May 14, 2018 / 2:24 AM / 4 months ago

コラム:株高再来か、トランプリスクの呪縛が解ける日=村上尚己氏

村上尚己 アライアンス・バーンスタイン(AB) マーケット・ストラテジスト

 5月14日、アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト、村上尚己氏は、米国株市場について、「トランプリスク」の呪縛が解ければ、1月末の高値を年内にトライする可能性が高いと予想。写真は4月16日、米フロリダ州ハイアリアで演説するトランプ大統領(2018年 ロイター/Kevin Lamarque)

[東京 14日] - 米国の株式市場は、米中間で関税引き上げの応酬があった4月初旬が二番底となり、その後持ち直した。筆者が3月のコラムで指摘したように、米中関税引き上げが経済活動全体を阻害するとのシナリオは「テールリスク」であるという冷静な認識が増え、過度の悲観は和らぎつつあるようだ。

その後公表された米企業の1―3月期決算は総じて好調で、増益率は前年比プラス25%前後に上方修正された。だが、「堅調な企業業績・経済指標」と「トランプ米政権の通商外交政策に起因するさまざまなリスク」の綱引きが続き、米国を中心に世界の株式市場は4月後半以降、年初とほぼ同水準でこう着している。

一方、米10年国債金利は2月中旬まで上昇した後、3月以降の株安を背景に低下していたが、4月後半から上向きに転じ、同月末には年初比で50ベーシスポイント(bp)高となる3%台まで上昇した。

為替市場では、4月後半以降からの米金利上昇によって、対ユーロを中心にドル高が進み、ユーロドルは1.200ドル付近と年初のドル高水準を回復。ドル円も、「米中貿易戦争」のヘッドラインが踊った3月から4月初旬に100円割れの円高リスクを指摘する為替アナリストの声が大きくなったときが円高のピークとなり、5月初旬には110円に一時タッチするなどドル高になっている。

トランプ政権の通商政策を「貿易戦争」と表現するのはメディアなどによる誇張の部分があり、また通商政策と為替政策を直接結びつけることは適当ではないと、筆者は従来から考えている。やはり、トランプ政権の経済政策が、持続的なドル安をもたらすとの見方は的外れだったのではないか。

拡張的な財政政策によって米国の成長率、インフレ率が上昇している状況を踏まえれば、ドル安よりもドル高が経済安定を重視するトランプ政権にとっては望ましいと筆者は考えている。

<パウエルFRBの巧みな「かじ取り」>

さて、米10年国債金利は足元で、年初と比べて約50bp高い3%手前で推移しているが、この長期金利上昇は、米国の利上げが年4回に達するという見通し(当社は昨年末から予想)が、米国債市場で浸透したことを示していると言えよう。

筆者は、財政政策による後押しもあり米経済の堅調な成長は長期化すると予想している。金融市場でも、インフレ上昇とそれを前提とした米連邦準備理事会(FRB)の金融政策スタンスおよび米経済の堅調さが正確に反映されるようになってきたのだろう。

原油価格が1バレル=70ドルの大台に上昇するなど、年初からの原油価格の予想外の大幅上昇が米金利上昇の1つの要因だが、イールドカーブは若干ではあるがフラット化している。つまり、インフレ期待は緩やかに上昇したが制御されたままだ。2月からパウエル新議長が舵(かじ)取りを担うFRBは金融市場の信認を保ちながら、これまでのところ金融政策を巧みに運営し続けていると評価できる。

なお、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明文では2%のインフレ目標が「対称的」であることが明記され、ウィリアムズ次期ニューヨーク連銀総裁(現サンフランシスコ地区連銀総裁)らは、短期的にインフレが2%を上振れることを許容する発言を行っている。

これは、FOMCで議論されてきた物価水準目標のフレームワークを限定的に実践し、ある程度のインフレ上振れを許容する市場へのコミュニケーションの一環だろう。利上げを進めながらインフレ上振れを許容して景気に配慮するFRBの姿勢は、リスク資産にとってポジティブに作用する可能性がある。

