June 1, 2016 / 5:11 AM / 2 years ago

コラム:米中のドル安・元安戦略、挫折か進化か=高島修氏

[東京 1日] - ドル円は4月下旬の111円台後半の高値を上抜けて上昇することは当面困難だろう。米連邦準備理事会(FRB)の引き締め観測が全般的にドルを上昇させているものの、それに伴いブラジルなど新興国市場に動揺が見られ、リスク回避の兆しが出てきているからだ。

ドル高に伴って人民元安が進行し、それが中国株を下落させる場合、そのリスクは一段と高まる。ドルと人民元の複雑な関係を理解する必要がある。

<不可解なFRBのタカ派転向>

5月18日に公表された4月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が思いのほか、タカ派だったことが国内外の市場参加者に衝撃を与えている。

議事録によれば、「ほとんどの参加者は、もし今後の経済指標が4―6月期に経済成長が持ち直し、雇用情勢が強くなり続け、インフレ率が2%の目標に向けて前進するという姿と整合的であれば、FOMCが6月にフェデラルファンド(FF)レート目標レンジを引き上げることが適切になる可能性が高い判断した」。

一方、4月27日に発表されていたFOMC声明文では、FRBは、雇用情勢の底堅さや海外情勢の持ち直しを指摘する一方で、個人消費を中心に米経済が減速したことに警戒感をにじませ、市場はハト派的な声明文と解釈していた。

過去を振り返っても、両者(声明文と議事録)にここまで大きなギャップが生じることは稀であり、確かに市場参加者の驚きも理解できる。

このギャップに対する筆者の理解はこうだった。文書の発表の順番こそ声明文が先で議事録がその数週間後に公表されるため、今回のように時に市場参加者の混乱を招くが、本来の流れは、議事録で確認される様々な議論を踏まえた上でFOMC声明文が発表される。恐らく、4月会合では議事録が示すようにタカ派的な議論が行われたが、その時の市場環境が不安定なため、声明文ではタカ派色を封印し、ハト派的な声明文を出したのではなかろうかと筆者は整理していた。

その後、原油こそその時よりも上昇し、ややインフレ圧力が増したと考えるべきかもしれないが、米株は4月後半以降、上値の重い商状が続き、ブラジルなど新興国市場の回復も止まった。ドルも強含んできており、今、あえてFRBがタカ派色を打ち出さなければならない理由はほとんど見当たらない。

したがって、「4月FOMC議事録こそタカ派色が濃かったものの、それは過去の議論であり、再びFRB関係者はハト派色をにじませるのではないか。つまり、市場が警戒感を強め始めたFRBの早期追加利上げ観測は、結果的には杞憂に終わるのではないか」と筆者は考えていた。

ところが、現実的には、5月27日にイエレンFRB議長が追い打ちをかけるように、「数カ月以内に利上げが適切となるだろう」と発言。大学での挨拶だったため、金融政策の示唆はないだろうと考えていた市場は完全に意表をつかれ、この想定外のサプライズ発言を受けて、金利政策の方向性を織り込む米2年金利が0.9%台を回復。市場は7月追加利上げの可能性を織り込み始めた。

議長は6月14―15日のFOMCを控え、ブラックアウト期間に入る直前の6日にも講演を行う予定だ。23日には英国で欧州連合(EU)離脱を問う国民投票が予定されており、6月利上げは非現実的なシナリオだろうが、6日の講演では7月利上げに向けてさらなる地ならしが行われる可能性も出てきた。

<ドル安・元安戦略転換は時期尚早か>

筆者がこのFRBのタカ派転向に驚いているもう1つの理由は国際通貨政策の観点である。というのは、今回のFRBのタカ派転向で、米国と中国が主導するドル安・元安戦略も挫折を余儀なくされそうだからだ。筆者がその存在を初めて意識したのは、3月中旬にNY株と上海株がともに7連騰した時である。

2月26―27日に上海で開催された20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議から3月15―16日のFOMCにかけて図られた、FRBのハト派転向とそれに伴うドル安が、基本的にドルリンクの人民元安(円やユーロ、アジア通貨などに対する元安)につながった。それが世界の二大経済大国である米中両国の経済にポジティブに作用し、米中株に持ち直し色を強めさせる背景になった。その結果、原油・資源相場や新興国市場も下落基調を脱してきた。ドル安とそれに伴う実効相場ベースでの元安が、米中経済のみならず、資源国や新興国にもプラスに作用してきたのである。

