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コラム:ユーロ高でドル円上昇か、中国がつなぐ線=高島修氏
December 7, 2017 / 5:30 AM / in 4 days

コラム:ユーロ高でドル円上昇か、中国がつなぐ線=高島修氏

[東京 7日] - 2017年のユーロドルの底堅さは長期トレンドがユーロ安からユーロ高に転じたことを物語る。とりもなおさず、それは2011年以降続いた長期ドル高局面が終わったことを意味する。

ドル円相場については、2017年前半の円高を経て、年後半はこう着相場に陥るものの、2018年は120円に達するドル高円安が発生すると筆者は年初来見込んできた。ドルの長期トレンドが上昇から下落に転じたなかで、そうしたドル円強気見通しを維持できるかが今、問われている。

<ユーロドルと金利差の関係に変化>

ユーロドルのトレンド転換を確認する上で重要なのが金利差に対する感応度だと考えている。米独10年金利差はユーロドルの最も重要インディケーターであるが、その決定力に最近、衰えが見られる。

ユーロ高ドル安傾向が明確になった2017年4月以降、9月にいったんのピークをつけるまでのユーロドルと米独金利差の相関図を見ると、その決定係数は0.8を超えている。その間、両者の間には金利差が1%変化すると、ユーロドルが0.38ドルほど動くという関係(感応度)が成立していた。

例えば、2016年半ばに欧米の市場金利が長期的な底入れとなった後、2017年4月までの相関図を見ると、決定係数はやはり0.8を超えていたものの、1%当たりの金利差変化に対するユーロドルの感応度は0.11ドルにすぎなかった。2017年春から秋にかけて、ユーロドルの金利差への感応度は従来の3倍以上に膨らんだのだ。

一方、ユーロドルが9月に1.20ドル台でピークアウトした後、12月初旬までの相関図を見ると、サンプル数が少ないことが難点だが、決定係数は0.3台に下がり、感応度も0.08ドルに落ち込んでいる。これは9月以降、金利差がドル有利に再拡大しているにもかかわらず、ユーロ安ドル高が進んでいないためだ。つまり、秋口までのユーロ高ドル安局面では金利差へ過敏な反応が見られた反面、それ以降は感応度が低下しているのである。

通常、こうした非対称的な反応は、相場が上昇トレンドにあるなかで発生する。金利差以外の要因によって、大きな流れが下落から上昇に変化したため、米独金利差がユーロ有利に縮小する時には過敏にユーロ高方向へ反応する反面、金利差がドル有利に拡大する時には反応が鈍ってしまっているのだ。

<経常黒字から生じるユーロ高圧力が表面化>

ここでは詳しくは説明しないが、筆者が定期的に更新しているユーロドルのファンダメンタルズモデル(決定係数0.93)は5つの説明変数から成り、そのなかで最も強力な決定要因はやはり米独10年金利差である。

だが、そこからのユーロドルの上振れや下振れは常に発生し、そのかい離を有意に説明できるのが、欧米の経常収支格差と新興国の外貨準備増減などだ。近年、増加の一途をたどってきた経常黒字は着実にユーロ高圧力を加えてきたと考えられるが、2016年末までは新興国の外貨準備が減少し、ユーロ安圧力を加え、経常黒字から生じるユーロ高圧力を相殺していたとみられる。

というのは、新興国の外貨準備マネージャーは通常、自国通貨を売ってドルを買い、準備高が増える時には通貨アロケーションを維持するために、主要国通貨間では、買ったドルをユーロやポンド、豪ドルなどに対して売り戻すことが多い。反面、ドルを売って自国通貨を買い、準備高が減る時にはユーロやポンド、豪ドルなどを売ってドルを買い戻す傾向があるからだ。

中国が2017年、通貨防衛策の軸足を為替介入から金融引き締めにシフトし、2016年まで減少基調をたどった中国や新興国全体の外貨準備は緩やかな増加に転じた。つまり、新興国の外貨準備が従来のドル買い(ユーロ売り)からドル売り(ユーロ買い)に転じたことで、ユーロ圏の経常黒字から生じるユーロ高圧力が素直に表面化するようになったと思われる。

これが2017年にユーロドルが金利差に対して非対称的な変化を示すようになった理由と考えられ、同時にユーロドルの長期トレンドが下落から上昇に転じたことを示唆しているとも思われる。

<ポジティブ・サイクルの発生>

ここで生じたユーロ高ドル安は一種のポジティブ・スパイラルを発生させつつあると考えられる。

というのは、2016年までのように、ドルが対ユーロを中心に上昇基調にある時には、基本的にドルリンクの人民元がユーロや円、韓国ウォンをはじめとしたアジア通貨に対して割高化し、中国は国際競争力を失う。その回復のために、2015年8月の唐突な元切り下げのように、中国が対ドルで元安誘導を始めるとの思惑が高まりやすい。

その結果、中国からの資本流出圧力が強まり、外貨準備は減少。それに伴って通貨アロケーション操作によるドル買い、他通貨売りがユーロ安ドル高に拍車をかけ、新たな元切り下げ観測を生み、中国の外貨準備に対するさらなる脅威となる。

一方、今年のように、ドルがいったん対ユーロを中心に下落基調をたどり始めると、元切り下げの必要性は後退し、中国からの資本流出圧力は弱まる。外貨準備の減少に歯止めがかかり、その結果、通貨アロケーション操作に伴うドル買い、ユーロ売りが減る。

場合によっては上記のように、外貨準備が増加に転じることでドル売り、ユーロ買いが行われるようになる。こうしてユーロ高ドル安が定着すると、市場の元安観測は封印され、中国の外貨準備に対する圧力は完全に軽減される。

2016年末の「トランプラリー」によるドル高とそれに伴う資本流出圧力に直面し、2017年初頭には中国は金融引き締めによる通貨防衛と外準防衛に追い込まれた。そうした中国の引き締め策が長期化すれば、中国経済のみならず、新興国を含めた世界経済全体にネガティブに影響しようし、原油・資源需給にも悪影響が及ぼう。

実際、2017年の春先にかけては中国株が急落し、原油や銅など資源相場も値崩れした。この間、118円台で頭打ちとなったドル円はリスク回避の動きで108円まで下落することになった。足元で中国の経済統計に下振れが目立ち始めたのも、年初の金融引き締めなどの影響がファンダメンタルズ面でも表面化しているものと考えられる。

ただし、上記の通り、春先以降は対ユーロでのドル安が明確になり、元安も止まった。そうしたなか、今までのところ中国当局が追加的引き締め策を迫られるような状況にもなっていない。それを好感した中国の株式市場は安定化し、資源相場も底入れ。海外でも、米株市場が史上最高値の更新を続ける力強い上昇トレンドに復帰した。ドル円がジリ高傾向を強めたのもこのころだ。いかに全般的なドル安(とそれに伴う人民元相場の安定)が、世界的なリスクオンに貢献するのかがうかがえる(逆に言うと、ドル高がいかにリスクオフを発生させやすいのかも理解できる)。

しかも、米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長の後任にはハト派と言われるパウエル理事の昇格が決まった。くしくも、パウエル氏は10月に中国企業の過剰債務問題を重視する講演を行ったばかりだ。

市場は「パウエル新議長」をドル安要因と見なしているようで、筆者も対ユーロを中心にドル全般についてはその見方を否定するものではない。だが、その結果、中国発のリスク回避の発生が避けられるのであれば、質への逃避的な円高が発生する可能性は後退する。

さらに米株高などリスク選好の改善が続けば、それが今度はFRBの緩やかな引き締め方針をより確固たるものとし、ドル円にも追い風に転じてくるはずだ。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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