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コラム:日米金融政策に潜むドル円波乱要因=門田真一郎氏
2017年2月3日 / 09:26 / 9ヶ月前

コラム:日米金融政策に潜むドル円波乱要因=門田真一郎氏

[東京 3日] - 国際金融市場は昨年11月の米大統領選でドナルド・トランプ氏が勝利して以来、同氏をめぐる政治・政策動向に右往左往する展開が続いており、金融政策の存在感がやや低下している。

1月半ば以降はトランプ政権からのドル高けん制・他国通貨安批判が報じられる中、米金利上昇にもかかわらずドル安が進む展開となり、ドル円相場も年初の118円台から112円台まで下落した。しかし、日米中央銀行は今年、それぞれ難しいチャレンジに直面しており、再び金融政策が相場の波乱要因になり得る点に注意が必要だ。

まず、日銀については、1月30―31日の金融政策決定会合で市場予想通り政策据え置きを決定した。展望レポートでは、2017―18年度にかけての国内総生産(GDP)成長率予測を上方修正する一方、コア消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く総合)については従来予測をそのまま維持した。決定会合自体に対する市場の反応は限定的なものにとどまったが、円債市場は日銀が昨年9月に導入した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」にチャレンジする展開となっており、為替市場も日銀の輪番オペに振らされた。

日銀は9月に導入したこの枠組みの下、10年物国債金利がおおむねゼロ%程度で推移するように国債買い入れを行っており、市場は0%からプラスマイナス10ベーシスポイント(bp)を許容レンジと想定してきた。しかし、今週後半は10年債利回りがプラス10bpを上回り、3日には日銀が国債買い入れ増額や緊急指値オペによる対応を迫られる展開となった。

<日銀の次の一手が招く円高リスク>

そもそも「金利」と「量」をともに追求する日銀金融政策の現行の枠組みは内部矛盾をはらんでおり、中長期的には持続可能ではないと判断している。特に、海外金利上昇や国内インフレ加速にけん引される形で円金利の上昇圧力が強まり、(今週のように)日銀が国債買い入れの増額に迫られる場合、最終的には市場における国債不足の問題に直面することにつながろう(意図せざる減額リスク)。

当社は日本のコアCPIが8月までに1%台に達すると予想しており、円債のスティープ化圧力は今後一段と強まっていこう。こうした中、日銀が秋頃に10年金利操作目標を引き上げると予想している。

また、2017年の国債買い入れ額(残高ベース)を年間80兆円程度から同60兆円程度に減額させていくと考えている。実際、日銀保有国債残高の増加ペース(年率)は昨年9月から12月末にかけて約3.8兆円減少しており、2017年もこのペースで減額を続けた場合、年末の買い入れペースは60兆円前後に着地する計算となる。

日銀がこうした措置を進める上では市場とのコミュニケーションが非常に重要だ。特に為替市場では、ドル円上昇見通しの根幹に日銀の長短金利操作による円金利上昇抑制を通じた日米金利差拡大を据える投資家が多い印象だ。そのため、コミュニケーションの失敗で過度な引き締め観測を生じさせた場合は円高が進む公算が大きい。

<米保護主義の景気押し下げ圧力>

次に、米国では1月31日―2月1日の連邦公開市場委員会(FOMC)で市場予想通り金融政策が据え置かれた。声明文ではデュアル・マンデート(2つの使命)である最大雇用・物価安定に向けた進展が認識されたが、トランプ政策をめぐる不確実性が大きい中、今後の具体的な利上げ時期などについての言明は避けられた。

米連邦準備理事会(FRB)にとって最大のチャレンジはトランプ政権の動向であることは間違いない。FRBの金融政策も、米国経済・物価見通しに大きな影響を与え得るトランプ政権の財政政策や保護主義政策との政策ミックス上の兼ね合いによるところが大きい。

当社は、トランプ減税が2017年後半から2018年前半の米国経済成長率を1.0―1.5%ポイント押し上げる一方、保護主義政策は景気押し下げ方向に働くと見ている。例えば、中国に対して15%、メキシコに対して7%の関税が実施された場合、米国の成長率は0.5%ポイント程度押し下げられると推計している。仮に20%の国境税が導入された場合の景気押し下げ効果は1.0―1.5%ポイントにまで広がると見られ、減税効果がほぼ相殺される計算となる。

財政・保護主義政策に加え、現在2人分の空席があるFRB理事の指名も重要だ。今年のFOMC投票メンバーは昨年と比べてややハト派寄りにシフトしたが、トランプ大統領の指名次第ではそのパワーバランスが大きく変わる可能性もある。むろん、2018年2月3日に任期を迎えるイエレンFRB議長の後任問題が今年後半には最大の焦点となろう。

<FRBのバランスシート縮小議論>

加えて、FRBでは現在進行中の金融政策正常化のプロセスにおいて、「金利」と「量」のバランスをめぐる議論が再び俎上(そじょう)に上っている。具体的には、2008年以降3度にわたる量的緩和で急増したFRBのバランスシートをいつ縮小させるべきかが焦点だ。

振り返れば「金利」か「量」かの議論は、バーナンキ前FRB議長が政策正常化を始める際に一度盛り上がったが、当時はバーナンキ氏を中心とする「まず金利」派が勝利し、超過準備付利(IOER)導入によって膨大なバランスシートを維持しつつ利上げを行うことを可能にした。結果、FRBは償還証券を再投資することで大規模なバランスシートを維持しているが、年明け以降は地区連銀総裁によるバランスシート縮小に関する発言が注目されている。

もともと、2015年9月のFOMC議事録では再投資政策について、1)政策引き締めの少し後に停止、2)政策金利が一定水準(1―2%)に達するまで継続、という選択肢が示されていた。FOMC自身の予測通り今年3度の利上げが実施されると、2017年末のフェデラルファンド(FF)レート誘導目標レンジは1.25―1.50%に達することとなる。そのため、今後バランスシート縮小に向けた議論が進展していくことが見込まれる。

その際、最終的に適切なバランスシートの規模および金融政策運営における準備預金の役割を決定していくことが重要だ。なお、当社はFRBの利上げが2017年は年2回にとどまると見ており、現時点でバランスシート縮小は予想していない。

以上を踏まえると、当面の金融市場はトランプ政権の動向に左右される展開が続くと見られるものの、今年、日米金融政策が再び市場の錯乱要因となる可能性には十分注意が必要だろう。ドル円相場については、日銀の長短金利操作とFRBの利上げの組み合わせから一段高を見込む向きも多いようで、投機筋の円ショートポジションは高水準で維持されている。

ただ、日銀金融政策の枠組みの持続可能性に疑問が残るほか、米利上げ加速の前提にあるトランプ政策も、減税より保護主義政策が前面に出ることで経済押し上げ効果が相殺される可能性もある点に留意したい。何より景気循環後期における財政拡張は将来需要の先食いにより、その後の谷を深めるリスクがあることに加え、保護主義政策は潜在成長率を押し下げる懸念がある。FRBのターミナルレート(政策金利の最終着地点)の上昇は抑制され、米長期金利の上昇余地も限定的となろう。

ドル円は当面、トランプ政権・政策をめぐるヘッドラインに振らされやすい展開が続こうが、中期的には大きな課題に直面する日米金融政策が相場の波乱要因となっていくリスクに注意が必要な年となろう。

*門田真一郎氏は、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券に入社し、銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当、2013―16年にバークレイズ銀行で為替ストラテジストを務めた後、16年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか、海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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