August 9, 2018 / 5:28 AM / 4 days ago

コラム:人民元安の後に来る「リスクオン相場」の足音=高島修氏

[東京 9日] - 米中による貿易戦争が熾烈化する中、人民元安が進行中で、中国株の値崩れも目立つ。特にハイテク株への依存度が高い深セン株式市場は2015年初来の安値圏にまで下落している。

 8月9日、シティグループ証券・チーフFXストラテジストの高島修氏は、現在の人民元安は中国の景気刺激策を反映したものであり、リスクオン的な要素として捉えることが妥当になってきたと指摘。写真は中国人民元と米ドル紙幣。北京で2016年1月撮影(2018年 ロイター/Jason Lee)

この中国市場の混乱を横目に、市場で渦巻くリスク回避志向はなかなか払拭されずにいる。

だが、今回の人民元安とそれを促している中国政府・当局による大胆な金融緩和策が、中国最大の懸念材料だった資本流出問題を引き起こしていないことを思えば、数カ月後にわれわれが目にするものは、失速気味だった中国経済の回復と、資源国・新興国を中心とした世界的なリスク選好の回復ではなかろうか。

この7―9月期のドル円は7月につけた113円台の高値を上限に、引き続きレンジ色の濃い展開が続きそうだが、今年10―12月期から来年1―3月期にかけてはその水準を超えるドル高円安が進行する可能性が強まると見込んでいる。

<予想外の人民元安>

白状するならば、筆者にはこの間、人民元に絡んで、いくつかの誤算があった。1つは予想以上の人民元安が進行したことだ。通貨バスケット制を建て前とする人民元の対米ドル相場は従来、ユーロドルとほぼ並行的に変動してきた。

そのユーロドルは2月に1.25ドル台の高値をつけた後、5月には1.15ドル台まで値崩れした。その時点で人民元は対米ドルで6.3元台で推移していたが、2017年以降の両者の関係から推察するに、筆者はざっと6.6元前後まで元安が進行する事態を警戒していた。

そうした中、6月のシンガポールでの米朝首脳会談の直後にトランプ大統領が対中関税政策の実施を表明。米中貿易戦争の勃発が明確になった6月中旬以降、中国では金利低下が鮮明になった。

その時点での人民元安進行には筆者はあまり強い違和感は覚えていなかった。だが、人民元相場は7月後半に入ると、6.7元台に続落し、今月は2016年末につけた6.9元台の安値に迫る下落となってきた。3カ月前にはまさかここまで急激な人民元安が進行するとは考えていなかった。

<予想外に起こらない資本流出>

筆者にとってもう1つの誤算は、ここまで急激な人民元安が進行しているにもかかわらず、中国から海外への資本流出問題に火がついていないことだ。中国は3年前の2015年8月に突如、人民元切り下げを発表した。当時も上海株が急落するなど、中国経済の減速懸念が高まっていた。

日本もそうだが、ある国が景気刺激に動く時には通貨安は欠かせない。その意味では、3年前に中国が人民元切り下げという通貨安政策に踏み切ったことは経済政策としては正しい選択肢だった。

ただ、それは思わぬ副作用を生んだ。中国の通貨当局はその時、人民元切り下げの理由として、事実上、ペッグしている米ドルが通貨高になったことで、人民元がユーロや円、韓国ウォンなどアジア通貨に対して割高化し、国際競争力を失っていることを強調した。そのため、先々の人民元安を警戒した中国国内外の投資家(含む預金者)が金融資産を中国から海外へシフトさせ始めたのだ。

正確な数字は分からないが、ある試算に基づくと、2015年後半の中国から海外への資本流出額は月々10兆円を超えていた模様だ。これは昨年の日本貿易黒字額(年間約4兆円)の2倍を超える。当時の中国からの資本流出がいかに凄まじかったかが分かろう。

この資本流出とそれに伴うさらなる人民元安という負のスパイラルに中国政府が当初は為替介入で対処したため、2014年に4兆ドルに達していた外貨準備は2016年には3兆ドルまで急減することになった。

