June 29, 2015 / 3:44 AM / 4 years ago

コラム:ギリシャ離脱か、デフォルト後のシナリオ=田中理氏

[東京 29日] - ギリシャ議会が財政緊縮策の是非を問う国民投票の7月5日実施を決めたことで、6月30日の国際通貨基金(IMF)向けの融資返済を履行できないことがほぼ確実となった。

まとまった財源を自力で確保する方法としては、地方政府の剰余金を中銀経由で政府に貸し付ける措置や、国内向けの支払いを遅延したり、政府の借用証書(IoU)で支払うことが考えられる。

だが、これまで協力を拒んできた地方政府がこの期に及んでデフォルト間近の国家に将来の行政サービスの原資となる剰余金を拠出するとは思えない。また、国民投票で債権者側提案の受け入れ拒否を訴えるギリシャ政府が、国民からの反発を招く、対外債務の支払いを優先するとは考え難い。

では、IMFへの返済ができなかった場合、何が起きるのだろうか。

<ECBの支援継続はいつまでか>

ラガルド専務理事をはじめとしたIMFの高官は、月末の支払いをギリシャが履行しない場合、猶予期間を設けたり、返済を延期することはなく、7月1日の段階でデフォルト(IMFの用語では「支払い遅延」)に相当すると発言している。国民投票を控えていることもあり、支払い遅延の正式認定がどのタイミングで行われるかは不透明だ。IMFの資本金が毀損すれば、IMF加盟国が穴埋めすることになるが、十分な資本バッファーを有しており、ただちに加盟国の財政負担が発生するわけではない。

ギリシャ二次支援の実行主体である欧州金融安定ファシリティー(EFSF)の融資約款によれば、IMFが正式に支払い遅延にあると認定した場合には、事実上のデフォルト事由に相当し、EFSFの保有する債権を、返済期限を待たずに前倒しで請求することが可能となる。ギリシャに現時点で返済能力がないことは明らかで、前倒し請求をすればEFSFの損失が確定し、ユーロ圏各国政府が損失分を保証する必要が出てくる(EFSFは融資原資を加盟国政府の保証付き債券の発行で賄っている)。

EFSFの信用力低下と財政リスクの顕在化につながる恐れがあり、ギリシャ危機の他国への伝染を防止する観点からも、現時点でEFSFが前倒し返済を求めることはないだろう。

ギリシャ国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS:デフォルトリスクを保証する金融派生商品)は、2012年の債務交換後に派生した債権を保証の対象としており、月末に返済期限を迎えるIMFの融資は保証対象外で(これは2010年5月に始まった一次支援時の複数の融資の一括返済分のため)、信用事由(クレジット・イベント)には該当しない。

大手格付け会社は、ギリシャがIMF向けの返済を期日通りに履行できないからといって、民間債権者の回収可能性に影響を与えるものではなく、ただちに格付け上のデフォルトには相当しないとの基本見解を以前に表明している。だが、月末に支援プログラムが失効し、銀行からの預金流出が加速するなかで、政府の財政上のバッファーや銀行救済に必要な資金手当ての目途が立たないことを考えれば、格付け会社が何らかの格下げに動くことが考えられる。

ギリシャが事実上のデフォルト状態となることで、欧州中央銀行(ECB)がギリシャの銀行に対して供給している緊急流動性支援(ELA)を打ち切るかどうかの判断を迫られる。ELAは健全な銀行に対する一時的な流動性供給の枠組みで、事実上デフォルトした国の発行する国債を大量に保有するギリシャの銀行を健全とみなすことができるかに疑問が生じてくる。

また、ELAを打ち切らないまでも、ギリシャ国債の担保価値をより厳格に評価する可能性が出てくる。その場合、担保の掛け目変更でギリシャの銀行がELAを通じて確保できる流動性資金は目減りする。ECBは今のところELAの利用可能額の上限を維持している。だが、月末にIMFへの返済不履行が確定、支援プログラムが失効し、銀行救済の予備資金が失われた段階で、これまで同様にギリシャの銀行向けの流動性支援を継続することは一段と難しくなる。

ECBにとってのハード・デッドラインは、ギリシャがECBや民間が保有する国債の元利払いを履行しなかった場合と考えられる。2012年の債務交換後のギリシャ国債にはパリパス規定(他の債権と同順位)が設定されており、国債の元利払いを履行しなかった場合にクロス・デフォルト(ある債務がデフォルト事由に抵触すると、他の債務もデフォルトとみなされる)条項が発動する。債務交換後の国債はギリシャの国内銀行が大量に保有しており、ELAの差出担保としての国債の価値を再評価する必要や、国債の評価損で銀行が負債超過に陥る恐れがある。

7月中に支払い期日を迎える国債の元利払い(政府短期証券を除く)は、7月3日の円建て国債の利払い、5日のECB保有国債の利払い、14日の円建て国債の元利払い、17日の2014年発行国債とホールドアウト国債の利払い、19日のECB保有国債の利払い、20日のECB保有国債の元利払い、25日のECB保有国債とホールドアウト国債の利払い。このうち金額が大きいのは20日のECB保有国債の元利払い(36億ユーロ)で、それまでに協議再開への道筋がついていなければ、ELAの掛け目変更や打ち切りの可能性が高い。

