Reuters logo
コラム:カタルーニャ情勢、投資家が知るべきリスクの正体=田中理氏
2017年10月30日 / 03:44 / 25日前

コラム:カタルーニャ情勢、投資家が知るべきリスクの正体=田中理氏

[東京 30日] - スペイン政府によるカタルーニャ州政府(ジャナラリタ)の自治権剥奪という前例のない措置の発動を受け、10月27日の欧州市場ではスペイン関連の株や債券が大きく売られた。また、早期利上げ観測の封じ込めを狙った欧州中央銀行(ECB)によるハト派的なメッセージを受けた前日の流れを引き継ぎ、ユーロ相場も一段安が進んだ。

ただ、今回のカタルーニャ情勢を巡る緊張の高まりは、1981年の軍事クーデター未遂事件以来のスペイン民主制の危機と言われるが、その割に金融市場の反応は軽微な印象がある。

これはカタルーニャ州で住民投票が行われる以前から一貫して、同州がスペインから独立することはないとの受け止めが支配的となっているためだ。今回の州議会による独立決議の可決も、わずか数時間後には州首相や閣僚の解任と州議会の解散により手足を縛られた形で、州政府に独立に向けた突破口は見当たらない。欧州連合(EU)やその加盟国をはじめとした国際社会からもカタルーニャ独立への支持は広がっていない。

筆者もカタルーニャがスペインから独立することはないと確信しているが、今後の展開次第ではスペイン関連資産にさらなる売り圧力が生じる可能性には身構えておく必要があろう。そこで以下では、カタルーニャ情勢の今後の展開とリスクの所在を検討する。

<試されるスペイン政府の事態収拾能力>

スペイン政府はカタルーニャ州における法の支配を回復するため、憲法155条に基づく州の自治権停止という最終手段に出た。州首相と閣僚は全員解任され、12月21日の州議会選後に新たな州政府が発足するまでは、ラホイ政権で副首相を務めるサエンス・デ・サンタマリア氏が州運営を指揮する。

ただ、州民の間には自治停止という強硬措置への反発も広がっており、スペイン政府の指揮系統の下で州運営が円滑に進むかは予断を許さない。解任されたプチデモン前州首相は10月28日、州管轄のテレビで演説し、スペイン政府による直轄支配に対して平和的に抵抗することを州民に訴えた。

10月1日の住民投票でスペイン政府の命令に反して投票を阻止しなかった州警察のトップも解任されたが、州警察がスペイン政府の命令に従うかも不透明だ。今後、独立派住民の大規模デモの取り締まりや、解任された州政府高官の強制排除が必要となった場合、再び中央政府が警察や治安部隊を派遣する可能性がある。

住民と治安部隊との大規模な衝突に発展したり、独立派の住民と残留派の住民が衝突する恐れもある。155条発動後も法の支配を回復できない場合、批判の矛先はラホイ政権に向かう可能性が出てくる。

12月の州議会選後に誕生する政権が、再び独立賛成派となる可能性もある。住民投票後に行われた4つの世論調査では、独立派と残留派の票が引き続き拮抗している。自治停止を受けて独立派が支持を伸ばす可能性がある一方、カタルーニャ州に本拠を置く企業が相次いで州外に本店を移しており、こうした独立に伴う混乱を嫌気して残留派が支持を伸ばすことも考えられる。

また、独立派の議員にとっては、スペイン政府のイニシアチブの下で行われる州議会選に参加すれば、155条の法的効力を認めたことになる。他方で、議会選に参加しなければ、今後の州運営に携わり、独立を求めて活動する機会が失われる。強硬な独立派が議会選に参加しない場合、独立派が議会の過半数を確保するのは難しい。

ラホイ首相は当初、155条発動から6カ月以内に州議会選を実施する方針を表明していたが、選挙日程をわずか8週間先の12月21日に大幅に前倒しした。これにより独立派陣営は選挙準備に追われることになり、自治権停止への抵抗運動に割く時間がなくなる。

なお、各種の世論調査によれば、穏健独立派のカタルーニャ欧州民主党よりも、やや強硬な独立派のカタルーニャ左翼共和派が議席を伸ばすことが示唆される。独立派の合計獲得議席が過半数を上回る場合、次期州政府が今以上に強硬な態度で独立を要求する可能性がある。その場合、155条の発動を再び繰り返すのだろうか。スペイン政府が事態の収拾に有効な手段を持ち合わせているのか、疑問が広がることになろう。

<スペイン中央政界の流動化は杞憂か>

カタルーニャ州はスペインの国内総生産(GDP)の約20%、輸出の約25%、観光客の約25%を占める同国で最大の商業圏だ。今のところカタルーニャの混乱によって、好調が続くスペイン経済に目立った打撃は確認されていない。だが、独立を巡る混乱が長期・深刻化し、産業活動の停滞や観光客の減少につながれば、スペイン経済全体の足を引っ張ることが予想される。

カタルーニャ州外への企業の流出は、多くの場合、州独立時の混乱(銀行への流動性支援の打ち切りや預金流出など)を嫌気し、登記上の本店所在地を移したにすぎない。だが、混乱が長期化したり、独立の動きが現実味を帯びる場合、企業進出を手控える動きや、工場や営業所を州外に移す動きが本格化しかねない。

また、金融市場に動揺が広がれば、ECBによる資産買い入れの縮小と相まって、金融環境が引き締まりやすい。企業活動にブレーキがかかったり、政府の利払い負担が増加するなど、経済・財政両面で徐々に悪影響が広がる恐れがある。

カタルーニャ情勢を巡る対応を誤れば、中央政界の政局流動化につながる恐れもある。2016年の再選挙後に誕生した中道右派の国民党政権は、新興リベラル政党のシウダダノス(市民党)と小規模な地域政党が閣外協力する非多数派政権で、下院の過半数を確保していない。最大野党で中道左派の社会労働党が信任投票を棄権し、どうにか政権発足にこぎ着けた。スペイン議会の4大勢力はいずれもカタルーニャの独立に反対しており、社会労働党や市民党も155条の発動に賛成している。

ただ、これまで予算成立で協力してきたバスク州の独立を支持する地域政党・バスク国民党が、カタルーニャ州への対応を巡って政権と距離を置き始めており、来年度予算案での協力を取りやめた。

各種の世論調査によれば、カタルーニャを巡る混乱が激化した後も、国民党の支持率は低下していない。政権奪取の機会をうかがう社会労働党や新興左派政党・ポデモスの支持率は、国民党に大幅なリードを許しているうえ、社会労働党がポデモスとの共闘に消極的なため、政権打倒の動きは広がっていない。ただ、今後カタルーニャへの対応を巡って、国民党の支持率が落ちてくるようだと、政局流動化の可能性が高まろう。

州議会選後にカタルーニャで残留派の政権が誕生した場合、独立を巡る金融市場の不安は後退するが、中長期的にみたスペインの財政悪化につながる恐れがある。独自の歴史や文化を持つカタルーニャ州には広範な自治が認められているが、バスク州とナバラ州が持つ独自の徴税権を持たない。

スペインでは州間の格差是正を目的に財政資金の再配分が行われており、カタルーニャ州では所得再配分での財政負担の重さが問題視されてきた。残留派の政権が誕生すれば、スペイン政府との間で財政自治拡大を巡る協議が行われ、独自税源が認められる可能性がある。その場合、他州の財政負担が増すか、中央政府がその穴埋めを余儀なくされる。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below