October 10, 2018 / 8:04 AM / 9 days ago

コラム:強いドルは円高リスクか、米リパトリの影響受ける通貨=高島修氏

[10日 ロイター] - 筆者はここ数カ月、今年第4・四半期(10─12月期)にドル円は115円台を回復するとのシナリオを示してきた。そう考える主な理由は、日本の国際収支悪化で円安が進むとみているからだ。

 10月10日、シティグループ証券チーフFXストラテジストの高島修氏は、米企業による本国への資金還流(リパトリエーション)について、単純にドル円にとってポジティブな材料とは言えなくなるので注意が必要と指摘。写真は2017年6月撮影(2018年 ロイター/Thomas White)

特に原油高に伴う輸入増加などにより、赤字に転落しつつある貿易収支を主体に経常収支が悪化し始めていること、日本企業による大型の合併・買収(M&A)が相次ぐなど対外直接投資が膨らんでいることに注目している。

こうした中で米企業が大規模な海外留保利益の送還(リパトリエーション)を進め、過去半年あまりのドル高の一因となっている。しかし、強すぎる米ドルは市場のリスク回避志向を強め、新興国通貨などの下落や米株の反落を招きかねない。

その結果、全体的に堅調な米ドルに対して、リスク回避的な円高が進行することがあり得る。実際、ここ2週間ほどはその動きがみられる。そうした際には、ユーロ円や豪ドル円などクロス円がドル円以上に下落する。米企業によるリパトリも、単純にドル円にとってポジティブな材料とは言えなくなるので注意が必要だ。

ここでは米企業によるリパトリの規模や構造、相場に与える影響を分析したい。

<FRB試算で1兆ドル>

米国の国際収支統計を見ると、株式投資に対する配当などの受け取り額は今年第1・四半期(1─3月期)に2949億ドル、第2・四半期(4─6月期)には1695億ドルに上った。計4644億ドルとなり、例年のおよそ700億ドルに比べ、4000億ドルほど多い計算になる。

これは昨年12月の税制改正に含まれるリパトリ減税によって促された、海外留保利益の還流と捉えるのが妥当だろう。

米企業の海外留保利益は8─9割がドル建てで運用されていると言われる。逆に言えば、1─2割はユーロや円など現地通貨で保有していることになる。今年前半に4000億ドルのリパトリが生じたとするならば、その間に400─800億ドルほどの米ドル買いが発生していたことになる。米国の経常赤字が年間約4500億ドルに上ることを考慮しても大きい数字だ。

9月上旬に米連邦準備理事会(FRB)が公表した米企業のリパトリ分析リポートによれば、昨年末に米国の多国籍企業(S&P500指数に含まれる非金融企業)が保有していた海外留保利益のうち、1兆ドルほどがキャッシュもしくはドル建て債券などキャッシュに相当する金融資産で運用されていた。2005年にブッシュ政権が本国投資法を施行した際には、およそ7500億ドルの海外資産の4割強に当たる約3100億ドルが米国に還流したと、同リポートは解説する。

今年前半に4000億ドルのリパトリが行われたとするなら、FRBが言う1兆ドルの4割ほどが既に米国に還流した計算になる。当時と今回が同じとは限らないが、この比率を当てはめるなら、米企業によるリパトリは今年前半にほぼ終わってしまったことになる。

<さらに膨らむ海外留保利益>

一方、1990年以降に米企業(正確には米居住者)が積み上げた再投資収益を国際収支統計で確認すると、04年末に7700億ドルだったものが、15年末には4倍以上の3兆ドル超に膨らんでいる。

その大半は、米国の大手多国籍企業が「第2の本国投資法」を期待して積み上げてきた海外資産と考えられる。それは欧州のルクセンブルクやアイルランド、中南米のバミューダなど租税回避地(タックスヘイブン)で再投資収益が急激に積み上がったことからもうかがええる。もちろん、中には工場建設など現地での実物投資に充当された分もあっただろうが、金融資産が少なくなかったと考えられる。

この数字はFRBによる海外キャッシュ推計値約1兆ドルと大きな開きがあるが、FRBの数字がS&P500指数に含まれる非金融企業のものに限られること、つまり金融機関やS&P500指数以外の企業が含まれないことが1つの理由だろう。また、FRBはキャッシュまたはキャッシュに相当する金融資産しか集計していない。

再投資収益の累積額3兆ドル強をそのまま米企業によるリパトリの原資と想定するのは過大かもしれないが、少なくともFRBが指摘した1兆ドルより大きい可能性が高い。荒っぽい議論になるが、仮に両者の中間を取って2兆ドル程度を原資とするなら、今年前半に米国に還流した資金は全体の2割程度だったことになる。

つまり、それと同程度かそれ以上の資金が、今年後半以降に還流されるのを待っている状態にあるとみるのが妥当なのではないだろうか。少なくとも向こう半年ほどは、引き続き米企業のリパトリが米ドルの支援材料になりそうだ。

<影響を受ける通貨は>

公式統計がないため、海外留保利益がどの国にどの程度滞留しているのかという実態把握は困難だが、米企業による対外直接投資残高(17年末で約6兆ドル)の地域分布をみると、カナダ、英国、スイス、ユーロ圏、中南米のタックスヘイブンに偏在している。香港と並ぶアジアの金融ハブ、シンガポールへの投資残高も多い。一方、日本は全体の2%強に過ぎず、経済規模も加味した相対感はさらに小さい。

こうした点を念頭に、今年の為替相場を振り返ると、第1・四半期は総じて米ドル安で、特にドル円は112円前後から105円前後まで急激に円高が進行した。4月中も108円前後を上値とする取引が続いた。そもそも日本のエクスポージャーは極めて小さく、この間にスムーズに円建て資産の売却や為替ヘッジが進行したのではなかろうか。

一方、年初に1.20ドル台だったユーロドルは、2月に1.25ドル台に上昇。4月まで1.22ドル台を下限に高どまっていた。米国際収支統計が示す通り、第1・四半期はリパトリが大量に発生した時期であり、米企業によるユーロ売り/米ドル買いも相当の規模に膨らんだ可能性がある。

だが、その影響もあってか、ユーロドルは5月に1.15ドル台へと急落し、その後も1.18ドル台の回復に苦戦している。こうした中、円に比べ圧倒的にエクスポージャーの大きいユーロ建て資産は、売却や為替ヘッジが遅れたのではないかと筆者は推察する。

米企業のリパトリは決してユーロを1.15ドル以下に売り下げるようなフローではないとみられるが、その反面、1.18ドル台に乗せる反発があれば、ユーロは向こう半年ほど米企業による執拗な戻り売り圧力に見舞われるのではないだろうか。同じく米企業によるエクスポージャーが大きく、今年前半に急落した英ポンドやカナダドルもおそらく似たような状況だろう。

過去半年の米ドルの反発局面は既に終盤戦だろう。しかし、このままドル安局面に転じていくというより、まずはドル高局面からドル安局面への端境期に移行すると筆者は考えている。ドル高がリスク回避的な円高を誘発する事態は避けられる一方、ドル円を押し下げるほど明確なドル安は生じにくいだろう。米企業のリパトリという需給要因も、こうした相場見通しと整合するものとみている。

高島修 シティグループ証券 チーフFXストラテジスト(写真は筆者提供)

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

(本コラムは、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below