July 17, 2015 / 8:32 AM / 4 years ago

コラム:介入が導く「中国株式市場の死」

武者陵司 武者リサーチ代表

 7月13日、武者リサーチの武者陵司代表は、なりふり構わぬ中国政府の株価テコ入れ策は市場原理の否定そのものであり、グローバルな尺度で見て中国株式市場の死を意味しかねないと指摘。提供写真(2015年 ロイター)

[東京 13日]- 中国の共産党政権がいよいよ本性をむき出しにしてきた。今回の株暴落局面で同国政府が繰り出した一連の相場テコ入れ策を見るにつけ、筆者はそうした思いを強めている。

この間のテコ入れ策をざっと挙げれば、当局の大号令に従った大手証券会社21社による1200億元(約2兆4000億円)規模の上場投資信託(ETF)購入、新規株式公開(IPO)の承認凍結、大量保有株主による株式売却の半年間停止、「悪意ある空売りの懲罰」など、市場経済システムを採用している国から見れば、もはやあり得ないものばかりだ。

一部には、8日の暴落を受けて、中国株はあたかも底なし沼に落ちたかのような見方も広がっているが、中国政府は今後も信じがたい手を繰り出してでも株価のさらなる暴落を食い止めるだろう。

まず当面は恐怖の連鎖を断ち切るために、市場原理を無視したあの手この手を使って、「これ以上は下がらない」という官製相場のフロアーを明確に示そうとする可能性がある。上海総合指数で言えば、春先以降の急騰局面前の水準である3500ポイントから4000ポイント近辺だろうか。

本来、市場経済のルールが通用する世界において、相場の下落局面で当局が下支えに動けば、投機筋の「格好の餌食」となり、その売り圧力の前に打ち負かされるのが常だが、中国株式市場はいまだ国際金融市場から事実上隔絶されている。その特異性を生かして、官製フロアーどころか、いったんバブルが破裂したように見せて、もっと壮大なバブル、例えば上海総合指数で言えば1万ポイントへの大相場すらも作りかねないのではないか。

むろん公的介入で株価が持ち直せば、帳簿上の富がある程度確保されるのは事実だが、本源的企業価値からはどんどん乖(かい)離してしまう。株価は、言うなれば経済の体温計である。その「目盛り」を意図的に変えてしまうことは市場原理の否定そのものであり、グローバルな尺度で見て中国株式市場の死を意味しかねない。

<マネーの質が劣化、頼みの綱は公共投資>

資産市場への公的介入は、ある意味で、共産党一党独裁体制の宿命と言える。短期的な高成長路線を優先するあまり、資産バブルの膨張を許してしまった(あるいは暴落の恐れがあっても、資産効果に頼らざるを得ないほど、政策手詰まりに陥っていた)わけだが、いまさら崩壊するままに任せて、政治システムを揺るがすような社会不安を起こすわけにはいかない。今後も弥縫(びほう)策を繰り返すしかないだろう。

周知の通り、中国経済の衰弱は顕著である。粗鋼生産量や鉄道貨物輸送量、発電量、輸入数量などは軒並みマイナス領域か、大幅な鈍化傾向にある。2010年には前年比20%増だった工業生産額も2015年に入って以降、5―6%増にとどまっている。特に中国経済の屋台骨を担う国有企業は2%そこそこの伸びまで低下している。消費も減速しており、自動車販売は4月、5月、6月と3カ月連続で前年比マイナスとなった。

成長の「質」の劣化も明らかだ。例えば、景気減速下で家計の所得や貯蓄が伸び悩む一方、銀行融資は前年比で15%近く増えている。金融機関が身の丈以上に信用供与していることが見て取れる。

中国国務院(内閣に相当)は6月、商業銀行の預貸率の上限規定を撤廃することを明らかにした。金融改革の一環と言えば聞こえはいいが、景気減速下で資金供給拡大を促そうとする背景には、外貨流入が減少し、企業収益が悪化することなどによって中国の資金的困難が一段と深刻化しているという裏事情があろう。

また、報道によれば、地方政府が保有する債務を証券化して、それを人民銀行(中央銀行)が引き受ける荒技までもが検討されているという。証券を裏付けとした通貨の供給は、中国型量的緩和(QE)だとの自画自賛の声も伝えられているが、実際のところは不良債権を中央銀行が引き受けて、通貨を供給するに等しい行為だ。中国は2013年頃を契機に急速に資金的な困難に陥り、輪転機を回すプリンティングマネーでしのいできたが、そのマネーの質がどんどん劣化している。

こうした状況下、高い成長率を無理やり維持しようとしても、成長をけん引してきた不動産投資や設備投資はすでに完全に失速状態にある。こうなると残された唯一の手段として、なりふり構わぬ巨額の公共投資で乗り切っていこうとする可能性が高い。高速鉄道、高速道路、地下鉄などへのインフラ投資が、過剰投資の上に屋上屋を重ねるがごとく繰り返されるのではないだろうか。

<日本株への影響は限定的、中国は緩慢な衰退へ>

ただし、上記のようなシナリオは、見方を変えれば、破局的な経済崩壊は目前には迫っていないことを意味する。一部の悲観論者は、今回の株暴落は中国経済のハードランディングが近いことを示していると言うが、現実に起こることは、もっと中長期にわたって続く「緩慢な衰退」になるのではないだろうか。

その意味で、中国要因が短期的に日本株の地合いをさらに著しく悪化させたり、ただちに日本経済の失速を招いたりすることはないと考える。一部には、中国株安に伴う損失を日本株売却で穴埋めしようとする動きがあり、今後も続くとの見方もあるが、それは違うだろう。8日以降の日本株下落を主導したのは投機筋であり、先ほど述べた通り、中国株式市場は世界の金融市場から事実上隔絶されているので、中国株が下がっても、益出しのための大規模な他国株売却は起こらないと思う。

また、株のバブル崩壊は、ただちに経済の収縮に結びつくものではない。例えば、1990年にバブルが崩壊した日本がマイナス成長に陥ったのは3年後のことだ。ましてや中国は政府の指令ひとつで、いくらでも需要を作れる経済システムを採用している。その意味で、中国に関する短期的な市場リスクをあまり過大に考える必要はないと思う。むしろ日本株への短期的リスクは、ギリシャ問題の方が大きいのではないだろうか。

あえて懸念をひとつ挙げれば、中国の市場は世界から事実上隔絶されているとはいえ、ある穴を通して、同国の困難が外にリークアウト(漏出)する可能性は本当にないのかどうかだ。恐らく、その穴があるとすれば香港経由となろう。

対内直接投資を見れば、中国へのマネー流入を支えているのが香港であることは明白だ。特に2008年のリーマンショック後にその傾向は強まり、2014年には全体の流入額の7割強を占めている。投資主体が香港人なのか、香港経由で再投資をしている中国本土居住者なのか、それとも台湾人かシンガポール人なのかは不明だ。また、さまざまなチャンネルを通してグローバルな金融機関が中国に貸し付けている債権もあろう。

こうした債権の毀損状況によっては、中国の困難がグローバルに伝播することもあり得るのかもしれない。「蟻(アリ)の一穴」という言葉もある。香港経由のマネーの流れには特に注意が必要だろう。

*武者陵司氏は、武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。87年まで企業調査アナリストとして、繊維・建設・不動産・自動車・電機エレクトロニクスなどを担当。その後、大和総研アメリカのチーフアナリスト、大和総研の企業調査第二部長などを経て、97年ドイツ証券入社。調査部長兼チーフストラテジスト、副会長兼チーフ・インベストメント・アドバイザーを歴任。2009年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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