<米株は年後半にかけて高値トライへ>

もちろん、米中関税引き上げ、中東などを巡る地政学情勢、予想外の原油高など、世界の株式市場の上値を抑えている不確実性は多数存在する。これらの要因が、2017年から続く世界経済の高成長を抑制して企業業績が下振れれば、年初とほぼ同じ水準でこう着している株式市場の値動きは正当化される。

実際、独センティックスの投資家調査によれば、グローバルの投資家信頼感指数は2月に金融危機後の最高水準である30.0を付けた後、「貿易戦争」への懸念の高まりなどを受けて、3月23.5、4月18.8と大きく低下した。5月には19.4と下げ止まったが、投資家の疑心暗鬼は晴れていない。

ただ、債券・為替市場では、3月ごろから「貿易戦争」に関するヘッドラインへの反応は、株式市場と比べて限定的になっているようにみえる。上記の不確実性が経済活動にもたらす影響が軽微ならファンダメンタルズは不変であり、高めの経済成長とインフレ上昇を反映して上昇している米金利の値動きは正当化される。

筆者は、米国債市場の値動きが、経済ファンダメンタルズをより正確に評価していると考えている。この見方が正しければ、2018年は高い経済成長が続きインフレ上昇が実現する中で、米企業業績は年後半にかけて堅調に伸びるとの期待が今後広がるのではないか。よって、「トランプリスク」に対して依然として身構えを崩さない米国株市場も、ここから年後半にかけて今年1月末の高値をトライする可能性が高いとみている。

ちなみに、3月のグローバル製造業購買担当者景気指数(PMI)が大幅に低下したことなどを受けて、世界景気減速の疑念が浮上したが、4月の同指数は53.5と前月からやや上昇している。3月分のサーベイ指数低下は、過熱気味だった欧州製造業の落ち着き、「iPhone」減産を受けた半導体需要の一服、「貿易戦争」への懸念などが重なったことが影響したとみられる。

4月の景況感指数の下げ止まりを踏まえれば、総じて企業景況感は底堅さを保っている。製造業に加えて、非製造業でも4月に景況感は持ち直しており、これらは2017年以降の高成長が足元まで持続していることを示唆している。

<米金利上昇で景気腰折れは杞憂>

では、これまでの米金利上昇が、米経済にブレーキをかけるリスクはどうか。この点、筆者は、米国の潜在成長率はあまり低下していないと考えており、2%インフレに近づく中での、3%前後の長期金利水準は米経済の大きな足かせにはならないとみている。足元までの金利上昇であれば、拡張的な財政政策による成長押し上げが上回るだろう。

FRBによる四半期ごとの「銀行上級貸出担当者調査」では、大企業への融資基準DI(「強化」と「緩和」の回答割合の差)は1年以上で緩和超が続いており、株価が調整する中で年初から「緩和度合い」がわずかながらも強まっている。これまでのFRBの利上げは、金融機関の貸し出し厳格化を通じて景気抑制的に作用していない。

最後に、最近の米金利上昇とドル高が新興国経済にショックを与える可能性について考えておきたい。確かに、高インフレまたは経常赤字である一部新興国は5月になってから、大幅な通貨安に見舞われている。振り返れば、米長期金利が3%付近まで上昇した2014年にも、新興国通貨安などが起きた。

だが、まずドル高と言っても、年初の水準にドルインデックスが戻っただけだ。また、2014―15年は中国経済の失速と原油価格急落が起きて、新興国の経済ファンダメンタルズが大きく崩れていたが、現在は中国を中心に経済は総じて安定している。加えて、産油国は原油高の恩恵を受けることになる。米金利上昇が新興国経済に及ぼす影響は限定的にとどまるのではないか。

村上尚己 アライアンス・バーンスタイン(AB) マーケット・ストラテジスト(写真は筆者提供)

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。近著に、「日本の正しい未来 世界一豊かになる条件」(講談社刊、2017年11月)。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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 5月14日、アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト、村上尚己氏は、米国株市場について、「トランプリスク」の呪縛が解ければ、1月末の高値を年内にトライする可能性が高いと予想。写真はニューヨーク証券取引所で、2016年12月撮影(2018年 ロイター/Andrew Kelly)

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