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コラム:円指数上昇が問う黒田日銀の防衛ライン=高島修氏

[東京 20日] - アベノミクスと黒田日銀の緩和政策は約3年前の船出以来、最大の正念場を迎えている。今月末の金融政策決定会合で日銀が行動に踏み切るか否かは決定的に重要だ。

 1月20日、シティグループ証券・チーフFXストラテジストの高島修氏は、円の名目実効為替レートはすでに2014年10月末の日銀追加緩和時の水準を上回っており、これ以上の円高を日銀は黙認しないだろうと指摘。提供写真(2016年 ロイター)

今のところ、エコノミストや市場の間では、追加緩和見送りとの予想が大勢のようだが、その場合、ドル円は115円台を割り込み、110円を試す展開となってもおかしくない。円高がそこまで進めば、デフレ克服というアベノミクスの挑戦が失敗に終わったことを確定的にするだろう。

逆に言うならば、安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁はそうした事態に陥らないように、断固として行動すべき時を迎えた。今月末の決定会合で日銀が追加緩和に動く場合には、ドル円は116円前後のサポート帯でなんとか底入れに転じることができるだろう。

この場合、原油価格や中国市場の動向次第では、世界的なリスク選好の回復に支えられて、比較的短期間に120円台を回復。アベノミクスはデフレ克服という挑戦を今後も続けることが可能となろう。

<名目実効円相場の下げ止まりは自然の流れ>

最近、筆者が特に注目しているのは、米ドルのみならず、ユーロや豪ドル、中国人民元などに対する総合的な日本円の動きを示す通貨インデックスの動きである。

例えば、日銀が公表している円の名目実効相場(日次ベース)は東日本大震災が起こり、日本の国際収支の悪化が顕著となった2011年に大天井をつけ、12年から長期下落局面に入った(長期円安トレンドが始まった)。12年は団塊の世代(1947年から49年に生まれた日本のベビーブーマー)の公的年金の受給が始まり、人口動態面から貯蓄取り崩し圧力(経常収支の悪化要因)が強まった年である。

こうした中で、13年以降はアベノミクスと黒田日銀による金融緩和を背景にさらなる円安が進行した。ただ、その根底には、通常1年程度のタイムラグを置いて円相場に影響する傾向がある日本の国際収支の悪化(震災や人口動態による構造問題)が存在したと考えられる。13年後半には、14年4月に予定されていた消費増税を前にした駆け込み需要の発生とそれに伴う輸入増が国際収支の悪化に拍車をかけたが、増税以降は駆け込み需要の剥落と景気低迷を受けて貿易赤字はピークアウトした。

過去1年ほどは原油安も収支改善に貢献している。15年に入って、11年以降の名目実効円相場の下落に歯止めがかかったのは、国際収支と円相場の1年程度のタイムラグを考慮すると自然な変化だったと言える。

<なぜ黒田日銀総裁は円安を止めたのか>

興味深いのは、名目実効円相場が15年6月に底入れしたのが、日銀の黒田総裁が「これ以上の実質円安はありそうにない」と発言したタイミングにピタリと一致することだ。

その時、市場ではこの発言は単なる失言との声も多かったが、黒田総裁は財務省で財務官(通貨政策のトップ)を務めた経験がある。その発言が失言か、意図的かは別として、黒田総裁の本音を反映している公算が大きいと考え、我々はこの発言を深刻に受け止めた。

当時、為替相場が円安気味で推移していたことから、それに注目したメディアやエコノミストは少なかったが、この黒田発言が行われる直前の昨年春は、円安をめぐる国際環境が大きく変化した時だった。

例えば、昨年4月に、為替報告書(通常年2回公表)を発表した米財務省はドル高に危機感を示した上で、日本の経済政策が日銀の金融緩和と円安に過度に依存していることに警鐘を鳴らした。また、昨年5月前後に日本を含む加盟国の年次経済調査を終えた国際通貨基金(IMF)は、米財務省に歩調を合わせるかのごとく、円が過小評価(割安)になりつつある中、ドルが過大評価(割高)になってきており、それが米経済のリスク要因の1つであるとの認識を示した。

昨年6月の黒田総裁の円安けん制発言はこうした中で出てきたものだった。当時、筆者のところには、ヘッジファンドをはじめとした海外投資家からも、この発言が意図的なものなのか否かの問い合せが数多く寄せられたが、それに対して筆者は、意図的なものか否かはともかく、この発言が必然的なものであると答えたものだった。

市場やエコノミストの間では、昨年7月や10月の決定会合で日銀が追加緩和に踏み切るとの見方も根強かったが、昨年、筆者がほぼ一貫してその可能性に否定的だった理由の1つは、この黒田発言やその背景となっている円安をめぐる国際環境の変化を重視していたからだ。実際、日銀はこれまで追加緩和措置を見送っており、今や、その時のドル円の水準だった125円は海外投資家の間では「黒田ライン」と呼ばれるようになった。

<円指数上昇で高まる日銀追加緩和の可能性>

こうした中、昨年後半には、名目実効円相場は過去3年、レジスタンスとなってきた52週線を回復。長期円安トレンドは完全に変調をきたすことになった。

また、最近では年初来の人民元急落や、それに伴う世界的な市場の混乱と円高を受けて、名目実効円相場は急上昇し、今や14年10月に日銀が量的質的緩和・第2弾を発表した時の水準を超えて円高が進行し始めている(日銀公表の円の名目実効為替レートは14年10月31日が91.11、16年1月18日が97.15。数値が大きいほど円高、小さいほど円安)。

14年10月末当時の水準には過去3年間の平均コストに相当する156週線も位置する。このまま円高が進行していけば、アベノミクスと黒田日銀による金融緩和を背景とした長期円安トレンドが抜本的に揺らぐことになる。デフレ克服は夢と消え、株式相場の苦戦もより明確になろう。

今年7月に参議院選挙、来年4月には消費再増税を控える中、これ以上の円高と株安を日本政府と中央銀行が黙認するだろうか。否、筆者はここにはより強い「黒田ライン」があるのではないかと、にらんでいる。今月末の決定会合で日銀が動く可能性は現在、市場が考えている以上に膨らんできているのではなかろうか。シティグループのエコノミストはその可能性を30―40%と置いている。

もちろん、日銀が今月末に行動し、首尾よくドル円が底入れに転じると仮定しても、円安が持続的なものになるか否かは、世界的な金融経済環境に依存する。特に日本株がほぼ一貫して高い相関を示す米株動向は重要であり、その米株は中国市場や原油・資源相場が安定化に向かわない限り、力強さを欠くだろう。

テクニカル分析的にも強いレジスタンスに転じてきている120―121円程度を超えるドル高円安進行には、日銀の追加緩和のみならず、世界的な投資環境の改善が必要になってくる。

*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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