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コラム:日本株は「反発」目前、英離脱の悲観無用=武者陵司氏
2016年7月5日 / 07:46 / 1年後

コラム:日本株は「反発」目前、英離脱の悲観無用=武者陵司氏

[東京 5日] - 英国民投票での欧州連合(EU)離脱決定は、予想外の出来事だった。ただし、その結果以上に驚かされたのが、海外市場、特に欧州株式相場の初期反応である。

投票結果が判明した6月24日の前日比騰落率を見ると、英国株(FTSE100指数)の下落率は3.1%と主要国の中で最も小さく、また取引時間中の安値からのリバウンドも6%と大きかった。一方、ドイツ株(DAX)とフランス株(CAC40)はそれぞれ6.8%と8.0%の下落。南欧諸国はさらに大きく値を下げ、スペイン株(IBEX35)12.4%、イタリア株(FTSE・MIB)12.5%、ギリシャ株(ASE)13.4%と下落率は2ケタ台に乗せた。

むろん、英ポンドは主要通貨に対して大幅に下落したため、ドルやユーロで換算した英国株の下落幅は独仏株などよりも大きい。だが、それでも英国株の年初来の騰落率がその後すぐにプラスに戻していることは注目に値する。要するに、英国のEU離脱(ブレグジット)がもたらす経済的なダメージは、むしろ南欧諸国を中心とする大陸欧州側で大きいと市場は認識したのである。

<EUが離脱後の英国を冷遇できない訳>

実は私自身、同じような認識を持っている。初期反応で英国株と大陸欧州株の明暗が鮮明に出たことには驚いたが、英国経済基盤の相対的な強さは明白だ。

言うまでもなく、英国は世界で最もサービス産業化・脱工業化が進んだ経済である。商品輸出の世界シェアは3%弱だが、サービス輸出の同シェアは7%と、米国に次ぐ2位だ。銀行資産規模は対国内総生産(GDP)比で800%と世界断トツである。

また、世界一の開放経済でもある。対外直接投資の対GDP比率は70%と、ドイツの42%、米国の28%、日本の16%を大きく引き離す。上場企業株式の外国人保有率も54%と、世界最高水準にある。さらに、資本主義、市場経済、民主主義、諸法体系、英語など英国発のグローバルスタンダードは枚挙にいとまがない。

しかも、英国は依然として世界人口の3分の1を占める英連邦の主宰国だ。その構成国はインド、シンガポール、マレーシアなどのアジア諸国から、オーストラリア、ニュージーランドなどのオセアニア、そしてカナダやジャマイカなどの北米から、さらにナイジェリアや南アフリカなどのアフリカ諸国まで53カ国に及ぶ。

そして、今後の世界経済の成長をけん引する国・地域は米国・インドを筆頭に、東南アジア、アフリカなど、むしろ非EU圏に存在する。もしも英国が大英帝国の遺産である英連邦を足掛かりに、国際通商戦略を組み直していくならば、EU側も離脱後の英国を冷たくあしらうわけにはいかないだろう(逆に冷遇すれば、EU側が凋落するだけだ)。英国は対EUの貿易赤字をGDP比の4%も持っている、EUの「大得意」であり、ドイツなどの大陸欧州諸国が、その市場をみすみすギブアップするとは考え難い。

むろん、英国で金融業の免許を持っていればEU全域で営めるというシングルパスポート制度が失われれば一定の影響は避けられないが、上記のような英国の金融経済基盤の抜きんでた強さを考えれば、早晩、フランクフルトやパリがロンドンに取って代われるとは思えない、また、ブレグジットの悪影響と喧伝されるポンド安も、むしろ関税負担の増加分を相殺したり、インフレ率を高めたりと経済活動にメリットとして作用する可能性がある。

このように考えると、国際金融拠点、サービス業拠点としての英国の地位はブレグジット後も変わらないのではないか。実際、EU未加盟国のスイスやノルウェーは欧州で良好なビジネス関係を構築している。

一方で、ブレグジットに伴う「EU離脱ドミノ」の発生リスクも杞憂だと私は考えている。いかにEU懐疑派が台頭しているとはいえ、イタリア、スペイン、ギリシャなどの南欧諸国が、信認の高い通貨(ユーロ)を手放すとは考え難い。手放せば、国債利回りが急騰するのは目に見えているからだ。それは、危機に瀕した重債務国ギリシャのチプラス政権がかつての強硬路線を封印して、EUとの協調路線を追求していることからも明らかだろう。

