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コラム:米国経済のリセッションは起こるのか=村上尚己氏
January 21, 2016 / 7:03 AM / 2 years ago

コラム:米国経済のリセッションは起こるのか=村上尚己氏

[東京 21日] - 年明けからの世界的な株価急落は2015年8月同様、中国をめぐる不確実性の高まりがきっかけとなった。また、それまで総じて底堅かった米経済指標の事前予想比下振れが相次いだ15日以降、米10年金利は2%を下回る領域に入っている。

1月前半まで株式市場などに比べて冷静だった債券市場においても、米利上げの一時停止だけではなく、企業業績悪化の長期化あるいは米国を含めた世界経済のリセッション(景気後退)局面を想定する領域まで、市場の疑念が高まっている。

確かに、中国など新興国経済の減速が続き、海外経済の停滞や原油安の余波が15年末にかけて強まっていたことが、米国の鉱工業生産や輸出の停滞として表れている。在庫投資などが成長率の押し下げ要因となり、15年10―12月には2%を大きく下回る低成長になったとみられる。

こうした中で、米経済のリセッション入りのリスクを伝える報道が増えている。09年以降の世界の金融環境を支えた米金融政策の転換によって、不確実性の高まりで市場が荒れるのはやむを得ないにしても、景気後退に至るリスクは本当に高いのだろうか。

<海外ショックに起因する米景気後退は考えにくい>

米連邦準備理事会(FRB)は、13年末の量的緩和(QE)縮小決定から14年10月のQE停止までにほぼ1年かけ、15年末の利上げ開始までさらに1年待ったにもかかわらず、後知恵では時期尚早の政策転換だったかもしれない。ただ、1990年代以降の日本とほぼ同様、利上げ後に景気後退に陥り、事実上ゼロ金利の状況がさらに長期化するのだろうか。

筆者は、こうした「米国の日本化」を危惧する上記のような見方をメインシナリオには据えていない。米国はデフレからほど遠い位置におり、このようなリスクシナリオの蓋然性は低いと考えている。16年の世界経済については、米経済を中心とした安定成長を予想している。

確かに典型的な景気サイクルでは、実質金利が高まり、それが景気引き締め的に働き、景気は後退局面に転じる。ただ米国では、利上げを開始したものの、実質フェデラルファンド(FF)金利はマイナスの領域にあり、実質長期金利もほぼゼロ近傍に近い。経済全体にとっては、実質金利の水準が景気抑制的に働く可能性は低く、むしろ総需要を刺激する方向に働く局面にあると考えている。

一方、クレジット市場におけるスプレッド拡大やドル高が、米国企業の設備投資に抑制的に働いた側面はある。FRBがQE拡大を止めたことが原油価格の大幅下落のきっかけになり、資源関連企業の生産・設備投資削減を招くなど直接的なダメージを与えた。また、社債市場を通じて企業部門の資金調達コストにも影響、景気抑制的に働いた。13年まで続いたFRBの金融緩和の手仕舞いが、商品市況ブームに終止符を打ち、資源関連企業や新興資源国の成長率を屈折させる経路で、15年の米経済のブレーキになったことは事実だ。

ただ、果たしてエネルギー・資源セクターを震源とした製造業の調整が、米経済全体の基調を変えて景気後退を招くほどのインパクトをもたらすのだろうか。先に述べたように、14年末から歴史的な原油急落の悪影響がブレーキとして作用したものの、米経済では15年を通じて、個人消費は3%近い伸びを保ち、資源関連を除けば設備投資も伸び、国内総生産(GDP)成長率は2%台半ばを維持したとみられる。

15年12月の米小売売上は暖冬の影響が色濃く出てネガティブサプライズとなったが、10―12月の個人消費の伸びは減速したとは言っても、2%前後の伸びを保っている。また、12月までの労働市場や家計への景況サーベイは改善が続いており、15年秋口までと状況は大きく変わっていないとみられる。

景気後退は、実質金利の大幅上昇を伴いながら、不動産や株式市場などの価格上昇で蓄積されていた金融的な「不均衡」が崩れ、ブームの崩壊とともに起こるケースが多い。だが、米国において経済全体の循環を転換させるほど、潜在的な「不均衡」がこれまで発生していた可能性は低いように思われる。

確かに、シェールガスなどエネルギーセクター領域でのブーム的な投資拡大で、資金調達は増えた。また、ハイイールド市場で拡大したクレジットスプレッドの動きから、ブーム崩壊が指摘されている。だが、資源セクターに限定された局所的な動きであり、経済全体に波及する経路は限られているだろう。

もちろん、先に示した波及経路でFRBの金融政策転換が、海外経済や商品市況下落を通じて、米経済への下押し圧力を増幅する方向にはある。そのため、米利上げペースが鈍る可能性は高まっているとは言える。

また、中国経済の急失速などが、米経済への下押し圧力になる可能性もある。ただ、11年後半から債務危機で欧州経済がマイナス成長になった時も、米経済は持ちこたえた。実質金利が潜在成長率を超えて高まらない中で、海外のショックが主因となり、米国が景気後退に陥ったケースは1960年代以降ない。つまるところ、米経済のリセッションは、現時点では蓋然性の低いリスクシナリオの範疇を超えていないように思われる。

*村上尚己氏は、米大手運用会社アライアンス・バーンスタイン(AB)のマーケット・ストラテジスト。1994年第一生命保険入社、BNPパリバ、ゴールドマン・サックス、マネックス証券などを経て、2014年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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