交渉決裂によるデフォルトが一段と現実味を増すなか、ギリシャでは銀行の預金流出が加速している。週末には銀行のATMの前に預金を引き出そうとする人が数十人規模で列をなし、紙幣不足で預金が引き出せないATMが続出したとされる。現地の報道によれば、土曜日も窓口業務を行っている一部の銀行店舗に預金者が殺到したが営業を休止した。

こうしたなか、ECBは28日、ELAの利用上限を据え置いた。このまま29日に銀行が営業を再開すれば、預金の引き出しに銀行が応じることができず、銀行が破綻することはほぼ確実な情勢だ。政府は28日、29日から7月6日までの銀行休業と資本規制の導入を発表した。

2013年の銀行危機時に資本規制を導入したキプロスでは、預金引き出しや海外送金の制限と報告義務が課せられた。資本規制が長期化すれば(キプロスの例では導入から解除まで約2年)、幅広い経済活動に影響が出てくる。

<ギリシャのユーロ圏「居座り」は可能か>

返済不履行や銀行の営業停止などによる混乱は、ギリシャの国内世論にショック療法として働く可能性がある。

国民投票の実施表明前に行われた最新の世論調査を見ると(国民投票の実施表明後の世論調査はまだ公表されていない)、アルコ/プロトテーマ紙の調査では、57%が債権者との合意に賛成、29%が反対、14%が態度未定であり、カパ/トビマ紙の調査では、47.2%が合意に賛成、33.0%が反対、18.4%が態度未定だ。交渉期限が迫るなかでギリシャ国民も合意支持に傾きつつあった様子がうかがえる。

ただ、国民投票の設問が「債権者側の求める財政再建策を受け入れるかどうか」の二者択一で、ギリシャ国民の多くが希望するユーロ圏残留の是非を絡めたものではない。また、与党が受け入れ拒否を呼び掛けており、投票の結果は予断を許さない。

受け入れ拒否派が多数を占めた場合、ギリシャ政府は民意を盾に改めて財政再建策の再考を求めるとみられるが、債権者側がこれに応じる可能性は低い。追加支援に関する協議は完全に決裂し、ECBはELAを打ち切る可能性がある。

ギリシャの国庫に銀行救済の原資はなく、銀行の劣後債保有者や高額預金者(預金保護の対象外)に負担を求めるだけでは十分な救済資金が確保できない場合、ギリシャ政府は結局のところ欧州連合(EU)諸国の支援を仰がなければならなくなる。あるいは、独自通貨の発行などで銀行救済資金を賄うならば、ユーロ離脱への道を歩み始めることを意味する。

債権者側はギリシャのデフォルトや国民投票の結果が受け入れ拒否となっても、まずはギリシャのユーロ残留を前提に努力する方針を表明している。ただ、財政再建策の再考を求めるギリシャ側の強硬姿勢が続けば、債権者側もギリシャのユーロ離脱に傾いてこよう。そもそも、EU条約にはEUからの離脱規定はあるが、ユーロ圏からの離脱規定は存在しない。EU離脱規定を援用するのであれば、一方的な離脱や離脱の強制はできない。

つまり、ギリシャ国民がユーロ残留を希望する限り、デフォルト後もそのまま居座ることも可能だ。ただ、この辺りは離脱規定が存在しないこともあり、推測の域を脱せず、実際に起こってみなければ、本当に居座ることが可能か、離脱の場合、どういう手順で離脱を進めるのかは不透明だ。

受け入れ賛成派が多数を占めた場合、ギリシャ政府は財政再建策の受け入れに傾くが、与党内の強硬派がこれに反発し、政権が崩壊する可能性が高い。この時、支援継続派が挙国一致内閣を組織できれば協議はそのまま継続するが、それができなければ議会の解散・総選挙が必要になる。この場合、支援継続派の新政権が誕生する可能性が高いが、新政権が発足するまでの1カ月半から2カ月程度は協議が中断し、ギリシャの経済疲弊と財政悪化が一段と進むことになる。

挙国一致内閣や新政権の下で支援協議が再開したとしても、すでに支援プログラムが失効しており、今のプログラムを土台に新たな支援プログラムを作成する必要がある。一連の騒動でギリシャに対する不信感が高まっており、債権者側はより厳しい改革要求を突き付けたり、より確固な事前行動を求める可能性がある。そのことが新たな対立の火種となる恐れも否定できない。

債権者からの厳しい改革要求と政権内の強硬派や支持層からの突き上げの板ばさみにあったギリシャの新政権は、緊縮見直し要求を貫き通すことが難しいことを認識していながらも、交渉期限のギリギリまで粘ることで債権者側から最大限の譲歩を勝ち取ることを目指してきた。だが、債権者側はギリシャに甘い顔をすることで、他のEU諸国に広がる反緊縮機運や反体制派政党の勢いが増すことを警戒。他国への波及リスクがかつてに比べて限定的であることや、EUに対する信任を守る大義もあり、ギリシャに厳しい態度を貫き通した。