さらに言えば、今回の出来事は、欧州の危機感をいい意味で高めるかもしれない。特に期待されるのが、記録的な財政黒字と世界最大の貿易収支黒字という「双子の黒字」を貯め込むドイツが、欧州経済の不透明性を払拭(ふっしょく)すべく、拡張的な財政政策にシフトすることだ。ドイツ国債利回りはスイス、日本に次ぎとうとうマイナスとなった。過剰貯蓄が流動性の罠を引き起すという、日本と同様の金融不全状態に陥りつつあり、放置されれば金融セクターの健全性を大きく損なうという局面にある。

1980年代の米国の双子の赤字同様、過度な双子の黒字も世界経済の不均衡をもたらしているという点では好ましくない。ドイツの一人勝ち状態は、EU懐疑論の大きな根拠でもある。

また、総需要不足の中で余剰資金が金融市場を不能化するという双子の黒字問題に直面し、ドイツにも財政出動は必要な局面だ。ブレグジットを機に、財政支出拡大に対するドイツの消極的な姿勢が変わっていくならば、まさに「雨降って地固まる」とも言えるだろう。

<日本株とドル円のカギを握るのは中国>

では、こうした認識を前提に、日本株とドル円相場については、どのような展望を持てばよいか。カギを握るのはブレグジットよりも、むしろ中国の経済情勢であると考えている。

上述したようにブレグジットの影響が限定的だとすれば、米国経済が堅調である以上、相場のかく乱要因は引き続き中国発となることが多そうだ。中国経済が崩れるならば、日本株とドル円のさらなる大幅な下落も十分にあり得ると警戒すべきだ。

ただし、その可能性は現段階ではかなり低いと見ている。過剰投資・過剰融資に支えられてきた中国の高成長は長期的には持続不可能であるものの、徹底的な資本コントロールなど中国当局のなりふり構わぬテコ入れ策によって、時間をかけた軟着陸が試みられているからだ。中国の官制経済に関するメインシナリオはハードランディングよりも、やはり緩慢な衰退だろう。

そのような中では、世界的な金融安定化が想定できる。よって、日本株(日経平均)については、年初の高値(1月4日の1万8951円)には戻らないとしても、英国民投票の結果判明後の安値(6月24日の1万4864円)から秋口に向けて大きくリバウンドし、1万8000円から1万8500円を目指す可能性が高い。今年前半に不確実性やリスクを過度に織り込んだことを考えれば、それらの懸念が和らぐことによる「リリーフ・ラリー(安堵感から来る株価の上昇)」も目先望めそうだ。

一方、6月24日に99円ちょうど付近まで円高ドル安方向に急落したドル円レートも、さらなる下落は考えにくい。経済ファンダメンタルズの比較で、ドルに分がある状況に変わりはないからだ。

ここにきて、日本の経常収支の黒字拡大が円高要因とさかんに言われているが、黒字の大半は海外配当金や債券利子など第1次所得収支が占めている。特に近年は、日本企業の海外進出を背景に直接投資収益が増えている。これら企業の帳簿上に表れている過去の直接投資の果実それ自体は、足元の為替需給とは直接的にほとんど関係ない話だ。

足元の円高をもたらしているのは、米金融政策のハト派化である。そして、その理由は米景気の弱さではなく、世界景気の不透明性であり、米連邦準備理事会(FRB)が事実上の世界の中央銀行であるがゆえだ。特に米金融政策当局が現在、最も重視しているのは、世界にリスクオフの芽をまき散らしかねない中国人民元の一層の下落に歯止めをかけることだろう(逆に言えば、行き過ぎたドル高の抑制だ)。

したがって、人民元相場が安定化し、これ以上のドル安が不要となれば、米経済の堅調さを背景に、FRBが再び利上げ姿勢に転じることで、ドル円の下落にも必然的に歯止めがかかるだろう。世界の金融安定化とともに年後半に向けて105円から110円手前まで、円安方向に戻る可能性は高いと私は見ている。

英国のEU離脱(ブレグジット)で深刻化する世界的な資金余剰や金融市場の不能化は財政政策によって解決を図る必要があり、今後、主要国に求められるのは新たなケインズ政策だと、武者リサーチの武者陵司氏は指摘する。

*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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