008年の)リーマン・ショック級の事態が起こらない限り(10%へ)引き上げていきたい」と語った。

2016年半ばに消費増税を先送りした時には、英国の欧州連合(EU)離脱が世界経済の大きなリスクになることなどを理由に挙げていた。2018年に北朝鮮情勢などを理由として、消費増税判断を先送りすることは想定できるのではないか。この場合、教育無償化という制度改革のための財源として、教育国債が新たに発行されることになるだろう。

また、国内の政治情勢も消費増税の判断に影響するだろう。今回の解散総選挙が国内政治情勢に及ぼす変化で最も大きいのは、希望の党が野党第一党になり得ることだと筆者は考えている。

希望の党は確たる経済政策の理念を持っているようには見えないため、信頼に足る経済政策運営を期待するのは現状難しい。ただ、最大野党が消費増税に慎重な姿勢を示していることは、2018年の安倍政権の政策運営に影響する可能性がある。同じく増税に反対している維新の党を含め、2018年になってから消費増税に対する世論・政治情勢は変わり得るだろう。

ちなみに、党が存続するかどうか、もはや分からなくなっている最大野党・民進党が掲げる政策を見ると、教育無償化など安倍政権の政策と重なる部分が多くなっている。

ただ、民進党は「金融政策の対案としてはマイナス金利の撤回の必要性を強調し、日銀の異常な国債購入による財政ファイナンスをやめさせる」と公約の素案で示すと報じられている。金融緩和政策により過去4年半以上の景気回復が実現したことを無視または軽視した議論であり、対案として成立するものとは思えない。

このため、希望の党が最大野党になれば、日本の経済政策についての論戦が多少なりとも健全化する可能性がある。それは日本の金融市場にとってはポジティブだろう。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。著書に「日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?」(ダイヤモンド社、17年2月)など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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