April 13, 2018 / 4:53 AM / 3 months ago

コラム:双子の赤字で米ドル安は本当か=高島修氏

高島修 シティグループ証券 チーフFXストラテジスト

 4月13日、シティグループ証券チーフFXストラテジストの高島修氏は、巷間聞かれる「双子の赤字で米ドル安」論について、経常赤字については必ずしも正しくないと指摘。写真はシンガポールで2017年6月撮影(2018年 ロイター/Thomas White)

[東京 13日] - 実は2月以降、全体としての米ドル安は一服している。その間も下げ続けたドル円も3月後半からは下げ渋るようになってきた。とはいえ、為替市場では依然としてドル弱気派が優勢だ。

思い起こせば、1年ほど前、市場ではまだドル高論が支配的だった。2016年11月の大統領選後の「トランプラリー」の印象が強烈だったため、昨年初めにはトランプ大統領が目指す財政支出拡大が米金利上昇を促し、ドル高要因になるとの見方が強まっていた。

その頃、欧米市場では「トランポノミクスは第2のレーガノミクス。つまり長期ドル高だ」との論調さえ聞かれた。これは大統領選前に支配的だった「トランプ大統領ならドル売り」との見方を180度覆すものであり、正直な話、その時、筆者はその節操のない見通し修正に思わず、苦笑してしまった。

<財政赤字に関しては答えは「イエス」>

ただ、それから1年あまり、対ユーロを中心にドル安が続いたことで、市場ではドル高派は一掃され、すっかりドル安派が大勢を占めるようになったようだ。

こうした中で、最近ちらほら聞かれるようになってきたのが、「双子の赤字でドル安」論である。昨年12月の「トランプ減税」で米財政赤字が膨らむことに加え、米国の内需拡大が輸入の増加とそれに伴う経常赤字の拡大につながる公算が大きくなったからだろう。

今ではレーガン政権時代(共和党)についても、ドル高だった任期前半ではなく、1985年のプラザ合意後にドル安が進んだ任期後半、つまり双子の赤字論が横行した時期との共通点に着目した議論が台頭してきた。これまた極端な変化であり、再び苦笑いしてしまう。こうした市場の見方に対して、「双子の赤字でドル安」論に対する筆者の答えは、半分イエス、半分ノーだ。

ドル指数と米財政収支の過去の推移を対比させると、ドル相場の長期トレンドは米財政収支と方向性が一致する傾向にあることが指摘できる。しかも、ドル長期トレンドの転換点は政権交代期と重なることが多かった。これは政権交代で財政政策が変化することの反映だと考えられる。

その意味では、今回、昨年1月にトランプ政権(共和党)が誕生し、積極財政策によって米国の財政赤字が拡大する公算が大きくなったタイミングで、2011年頃から続いていた、オバマ政権(民主党)下での長期ドル高トレンドが終えんし、足元に至るまでの調整局面を迎えたことは、象徴的な変化だったと言える。

過去にも、2001年にホワイトハウスに入ったブッシュ大統領(共和党)の下で大型減税が実施され、米国の財政収支が悪化を始めると、クリントン政権(民主党)時代の長期ドル高が終えんし、ドル安トレンドが始まった例もある。こうした点を考慮すると、「双子の赤字でドル安」論は、財政赤字に関しては、答えはイエスということになる。

<「経常赤字=ドル安スパイラル」ではない>

一方、ドルは経常赤字とその時々のトレンドを一致させる傾向は示さない。例えば、米経常赤字は1990年代を通じてほぼ一貫して拡大を続けたが、その間、財政収支が改善する中、ドルはクリントン政権時代の通貨高期を迎えた。上記の通り、そのドル高が終えんしたのは、2001年にブッシュ政権が誕生してからであり、その後8年間は財政赤字が拡大する中で持続的なドル安期となった。

あえて経常赤字との関係を指摘するならば、その時、米国の経常赤字は国内総生産(GDP)比3%を上回って拡大。つまりプラザ合意前の高水準を超え、最終的には2006年に同6%近くまで膨らむことになった。過去実績の範囲を超える赤字拡大が市場で不安視され、執拗(しつよう)なドル安の背景となった。

