March 25, 2016 / 4:46 AM / 4 years ago

コラム:「98年の悪夢」脱出へ、ドル高再開も=高島修氏

[東京 25日] - 年初から世界市場は悲観論一色に染まったが、筆者はむしろ最近、過去1年続けた警戒モードを解く必要を感じ始めている。巷(ちまた)ではドル円は円高見通しが増えてきたようだが、そろそろドル円弱気見通しから強気見通しへの切り換えを検討し始めたところである。

前回の長期ドル高局面である1990年代後半を振り返ると、94年の米連邦準備理事会(FRB)による金融引き締めへの転換の結果、ドルの長期トレンドがドル安からドル高へ転換。95年には90年以降続いた円高トレンドも円安に転換。円高時には高まったと思われたアジア諸国の国際競争力が疑問視されるに至り、ホットマネーの流出によって97年にアジア通貨危機が発生した。

その結果、世界経済が減速し、原油相場が下落。産油国のロシアが経済財政危機に陥り、そのロシア国債投資に失敗した米ヘッジファンド大手ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が経営破綻するに至って、世界的な信用収縮危機が発生した。

この時、米株、日本株とも高値から約2割の急落となり、市場安定化のためにFRBが行った金融緩和を受けてドル指数は約1割の下落となった。当時、ドルは95年から結果的には2001年のITバブル崩壊まで続く長期上昇トレンドにあったが、98年は一時的にドル高が中断した。

2013年春のバーナンキショック(当時のバーナンキFRB議長による金融緩和終焉の示唆)以降、インド、トルコ、ロシア、ブラジルなどの新興国が次々に売り込まれ、通貨防衛のために緊縮政策を余儀なくされたことで、世界経済が減速。それが原油安を通じて、米シェール産業や、ロシアやサウジアラビアなど産油国を窮地に陥れ、深刻なリスク回避を誘発してきた。

このように、この数年と98年の金融経済環境は酷似している。これこそが、筆者が過去1年ほど、「98年の悪夢」と呼んで警戒してきた事態である。

FRBの引き締め懸念と他通貨安に伴うドル高の負担感に加えて、原油安によるエネルギー産業の苦戦というトリプル安に見舞われたことで、米経済は失速し、米株も伸び悩むようになった。とはいえ、98年には2割以上下落した米株が、今回は15%ほど下げたところで反発局面に入ってきた。

また、今回は日本株や欧州株が3割近く値を下げており、下落率で米株を大幅に上回っている。そして、98年はFRBの緊急緩和が相場底入れの決定打となったが、今回はFRBではなく、日銀と欧州中銀(ECB)の金融緩和が導き出されている。こうした点が今回のリスク回避相場の特徴と言える。

98年はFRBの緩和でドル指数は約1割下落した。今局面でもドルが対円、対ユーロで値崩れしている。だが、このように米国ではなく、日欧で金融緩和が行われていること、その背景となっている日欧経済や株価市場の不振を考慮すると、今回、ドル指数の下げ幅は98年の1割には満たない公算が大きい。昨年8月、ドル指数は昨年1月高値から7%ほど下落したが、その時の安値が今局面のドル指数の安値なのかもしれない。

<「米金融引き締め=新興国通貨下落」の誤解>

さて、長期ドル高が進んだ90年代後半は新興国にとっては試練の時だった。その間、94年のメキシコ危機に始まり、97年アジア通貨危機、98年ロシア危機、99年ブラジル危機と続き、2001年にはアルゼンチンがデフォルト(債務不履行)を宣言するに至った。当時、97年アジア危機による世界経済の減速が、原油安を通じてロシア危機を誘発。それが全面的な資源安を伴いながら、鉄鉱石などを産出するブラジルの危機につながった。

この構図は2013年のバーナンキショックでアジアの経常赤字国であるインド、インドネシアが激しく売られた後、原油・資源安を背景に14年のロシア、15年のブラジルへの通貨アタックが伝播してきた今回の流れと酷似する。

とはいえ、90年代後半の経験からの重要な教訓は、97年に大幅下落していたタイバーツをはじめとする、アジア通貨の多くは98年秋のLTCM危機によるFRBの金融緩和局面で、むしろ先進国市場の混乱を横目に反発色を強めたことだ。LTCM危機による混乱が終息し、FRBが99年半ばから金融引き締めに転換した後も目立って下落することはなかった。

ブラジルレアルやメキシコペソ、ロシアルーブル、南アフリカランド、インドルピーのように98年終盤や99年初めまで下落が続いた通貨も、99年半ばからの米利上げ局面をさほど嫌気することはなかった。これらの通貨が再び明確な下落に転じたのは、2000年後半以降に米株が頭打ちとなり、ITバブル崩壊の兆しが見られ始めるようになってからだった。

その時には米市場金利はFRBの利下げを織り込む格好で低下に転じていた。つまり、2000年代前半になって新興国通貨が再び下落したのは、米引き締め懸念ではなく、ITバブル崩壊による世界経済の減速の影響が大きかった。

この90年代終盤の経験が物語るのは、ブラジルレアルをはじめとした新興国通貨は悪材料を織り込み終わってしまうと、FRBの金融引き締めのような悪材料が出てきても、再び売られる懸念は少ないということだ。むしろ、そうした新興国経済と市場の底堅さがFRBの金融引き締めを可能にし、対円や対ユーロでドル高が再開する可能性が出てくる。

<ブラジルレアル底入れの重要性>

ここで注目されるのが、昨年9月に対ドルで史上最安値を記録したブラジルレアルがその後は下げ渋り、この数カ月ほども、緊縮政策による通貨防衛策を明確に打ち出していたレビィ財務相の退任、記録的な成長率落ち込み、投資適格以下への格下げ、ルセフ大統領の弾劾問題など悪材料が噴出する中で、むしろ反発色を強めてきたことだ。筆者の経験から言えば、こうした値動きは相当強い相場底入れのシグナルである。

ブラジルの重要性は、90年代後半も、アルゼンチンという例外を除けば、メキシコ危機、アジア危機、ロシア危機と続いた後、大トリを務める格好で99年に危機に陥ったことだ。今日もそうだが、ブラジルレアルこそが、良い意味でも悪い意味でも「新興国通貨の王様」であり、その底入れは新興国全般の底入れを暗示している可能性がある。

2013年のバーナンキショックから続いた新興国混乱の終息は原油・資源相場の回復を伴う公算が高く、グローバルな市場センチメントもリスク回避からリスク選好への転換が促されよう。その結果、3月15―16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で金融引き締め先送りを暗示したFRBが再び引き締め政策に復帰することができれば、現在は下落しているドルの対円相場、対ユーロ相場は長期上昇トレンドに復帰する可能性が出てくるだろう。

つまり、98年のロシア・LTCM危機で一時的な調整局面を経験したドル指数が、99年早春のブラジル危機で新興国市場がアク抜けした直後、同年半ばからのFRBの引き締め局面に先駆ける格好で長期上昇トレンドに復帰していった時の市場環境に似てきた。そうなれば、ドル円の下落リスクも緩んでくるはずだ。

ドル円はなんとか現在の水準で底入れ色を強め、結果的に今年の中心レンジは110―120円程度で落ち着くのではないか。こうした可能性がうかがえることに、今回、悪材料が噴出する中でもブラジル市場が力強い回復を示し始めたことの真の重要性がある。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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