February 8, 2018 / 3:24 AM / 5 months ago

コラム:日米株急落後のドル円シナリオ=高島修氏

[東京 8日] - ダウ工業株30種平均は5日、1000ドルを超えて下落し、史上最大の下げ幅を記録。翌6日の日経平均株価も1000円を超える値下がりとなった。その後のダウの下げ止まりで、負の連鎖はいったん止まったが、(8日はダウが再び1000ドル超下落し)、年初からの株高で盛り上がった強気ムードは一転して慎重論に置き換わりそうだ。

今回の株価調整は長期上昇トレンドの中での健全なスピード調整にすぎないと筆者は考えているが、為替相場にとって重要なことは、これをきっかけとして、昨年初から1年ほど続く、ドル全面安の流れに変化が生じるかもしれないということだ。

<よみがえるブラックマンデーの記憶>

今回の米株急落で筆者が想起したのは1987年10月のブラックマンデーだ。この時、ダウは前営業日から500ドル超下げ、下落率は一日で20%を超えた。この株価下落の一因に挙げられたのが、米連邦準備理事会(FRB)議長の交代であり、当時、カリスマ的なリーダーシップを発揮していたボルカー氏から、まだ知名度の低かったグリーンスパン氏に指揮官が変わったことで、その手腕を不安視する雰囲気が市場で支配的になっていたと言われる。

その年の8月に就任したグリーンスパン議長は9月に行った利上げを早々に巻き戻した。ブラックマンデー当日の緩和措置を含め、翌年2月にかけて断続的な利下げを行い、米経済と株式市場の立て直しに成功。その後、長期間にわたって株高と金融市場の安定を演出することになり、終盤にはマエストロ(名指揮者)の称号を得るまでに至った。

今回、ボルカー議長からグリーンスパン議長へ移行した直後に起こったブラックマンデーと同じように、イエレン議長からパウエル議長への移行期に大規模な株価調整が発生したことは興味深い類似例とは言える。

だが実は、筆者が今回の米株安でブラックマンデーを想起したのは、このことが主な理由ではない。より注目したのは米国と欧州の金融政策・通貨政策で生じた不協和音だ。

今回の米株下落をトリガーしたのは、米金利上昇の先行きに対する不安感だと言われる。その米金利上昇を加速させる一因になったのは、1月24日に米財務省のムニューシン長官が世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で行った、失言とも思えるドル安歓迎発言とそれを受けたドル安の加速、並びに輸入インフレに対する警戒感の高まりだった。

<ドラギECB総裁の反撃>

このムニューシン発言に烈火のごとく、怒りを表明したのが欧州中銀(ECB)のドラギ総裁だった。25日の理事会後の記者会見では、昨年10月に米ワシントンで開かれた国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会の際、国際通貨金融委員会(IMFC)で各国が競争的通貨切り下げを回避する合意を再確認したことを強調。その上で「ECB以外の誰かのコミュニケーションがIMFCの合意を遵守しないことから為替相場が変動した」と、暗にムニューシン長官を名指しして、猛抗議した。筆者の記憶では、近年、これほどむげに米国の財務長官が非難されたことはない。

ドラギ総裁としては、昨年からFRBともコミニューケーションを密接にとりつつ、ある程度のユーロ高を甘受しながら、欧州での金融緩和縮小に道筋をつけ、同時にドル安で助かる米国の金融正常化を側面支援してきたという思いが強いはずだ。そうした中、年初から1.25ドルまでユーロ相場が急騰する折に、米財務長官からドル安を加速させたいかのような発言が出たことで、過去1年の努力が裏切られたとの思いが強まったのだろう。記者会見でのユーロ高けん制発言(ムニーシン長官批判)にはそうした口惜しさがにじみ出ていた。