最終的にはその頃から中国は資本規制の強化と、米国を上回る金融引き締めによって人民元安と資本流出に歯止めをかけた。その時に中国政府・当局は相当な恐怖を味わったと思われ、再び資本流出を引き起こしかねない人民元安には相当、慎重だろうと筆者は思っていた。だが、実際には上記の通り、中国は6月以降、金融緩和によって急激な人民元安を促してきた。

しかも、それにもかかわらず、今回は現在までのところ目立った資本流出の兆しはうかがえない。外貨準備もそれを裏付けるように、6月、7月と緩やかな増加を示している。金融緩和策を用いて人民元安誘導を図ることは、筆者には極めてリスキーなゲームに思えたが、実際には中国はそれを断行し、そればかりか、現在までのところ予想外にうまく状況をコントロールしているのである。

昨年7月に香港経由で中国本土の債券市場に投資する「債券通(ボンドコネクト)」が創設されるなど、海外から中国への投資フローの流れが従来よりも多様化したことが、こうした大胆な策を可能性にさせているのかもしれない。

<中国株底入れは米中間選挙後か>

こうなってくると、少なくとも中期的には人民元安が世界市場に与える影響について、筆者の従来の考えを改める必要がありそうだ。

つまり、筆者は従来、人民元安は資本流出問題、ひいては中国による引き締め措置を引き起こす、リスクオフ的な要素と捉えてきた。だが、現実的には現在の人民元安は中国の景気刺激策の反映であり、リスクオン的な要素として捉えることが妥当になってきた。

思い起こせば、3年前の2015年8月に実施された突如の人民元切り下げにしても、その時こそ中国や海外の株式市場を下落させるなど、リスク回避的な反応を生んだが、それを契機に中国の経済政策が景気抑制から景気刺激に変化したことが、最終的には世界的にも原油安など2015年のリスクオフ相場から2016年以降のリスクオン相場への転換を促すことにつながった。

今回の中国の緩和策と人民元安が今年後半から来年にかけて中国国内外で同じような景気刺激効果をもたらすのではなかろうか。急落・低迷してきた銅や鉄鉱石を含め資源相場もここにきて底入れの兆しが散見されるようになってきた。実際、8日に発表された中国の貿易統計(7月)では、銅や石炭など資源輸入(数量)が力強い回復を見せた。

もしこの解釈が正しければ、4月以降調整局面にある新興国市場も2016年に急反発したブラジル市場のように回復傾向を強めることになろう。豪ドルなど資源国通貨も持ち直し色を強めていくはずだ。2015年の例で言うと、8月の人民元切り下げの後、中国株が底入れしたのは約半年後の2016年2月だった。

今回、人民元安が鮮明になったのが5―6月だったことを思うと、今年11―12月ぐらいが中国株底入れの時期として意識される。これは米国で中間選挙が終わるタイミングと重なる。

もちろん、トランプ大統領が容易に貿易戦争を終結させることはなかろう。実のところ今回、トランプ政権は高関税政策で中国に貿易戦争を仕掛けるだけでなく、現在、中国を念頭に米国企業への投資を制限する法案の検討を進めている。欧州でも最近、ドイツが中国からの投資の制限に動き始めた。

一方、中国は米ハイテク企業クアルコムによるオランダ企業買収に許可を下さず、その実現を阻んだ。先般、習近平国家主席からの強い要請で、中国のハイテク企業・中興通訊(ZTE)の制裁を解除したトランプ大統領としては煮え湯を飲まされた思いだろう。

もはや、米中関係の緊迫化は貿易戦争にとどまらず、投資を含めた経済分野全般に広がり始めている。米国と中国は単なる通商摩擦ではなく、産業覇権を巡る争いを始めている。だが、こうした長期的な懸念がくすぶる中でも、中間選挙という、いったんのクライマックスを過ぎれば、市場は不透明感が後退したと解釈し、リスクオフからリスクオンへの切り替えを進めていくのではなかろうか。

高島修氏(写真は筆者提供)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです筆者の個人的見解に基づいています。

(編集:麻生祐司)

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