September 9, 2016 / 9:11 AM / 2 years ago

コラム:国債購入の柔軟化目指す日銀レトリック=河野龍太郎氏

[東京 9日] - 5日の黒田東彦日銀総裁講演、8日の中曽宏日銀副総裁講演から見えてきたのは、長期国債ターゲットを柔軟化させるための理由づけだ。金融緩和のコストを強調することで、物理的な限界論とは異なる、金融政策の枠組み変更のためのレトリックが固まってきたように思われる。

想像力を働かせながら講演を読み返すと、以下のような解釈が可能なのではないか。

<レトリックとしては金融仲介機能への配慮>

●「量的質的金融緩和(QQE)」「マイナス金利」はともに効果は大きいが、今後も強力な政策を追求していくと、その副作用として、イールドカーブの大幅なフラットニングなどで金融機関の収益に悪影響が及び、金融仲介機能が損なわれる懸念がある。金融緩和の効果を最大限発揮させるには、こうしたコストにも配慮する必要があり、今後、イールドカーブの極端なフラットニングを避けなければならない。

●その対応策として、具体的には、長期国債購入ターゲットを柔軟化させる必要があり、長期国債の購入量や購入年限を機動的に変化させる。購入量や購入年限を柔軟化させるのは、あくまで金融仲介機能に配慮するためであって、長期国債購入ターゲットが物理的な限界に近づいたからではない。

●それゆえ、大幅な円高など大きな総需要ショックが生じる場合、必要になれば、マイナス金利の深掘りや上場投資信託(ETF)購入の増額だけでなく、長期国債購入量の拡大も可能であり、今後も、量、質、金利の三次元での金融緩和が可能である。

もちろん、執行部の本音は、長期国債購入が物理的な限界に近づき、量的ターゲットから金利ターゲットへ移行せざるを得ないということだ。しかし、それをストレートに説明すると、マネタリスト的な見方に郷愁を覚えるボードメンバーからの賛同が得られないかもしれない。

また、それ以上に厄介な問題は、為替市場を中心にマネタリー・アプローチの有効性を信じる外人投資家が存在するため、量的ターゲットから金利ターゲットに明確に転換すると、期待が剥げ落ち、円高が進むリスクがある。このため、長期国債購入ターゲットの柔軟化は、あくまでレトリックとしては、金融仲介機能の毀損を避けるための配慮でなければならない。

<1ドル=90円割れリスク浮上ならマイナス金利深掘りも>

今のところ、9月20―21日の金融政策決定会合では、長期国債購入ターゲットの柔軟化、具体的には購入額のレンジ化(70―90兆円)が行われ、追加緩和は実施されないと考えている。そもそも経済が完全雇用に入っており、失業率が3.0%まで低下しているのだから、マクロ安定化政策として、追加緩和は不要だ。

仮に、こうした枠組みへの変更に対し、為替市場がテーパリング(緩和縮小)、金融引き締めだと考え、円高が進んだ場合、10月以降、マイナス金利政策の深掘りが行われるかもしれない(長期金利の急騰については、長期国債を柔軟に購入することで対応可能であり、それは事実上の長期金利ターゲットの嚆矢になるだろう)。

ただ、マイナス金利の政治的なハードルはかなり高いと思われる。その一方で、7月末に決定したETFの購入倍増によって、株価の下値はサポートされている。このため、1ドル=100円を割り込んでも、直ちにマイナス金利の深掘りは行われないと考える。マイナス金利政策の深掘りは、1ドル=95円を割り込み、90円割れのリスクが出てきた時ではないか。今後の米国金融政策次第では円安進展の可能性もあり、当面、日銀は様子見が可能だ。

9月は追加緩和はなし、10月も可能性は小さい、というのが筆者の日銀の金融政策に関する見通しである。ただ、黒田総裁は新たな次元の対応に言及している。それは貸出支援基金オペを通じたマイナス金利での資金供給のことではないか。また、購入額のレンジ化として70―90兆円ではなく75―95兆円とすれば、それを金融緩和と呼ぶ可能性もある。

*河野龍太郎氏は、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミスト。横浜国立大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行し、大和投資顧問(現大和住銀投信投資顧問)や第一生命経済研究所を経て、2000年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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