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コラム:トランプ政策とドル円、3つのシナリオ=門田真一郎氏
2017年3月27日 / 07:20 / 8ヶ月後

コラム:トランプ政策とドル円、3つのシナリオ=門田真一郎氏

[東京 27日] - トランプ大統領と共和党指導部は24日、医療保険制度改革法(オバマケア)の改廃法案である「アメリカン・ヘルス・ケア・アクト(AHCA)」の下院採決を撤回した。より完全な撤廃を求める共和党保守派グループ「下院自由議員連盟」などの反対で過半数の票を確保できなかったことが直接的な原因だが、そもそも今回の共和党案は国民の支持も非常に低いものだった。

3月16―21日実施の米キニピアック大学調査によれば、AHCAへの支持率は17%にとどまり、共和党支持者のみでも41%と半数に届いていなかった。

共和党内部の各方面に配慮していった結果、最終的な共和党案は無保険者を今後10年間に2400万人増やす一方、財政赤字の削減幅は1500億ドルと当初案の3370億ドルから大きく縮小するなど、支離滅裂な内容となっていた。

共和党指導部は今後、税制改革に軸足を移していくとしている。税制改革は共和党内でも比較的支持を集めやすいと目されており、市場でも期待感からか24日は株の買い戻しがみられた。ただ、オバマケア改廃交渉の難航はトランプ政権の運営能力に改めて疑問を呈する結果であり、今後の政策シナリオについては幅広い可能性を想定しておく必要があろう。

本稿では、マクロ経済・金融市場への影響が大きいとみられる税制改革と通商政策を中心に、基本シナリオ、強気シナリオ、弱気シナリオの3つの想定に基づいて検討したい。

<2011年以降のドル高トレンド終えんも>

まず基本シナリオでは、抜本的な税制改革を伴わない減税と対象を絞った象徴的な保護主義的通商政策を想定する。減税規模については、国内総生産(GDP)比1%程度の所得税減税と同0.5%程度の法人税減税によって、2018年1―3月期の成長率が1.3%ポイント程度押し上げられると見込んでいるが、昨年11月の大統領選直後の当初想定からは規模・時期ともに前提を後退させている。

通商政策は一部の国に対する業種別の関税適用など象徴的な域を出ないものになると考えている。トランプ大統領が共和党予備選の頃から主張していた中国、メキシコに対する大規模関税などは結局実現に至っていない。

また、その他インフラ投資などの政策は執行に時間を要するものも多く、短期的な景気刺激効果は限定的なものになるだろう。こうした前提の下、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策については今年3回の利上げ(3月、9月、12月)を予想している。

財政拡張の遅延と規模縮小、そして緩やかな利上げは、先行きドル高が小幅にとどまることを示唆している。現在では年内のドル指数の上昇余地は3%程度にとどまり、年末にも2011年以降続いた長期ドル高トレンドがピークを迎えると考えている。ドルはすでに大幅な過大評価水準にあり、他国経済の持ち直しによって米国経済の循環的な優位性が失われる中、ドル高が一服していくとみる。

トランプ政策が短期的な財政刺激に終始し、潜在成長率の押し上げが限定的にものになるとみられる中、米長期金利の上昇余地もかなり限られよう(2017年末の米10年金利を2.5%と予想)。

すでにFRBの年3回の利上げも織り込まれつつある中、米金利上昇によるドルの押し上げも限定的なものとなりそうだ。特に米金利差主導で上昇してきたドル円は今年半ば以降、110円を割り込み、円高が進むとみている。ポンドも実質実効レートではほぼ半世紀ぶりの割安水準にあり、中期的には対ドルで買われやすいとみる。

<弱気シナリオに傾くリスク>

次に、強気シナリオとしては、大規模減税、法人税制の簡素化、国境税調整などを含む抜本的な税制改革が実施された場合を想定している(通商政策は基本シナリオ同様、象徴的な範疇にとどまると仮定)。

国境税調整は実質所得減少を通じて短期的な個人消費の押し下げ圧力となろうが、最終的には税制改革とともに米国内での設備投資拡大につながるとみている。この場合、米国の潜在成長率が押し上げられ、実質金利上昇や資本収益率の改善から長期フォワード金利が押し上げられ、基本シナリオ対比で8―9%のドル高余地が生じよう。

低付加価値生産国の新興国通貨が売り圧力に晒されやすい一方、資本財出荷国(日本、ユーロ圏、スイス、スウェーデンなど)や高付加価値製品を生産する新興国の通貨(一部の東アジア諸国)はアウトパフォームしやすいだろう。

最後に弱気シナリオでは、財政拡張が規模・時期ともに失望を招く結果となり、昨年11月以降に市場で織り込まれてきた政策期待やアニマルスピリットが剥落していくというものだ。経済政策の失敗を受けたトランプ政権は有権者の支持確保に向けて保護主義政策を一層推進するリスクもあろう。この場合、市場の米利上げ期待も大きく後退する中、米金利と米株価が低下し、2011年以降の長期ドル高トレンドが早期に終えんを迎えよう。

市場ではディフェンシブ型ポートフォリオへの資産再配分が進み、安全通貨である円やスイスフランが買われる一方、新興国通貨のうち、世界経済・米国経済の需要ショックに左右されやすい東アジアやメキシコは下落圧力に晒されるだろう。最近のオバマケア交渉の結果を踏まえると、リスクはどちらかというと弱気シナリオに傾いていると思われる。

トランプ政策は米国経済やドルのみならず、グローバルな金融市場に大きな影響を及ぼす。その根幹の1つだったオバマケア撤廃が暗礁に乗り上げた今、他の政策を巡る交渉も一筋縄ではいかないリスクが高まっており、幅広い政策シナリオを想定しておくことの重要性が増している。

*門田真一郎氏は、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券に入社し、銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当、2013―16年にバークレイズ銀行で為替ストラテジストを務めた後、16年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか、海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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