March 16, 2018 / 5:26 AM / 4 months ago

コラム:世界貿易戦争と米ドル安政策の幻影=村上尚己氏

[東京 16日] - 前回2月16日付のコラムでは、同月初旬の米株急落を受けた「バブル崩壊」との市場関係者の見方は行き過ぎであり、アクティブ投資家にとっては貴重な投資機会になるとの見方を示した。

その後、3月初旬にはトランプ米大統領が、鉄鋼・アルミニウムの関税引き上げを発表し、株価が再び下落する場面があった。2月初旬の株安は主に長期金利上昇や、ボラティリティー・インデックス(VIX指数)の安定に賭けたポジションの解消が引き起こしたものだったが、3月初旬はそれらに加えて、トランプ政権の保護主義政策が世界的な貿易戦争を招くリスクが意識された。

しかし、この3月初旬の下げが二番底となって、米株市場は反転。トランプ政権が掲げる関税引き上げは、外交交渉のツールとなっている側面が大きく、それ自体が持続的な懸念材料とはならなかったのだろう。

実際、金融市場の動揺は数日にとどまった。3月12日にはナスダック指数が最高値を更新、VIX指数は15付近まで低下するなど落ち着きを取り戻しつつある。

ちなみに、筆者自身は、米国の保護主義政策が世界貿易戦争につながる可能性を、「テールリスク(確率は低いが、発生すれば甚大な影響を与えるリスク」と位置づけているが、そのリスクが最近になって高まっているとは思わない。

また、市場の不確実性要因がやや薄れる中で、3月9日に発表された米2月雇用統計では、雇用者数が大幅に増える一方で、賃金は緩やかな伸びにとどまっていたことが示された。経済成長とインフレのバランスが保たれたことを受けて、金利の緩やかな上昇と株高が後押しされた。

不確実性要因に集中していた市場の関心が、ファンダメンタルズや米連邦準備理事会(FRB)の金融政策スタンスに戻る兆しがみられるのだ。

<2017年より増える投資機会>

米国経済の今後については、特に2月の株急落後、一部で悲観論が強まっているようだが、筆者の見方はほとんど変わっていない。

4回の利上げが必要になるほど、成長率は財政拡大によって高まるだろう。だが、2017年まで停滞していたインフレ率が大幅に上昇し始めるほどの過熱を経済や労働市場が示すまでにはまだ距離があると思われる。

この筆者の見方が正しければ、トランプ政権が打ち出す通商政策や政治材料が市場心理を悪化させる局面は、投資機会とみなすことができる。経済ファンダメンタルズが変わらない中で、トランプ政権の不確実性がもたらす株価下落は投資リターンを高める機会となるからだ。

こうした投資戦略の根幹は、実は2017年から変わっていない。ただ、平穏だった2017年の金融市場の状況とは異なり、ボラティリティーが高まり市場が動揺する回数は増えるだろう。逆に言えば、投資機会も増えるということだ。

ただでさえ、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、中国に対する関税引き上げ、米朝首脳会談の行く末など思いつくだけでも材料は目白押しである。

また、選定が遅れているFRB副議長人事、辞任したコーン米国家経済会議(NEC)委員長の後任人事(トランプ氏の長年の友人といわれるカドロー氏を指名)も、それぞれがリスクになり得る。2019年以降の経済政策運営の舵取りを危うくする火種かもしれない。ただ、それでも2018年中であれば、今後顕在化する財政政策の後押しを受けた良好な経済環境が、金融市場の追い風になり続けるとみている。

検討すべきリスクは2つだろうか。まず、トランプ政権が財政のアクセルを踏み財政赤字を拡大させながら、関税引き上げなどの強硬な通商政策を繰り出す経済環境で、FRBの金融政策が、成長率とインフレ率の双方を安定化させ続けられるかという点だ。確かに、この点は、2017年以前よりも難しくなっている。

2点目は、トランプ政権の保護主義政策が、ドル安をもたらしているという見方が為替市場で強まっていることだ。一部品目に対する保護主義政策と(明確には存在していない)為替政策を結びつける見方に説得力はないと筆者はみているが、特に日本の為替市場関係者は1990年代までの米政府によるドル安誘導政策のトラウマが大きいのだろう。

ただ、2点目について言えば、日本や欧州だけでなく、米国自体にとっても望ましいのは、緩やかなFRBの利上げと整合的なドル高だ。前述したように米国は経済成長とインフレのバランスを保つ必要があるが、足元のドル安が、安定しているインフレを上ぶれさせる要因になりつつある。1点目のリスクを回避するためにも、ドル安は答えではない。

加えて、そもそもかつて米政権がドル安政策を採用していた時期には、米経済は停滞していた。周知の通り、現在の状況は正反対であり、今後も米経済の好調は続く見通しだ。ドル安が長期化する可能性は低いだろう。実際、対ユーロでは、ドル安は2月中旬以降、止まっている。

<日本経済が抱える最大のリスク>

最後に、日本について言い添えれば、2018年前半は北朝鮮情勢に絡む軍事リスクのみを気にすれば良いと考えていたが、3月になって森友問題で再び安倍政権に対して逆風が吹く予想外の展開となっている。決裁文書に関わる財務省の不祥事が安倍政権の痛手となり、政治情勢が見通しづらくなっているのは事実だ。

今後想定される政治シナリオは、日本経済の将来にとって、楽観、悲観のどちらの方向にも展開し得ると考える。だが、これまで判明した情報を踏まえれば、問題となっている森友学園との土地取引の経緯そのものは、2017年までに明らかになったこと以外の事実は見当たらない。現状は今後の官邸の対応によって対処可能な政治情勢だと認識している。

なお、日本経済や株式市場にとって現在の最大のリスクは、総需要安定化によって経済成長率を底上げし、2%のインフレを目指す安倍政権の政策レジームが変わることだと筆者はみている。

現状、安倍政権と同様の経済政策運営を積極的に継続する意思がある有力な政治家は、自民党の中でもかなり少数だ。日本経済が抱える最も大きなリスクの1つといえるだろう。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。近著に、「日本の正しい未来 世界一豊かになる条件」(講談社刊、2017年11月)。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below