実は1987年のブラックマンデーの際にも、米国と欧州で金融政策・通貨政策の不協和音が強まっていた。同年2月にはルーブル合意で、85年プラザ合意以降のドル安に歯止めをかけることで一致。FRBが金融引き締めを始めていたにもかかわらず、本来、金融緩和を期待されていたドイツ連銀がインフレを警戒し、金融引締めを実施したのだ。

この時はベーカー米財務長官がドイツの非協力的な姿勢を批判した後、週末をまたいだ2日後にブラックマンデーが発生した。結局、ドイツ連銀はグリーンスパンFRBの金融緩和とそれによるドル安の継続を受けて、金融緩和に転じることを余儀なくされた。

<米国のドル安政策は不発>

今回、攻守が逆転する格好となるが、言わば「国際公約」に反した言動の修正を求められるのは米国側だろう。それでなくとも、ダボス会議でのドル安歓迎発言の後、米金利上昇を加速させ、今回の米株急落を招いたことで、国内事情的にも米通貨当局が明示的にドル安政策をとることは極めて難しくなった。

ムニューシン長官の後に、ダボス会議でドル高政策の継続を示唆する発言を行ったトランプ大統領にすれば、今回の株安は自らの失点というよりは、財務長官(によるドル安歓迎発言)こそがその責を負うべきという話になろう。

パウエル新議長率いるFRBとしても、ユーロ高(ドル安)をここまで受け入れてきたドラギ総裁率いるECBに借りがあると感じているだろうし、何より、米市場金利上昇の背景に、米当局のドル安放置姿勢とそれがもたらす輸入インフレに対する不安感があるのだとすれば、今回の株価調整を過度に警戒して利上げを見送るよりも、イエレン体制下での緩やかな金融引き締め方針を承継していると行動で示すこと、すなわち3月米連邦公開市場委員会(FOMC)では市場で予想されるように利上げを実施することが望ましい選択肢となるはずだ。

仮にその結果、短期的に市場金利が中短期ゾーン中心に上昇し、株価が再び調整したとしても、新議長は債券市場の信認を得る第一歩を踏み出し、長期金利に引きずられた市場金利上昇に陥ることを回避。米金利上昇に対する不透明感を和らげることで、最終的には株式市場の安定にも貢献することができるはずだ。

このように、ブラックマンデー当時と今回の違いは、FRB新議長に求められるのが利下げではなく、利上げだということだ。

<日銀の政策変更はより困難に>

今回、ムニューシン長官のドル安歓迎発言の他に、ドル安と米金利上昇を加速させ、米株調整をトリガーする要因になったのは、1月9日の国債買い入れオペ減額を端緒とした「日銀が金融緩和策を修正する」という憶測の高まりと、米中間で貿易摩擦が強まる中、「中国が米国債投資を減らす」という見方の台頭である。

恐らく潜在的に最も影響力が大きいのは、中国による米債投資削減であり、これが事実ならば、米金利とドルの関係は抜本的に変化する恐れがある。つまり、従来のような、米金利上昇がドル高を招くという単純な構図は成り立たなくなり、この数カ月、その兆しがあるように、米債売りが米金利上昇を招き、ドル安につながるとの関係に変質するだろう。ここは米中貿易摩擦や北朝鮮問題などの影響も受けるため、所与の要因として受け入れていくしかあるまい。

ただし、米国のドル安政策と並び、日銀による金融緩和の縮小は、もし本当に中国要因によって、米金利やドル、ひいては米株が不安定化するような事態になった場合、実行することが難しい選択肢となる。特に日銀は辛抱強く、現在の金融緩和を続け、世界の金利アンカーとして役割を担い、少しでも債券投資家に安心感を与えることが、求められることになろう。

今回の日米株価調整で、海外勢を中心に高まった日銀の緩和縮小に対する期待感は抜本的に修正を余儀なくされることになる。この数カ月で急増した海外ファンド筋の円ロングの持高調整は、市場環境が正常化した後のドル反発を特に対円で強く表面化させることになるはずだ。

*情報を追加して再送します。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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