筆者の記憶に生々しいのは、2007―08年ごろには、市場の中では「いくらドル安が進んでも米国の経常赤字は減らない。従ってドル安が永遠に続く」といった極論まで出てきたが、ちょうどそうした極端な悲観論が出てきたところでドルは大勢底をつけた。

それに対して、今回、米国の経常赤字はGDP比ではまだ2%台にとどまっている。金額で見ても、2006年には8000億ドルを超えた米経常赤字は昨年、4500億ドル程度だった。ちなみに、米国の名目GDPはこの間、13兆ドルから19兆ドルへと拡大している。

2000年代に1980年代の実績範囲を超える赤字拡大となったことが不安心理を高めたように、今回も名目GDP6%に達した2006年ごろを超える経常赤字拡大となれば、深刻なドル安スパイラルを発生させるかもしれない。

だが、今回の局面では、プラザ合意前後のGDP比3%を超えるかどうかも怪しいところだ。経常赤字によるドル安を警戒するのは、少なくともその金額が2006年ごろのピークである8000億ドルを上回り始めてからでも遅くはない。

そもそも、筆者は米国の経常赤字の大小を経済規模比で語ること自体に懐疑的だ。それは、米経常赤字をファイナンスする海外経済や海外市場の規模との対比で量るのがより妥当だと考えるからだ。

例えば、世界の名目GDP(除く米国)との対比で米経常赤字を見ると、1985年前後に1.5%前後、2000年代に2%前後だったものが、足元は1%を下回ったままだ。この観点に立てば、米経常赤字そのものがドル安スパイラルを発生させるような状況からはほど遠いと言うことができる。

<年内に10%のドル反発もあり得る>

財政赤字がドル安圧力を生むメカニズムにも注意が必要だ。例えば、今回と同じように、大型減税を実現させたブッシュ政権の上記の例で言えば、2001年以降、確かに財政赤字拡大とともにドル安が進行した。だが、史上まれに見る政府債務が積み上がる日本の例に着目しても、財政事情の悪化がそのまま通貨価値を決定的に傷つけるものではない。

では、当時、著しいドル安が進んだのはなぜかと言うと、ITバブル崩壊で米経済が失速し、「ブッシュ減税」以外でも歳入が減ったり、景気支援のため思わぬ歳出が増えたため、財政赤字が雪だるま的に拡大。米国債の需給環境は急激に悪化した。そのような中で、米連邦準備理事会(FRB)が景気刺激のために果敢な金融緩和を行い、米国債利回りが引き下げられることになった。

つまり、財政赤字拡大で発行が増え、需給環境が悪化した米国債は金利面でも投資妙味が薄れたのだ。こうした中で、海外勢にとっての投資妙味を回復させるために、為替相場でドル安が進行したことは今となってみれば、自然なことのように思える。

その時とは対照的に、今回の「トランプ減税」の局面では、米経済は堅調を維持しており、スパイラル的な財政事情の悪化は考え難い。それに加え、FRBは利下げどころか、利上げを遂行しているところであり、米国債の投資妙味は薄れるどころか、むしろ増してきている。

筆者はなにも「双子の赤字がドル高的だ」と言いたいわけではない。確かにそれはドル安要因だとは認識している。だが、上記の通り、双子の赤字を理由に以前のようなドル安を見込むのは無理があり、最近のように双子の赤字を理由にドル弱気論を展開する市場参加者が出てくると、どうしても、いったんはドルの反発局面を見込みたくなってしまう。

折しも、米企業は「トランプ減税」の一環で成立した海外留保利益の減免制度を活用して、海外で保有していた資金を米国に戻す動きを見せ始めている。だが、「ドル弱気」がファッションになった今の為替市場では、マクロファンドなど海外短期筋を含めて、誰もがこの動きを見て見ぬふりをしようとしている。年末に向けて10%ほどのドル反発が起こっても驚くには値しないだろう。

高島修 シティグループ証券 チーフFXストラテジスト(写真は筆者提供)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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