この「ドル安」を受けて、ドル円相場も一時は105円台への下落となった。だが、市場のリスク選好への感応度の高いドル円の場合、昨年前半までのような、過度のドル高とそれにもつれた元高で米中経済や株式市場が苦戦し、世界的にもリスク回避色が強い市場環境になってくると、水面下でドル安・円高圧力が蓄積される。現にこの半年でその下落圧力が表面化してしまった。

一方で、この数カ月、米中主導でドル高と元高の是正が図られ、資源相場や新興国市場が持ち直しながら、市場のリスク選好が回復してくると、長期的なドル高・円安基調に復帰する可能性が芽生える。筆者に言わせれば、「ドル安」はドル円が長期上昇トレンドに復帰するための「産みの苦しみ」なのである。

しかるに、今回、FRBの引き締め観測が再燃したことで、米株の上値は重くなり、中国や新興国の市場動向も冴えない展開となってきた。FOMC声明で海外の経済環境を注視する意向をFRBは明示している。こうした事情を考慮すると、3月のハト派転向から2カ月しか経っていない今、FRBがタカ派に転向し、追加利上げの地ならしを始めるには少し時期が早すぎるというのが筆者の率直な印象だ。中国にしても、このドル反発に伴う円安やユーロ安、アジア通貨安の余波で人民元が割高化することは望ましいことではなかろう。

<リスク選好とドル円回復の条件>

こうした中、中国は対ドルでの元安誘導を再開させた模様で、上海のオンショア人民元の対ドルレートは今年1月以来の安値圏へ下落してきた。昨年8月の元切り下げの時や今年1月の元急落の時は元安に伴って中国株は急落した。元相場の先安観測が、脆弱化していた中国市場から海外への資本流出を加速させたことがその一因と考えられる。

今回もドル高・元安に伴う中国株下落は警戒すべきリスク要因であり、それが現実に起こった場合、すでに頭打ち感が生じてきているブラジルをはじめとした新興国市場を再び危機的状況に陥れ、50ドル台を回復し始めた原油など資源相場にも改めて下落圧力が加わるだろう。その段階では、市場環境は完全にリスク回避に逆戻りしているはずで、ドル円は直近安値である105円に向かって再び値を崩すことになっても驚かない。

とはいえ、筆者にはやや意外なことだが、そのドル高・元安の中で、今回は中国株が思いのほか底堅く推移しており、5月31日の上海株は3%を超える高騰を見せた。この株高は昨年8月の元切り下げや今年1月の元急落の時に中国株が大幅下落となったことと対照的な動きだ。最近、外貨準備の減少が止まったことにうかがえるように、中国から海外への資本流出には歯止めがかかり始めている模様だ。

中国当局がより厳格に資本規制、外貨管理を行い、資本フローのコントロールに成功しつつあるのかもしれない。これが元安の中での今回の中国株反発の背景にあるのかもしれない。

上記の通り、筆者が今、警戒しているのは、FRBの突然のタカ派への再転向とそれに伴うドル高が、ブラジルなど新興国市場や原油・資源相場の回復を頓挫させ、世界的なリスク回避を再発させることだ。その際に付随して生じるドル高・元安が、昨年8月や今年1月のように中国株下落につながる場合、そのリスクは高まる。現在は新興国が全般的に低調な中、中国は持ちこたえている構図であり、マチマチな市場環境だ。

もし、このドル高局面を米株と中国株が乗り切ることができれば、それはその後の本格的なリスク選好の回復につながり、米金融引き締めと並んでドル円を力強く回復させることになろう。その見極めが必要な現段階では、4月下旬につけた111円台後半の高値がドル円のレジスタンスとなり、110―111円を中心レンジとした保ち合い相場に移行していくイメージである。

なお、4月下旬、日銀の追加緩和見送りに伴うドル円急落の出発点となったその高値を筆者は「日銀レジスタンス」と呼んでいる。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below