February 16, 2018 / 2:27 AM / 6 months ago

コラム:「バブル崩壊」は大げさ、米成長上振れへ=村上尚己氏

[東京 16日] - 2月2日の米雇用統計(1月分)発表以降、米国株は連日急落し、年初から楽観的なムードに包まれていた金融市場の景色は一変した。米国株市場が、1日に4%の大幅下落となったのは2011年以来である。

ボラティリティー低下にベットし積み上がっていたポジションの損失が株安を後押し、さらにテクニカルシグナルの点灯を受けて始まったプログラムトレードが値幅を拡大させたとみられる。

ボラティリティーという「新たな資産クラス」のブーム崩壊が、株価急落を引き起こしたのであれば、それは局所的なバブル崩壊が起きたと位置付けられるだろう。仮に、この新たな金融資産の急落が経済活動や金融システムに今後波及すれば、今回の株価急落は「本格的なバブル崩壊」になるのだろうが、そのシナリオは現段階ではかなり蓋然(がいぜん)性が低いと筆者は認識している。

<トランプ政権のポジティブサプライズ>

最近の米国株の急落場面で、企業業績や経済動向に関する材料は株式・債券市場にほとんど影響せず、株価指数のテクニカルラインやバブル崩壊を経験したVIX指数の値動きに、株式・債券の価格が翻弄されているように思われる。仮に、こうした金融市場の値動きが、ファンダメンタルズからオーバーシュートをもたらすなら、アクティブな投資家にとって貴重な投資機会になるだろう。

例えば、市場関係者が米国株市場の値動きに一喜一憂していた最中の2月9日、米国で予算法案が上下両院の可決、トランプ大統領の署名によって成立したことは大きな材料だが、金融市場の反応は限定的だったようにみえる。

確かに、「政治ショー」の側面が大きい政府機関閉鎖の有無はイベントとは言えず、予算法案成立で閉鎖が解除されたこと自体は大きなニュースではない。ただ、今回の超党派の予算法案は、米国経済の今後にとって重要な政策転換である。裁量的経費に関する歳出上限が引き上げられたことで、特に2019年会計年度(2018年10月から2019年9月)に大幅な歳出拡大が実現する可能性が高まった。

具体的には2018―19年の2年間で歳出上限が3000億ドル引き上げられ、これは各年の国内総生産(GDP)の0.7―0.8%に相当する。タイムラグがあるため歳出拡大は2018年半ばから顕在化するとみられ、また引き上げられた歳出上限のうちどの程度が歳出拡大につながるかについては不透明な部分は残るが、トランプ政権が歳出拡大実現に踏み出したと言える。

昨年末に決まった1980年代以来の大型減税に加えて政府支出拡大を同時に実現することで、米国の財政政策は明確に拡張方向に転換したことになる。ムニューシン財務長官は2017年の就任当初から3%の経済成長を目指すと公言し続け、筆者を含めほとんどの市場関係者が政治的に実現するのは困難とみていたが、減税と歳出拡大で2018年に米国経済の高成長が実現する可能性が高まっている。

むろん、トランプ政権の経済政策の中には、自らの支持基盤のために主要な貿易相手国に対して強硬な通商政策をとるという明らかに妥当ではない政策もある。だが、ムニューシン財務長官、コーン国家経済会議(NEC)委員長が司令塔になっているとみられるマクロ安定化政策の手腕については、筆者は2017年後半からポジティブに評価してきた。そして、教条的に均衡財政にこだわる共和党議員との折衝を経て、減税政策に続いて歳出拡大を実現させたことは、2018年以降の米国の経済成長、インフレ押し上げをもたらすとみられる。

当社エコノミストは昨年12月から、2018年は米連邦準備理事会(FRB)による4回の利上げを想定していた。拡張的な財政政策によって、経済成長率が上振れる可能性が高まっていたからである。2月になって米国で株価が急落する中、2018年のFRBの利上げ回数を2、3回程度と予想していた複数のウォール街のエコノミストが、4回利上げに見通しを修正している。財政政策発動の可能性を低く見積もっていたため、成長率、利上げの想定について上方修正を迫られているわけだ。

<多くの債券市場参加者が見誤っていた点>

トランプ政権が踏み出した拡張的な財政政策については、財政赤字拡大などの弊害を指摘する見方がメディアでは目立つ。また、ウォール街ではトランプ政権に対して批判的な見方が依然優勢だ。

確かに、仮に米国の経済資源のスラック(余剰)が枯渇していれば、拡張的な財政政策はインフレを高めるだけの効果しか持たず、そうした懸念通りにトランプ政権の政策は失敗するだろう。

ただ、経済が完全雇用に至らず経済資源のスラックが残っていれば、拡張的な財政政策により、総需要が拡大するので、税収が増え、そして財政赤字拡大も抑制される。筆者は、米国経済は完全雇用には依然距離があると判断しており、減税と歳出拡大は成長率を拡大させ、インフレをやや押し上げると予想している。

2018年に入ってから、長期金利の上昇ピッチが速まった一因は、トランプ政権による拡張的な財政政策に関する懐疑的な見方が覆されていることに求められるだろう。2017年半ばから3%前後の高成長が続く米国において、2018年に財政刺激策が始まれば高成長が続き、これまでのようなインフレ率が停滞する状況が変わるのは必然である。経済成長に対する悲観論者が目立つ債券市場の参加者の多くが、この点を見誤っていたと筆者は考えている。

そして、米国債券市場の参加者は、昨年から見方が180度変わり、1月後半からは長期金利上昇の行き過ぎを警戒しているようにみえる。成長悲観論者ほど拡張的な財政政策の弊害が気になるので、今度は大幅な金利上昇を警戒するということだろう。

ただ、米国経済に成長余地がないのであれば、拡張的な財政政策は弊害でしかないが、今後潜在成長率が上方修正される余地を含め財政政策で高成長となれば、それは妥当な経済政策となる。つまり、成長率が高まりインフレ率も緩やかに上昇するので、2017年までの異常に低い金利環境が「正常化する」と位置付けられる。

政治的には、共和党の守旧派を押し切って、妥当な経済政策を実現し、国民の支持を得られれば、トランプ政権は点数を稼ぐことができる。

また、ドイツのメルケル政権は、拡張的な財政政策を主張する社会民主党(SPD)と大連立を組むことになった。米欧各国で拡張的な財政政策が経済成長を高めるのであれば、米欧の債券・為替市場が大きく動くのは必然とも言える。

なお、脱デフレに一番遠く、そして経済資源にも余裕がある日本こそ、拡張的な財政政策の必要性が各国よりも高いことは、改めて指摘するまでもない道理だろう。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。近著に、「日本の正しい未来 世界一豊かになる条件」(講談社刊、2017年11月)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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