22日のギリシャからの新提案もギリシャ政府にとっては最大限の譲歩だったのに対し、債権者側にしてみればようやく議論の出発点であり、双方の溝は余りに大きかった。債権者側の譲歩を引き出そうとするギリシャ側の権謀術数も、債権者の不信感と苛立ちをさらに深めるばかりで、政権内部の強硬派の不満のガス抜きや政権に対する国民の支持を保つ以外に目立った成果を上げることにはつながらなかった。

破天荒で理想主義者の素人政治集団はエスタブリッシュメントが支配するEU政治の中で孤立。交渉に重要な対話のルートも閉ざされ、最後は双方をつなぐパイプ役からも見放された。ギリシャはいよいよユーロ離脱に突き進むのか、ギリシャとユーロの未来を決する国民投票の期日が迫る。

◆「ギリシャ支援交渉、決裂までの経緯」

週末にかけてギリシャ情勢が急展開した。6月30日にEUの二次支援プログラムの失効期限とIMF向けに約15億ユーロの融資返済期限を控え、ギリシャ政府と債権者団はこれまで融資再開に向けたギリギリの交渉を続けてきた。22日の緊急財務相・首脳会合の直前にギリシャ政府が提出した新提案に対して、EU高官などからポジティブな評価が聞かれたこともあり、先週前半までは土壇場で双方が歩み寄りに向かっているとの期待感が高まっていた。

だが、その後も交渉は難航した。22日の提案も当初誤ったものが債権者団に送られ、会合直前になって正しい提案に差し替えられたと報じられ、債権者側は新提案の中身を十分に精査できなかった。特にギリシャの財政再建計画が法人税率の引き上げや年金の雇用主負担の増加など企業負担の増加につながる政策メニューに偏っており、年金給付の削減などに十分に踏み込んでいない点が問題視された。

ギリシャ国内でも、債権者に提出した財政再建策に、島に対する付加価値税(VAT)の軽減税率の適用廃止が盛り込まれたことに対し、連立パートナーの「独立ギリシャ人(ANEL)」が猛反発。その後に提出した修正提案では、適用廃止案を撤回し、代替措置を盛り込んだが、債権者側の理解を得ることはできなかった。

当初ギリシャの新提案を前向きに評価していたEU諸国も、ギリシャ債務の持続可能性に疑問を持つIMFの主張に賛同し、年金給付の削減やVATの引き上げなどを求めることで一致した。再三の厳しいやり取りの応酬でギリシャ支援に懐疑的な見方が広がっていたドイツ議会では、IMFなしのギリシャ支援は受け入れられないとの意見が多数派を占め、ドイツ政府もIMFに歩調を合わせた。

ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領は26日のチプラス首相との会談で、債権者側の財政再建計画を受け入れることを条件に、支援プログラムの11月末まで5カ月間の延長と155億ユーロの追加融資の分割実行を約束する事実上の最後通告を突きつけた。緊縮見直しを公約に掲げて1月の総選挙で誕生したチプラス政権としては、これ以上の債権者への譲歩は国民が選挙を通じて政権に付託した権限を逸脱すると判断。独仏首脳会議を終えて帰国したチプラス首相は27日、与党内で対応を協議した後に国民向けのテレビ演説で、債権者側が求める財政再建策を受け入れるかどうかをめぐって、7月5日に国民投票を実施することを表明した。

ギリシャ政府は国民投票の結果が判明するまでの間、月末に失効予定の支援プログラムを延長することを債権者側に求めた。27日に開かれた緊急のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)では、ギリシャ側の提案を拒否し、支援プログラム(中断中の最終融資を受け取る権利や銀行救済に充てる予備資金を利用する権利など)とそれに関連した取り決め(ECB保有国債の超過収益のギリシャへの還元など)が予定通り6月30日に失効することを明らかにした。会合後に発表された声明では「最後の瞬間までギリシャ国民に対する追加支援の門戸は開いている」とし、ギリシャ側の国民投票の実施方針撤回と債権者側の改革提案受け入れに望みをつないだ。

だが、同日ギリシャ議会で行われた国民投票の実施の是非をめぐる採決では、連立与党の「急進左派連合(SYRIZA)」と「独立ギリシャ人」に加えて、反ユーロを掲げる極右政党「黄金の夜明け」が投票実施に賛成票を投じた結果、残りの野党勢が揃って反対票を投じたものの、賛成多数で国民投票の実施が決まった。今後、支援継続派の前与党「新民主主義党(ND)」出身のパブロプロス大統領の仲裁やギリシャの国内世論の反発が強まれば、土壇場での投票撤回の可能性もわずかに残るが、今のところ投票実施の可能性が高い。

*田中理氏は第一生命経済研究所の主席エコノミスト。1997年慶應義塾大学卒。日本総合研究所、モルガン・スタンレー証券(現在はモルガン・スタンレーMUFG証券)などで日米欧のマクロ経済調査業務に従事。2009年11月より現職。欧米経済担当。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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