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コラム:「トランプ相場」逆回転の真相=門田真一郎氏
2017年6月7日 / 08:57 / 5ヶ月前

コラム:「トランプ相場」逆回転の真相=門田真一郎氏

[東京 7日] - 低調な5月米雇用統計を受け、米金利低下・ドル安が一層加速しており、いわゆる「トランプ相場」は終焉の様相を強めている。米長期金利は昨年10月以降で初めて200日移動平均を下回ったほか、ドル指数も昨年11月の米大統領選以来の低水準となり、ドル円相場も約1カ月半ぶりに110円を割り込んだ。

しかし、その一方で、世界の株式市場は4月23日と5月7日に実施された仏大統領選以降、再び騰勢が強まっており、米S&P500指数を中心に最高値を徐々に押し上げる展開が続いている。

為替・債券市場が示唆するように「トランプ相場」はすでに終わったのだろうか。または、株式市場でみられるように「トランプ相場」はなお健在なのだろうか。

<「トランプ相場」の陰の立役者>

為替・債券市場と株式市場の乖(かい)離の背景および今後の相場を見通す上では、まず「トランプ相場」の陰の立役者を認識することが重要だろう。

そもそも、米大統領選以降に「トランプ相場」と呼ばれた世界的株高・金利上昇・ドル高の流れは、実際のところ昨年夏頃からすでに始まっていた。日米欧の10年債利回りが底を打って上昇に転じたのは昨年7月であり、ドル相場も昨夏に底固めの様相が強まった。世界株価の上昇率(前年比)が2015年秋以降のマイナスからプラスに転じたのも昨年7―8月頃だった。

こうした背景には、世界経済における2つの重要な変化があった。グローバルな景況感の急速な改善、そして物価下振れの一服だ。

前者については、各国・地域の製造業購買担当者景気指数(PMI)などの加重平均指数(グローバル製造業景況感指数)は2014年半ばから2016年初めにかけて大幅に下落し、世界的な製造業のリセッション(景気後退)とも言われる事態となっていたが、2016年春にはグローバル景況感指数に底入れの兆しが現れ、夏以降は一段と改善基調が強まった。

円相場はグローバル製造業景況感指数との逆相関が最も強く、2016年初めには世界的な景況感悪化を背景に急激な円高となっていたが、昨年6月の英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択直後の1ドル99円で底打ちした。

後者については、2012年半ば以降、先進国と新興国を問わず世界的に消費者物価(CPI)が市場予想を下振れながら減速する事態が常態化していたが、2016年夏にはこうした世界的な物価の下振れが一服した。原油価格の持ち直しに加え、中国の生産者物価(PPI)が2016年後半以降に大きく上昇したことがインフレ圧力への懸念を増幅させ、主要国における期待インフレの上昇につながった。

こうした状況に鑑みると、昨夏以降の市場転換の背景には、トランプ政策への期待というよりも(その影響を完全否定するわけではないが)、世界経済のファンダメンタルズの改善という、より根本的な地殻変動が主因だったと考えられる。

トランプ大統領当選・共和党の上下両院過半数確保が財政拡張期待を通じて米景気後退懸念を遠のかせたことによるポジティブな影響を否定はしないものの、これらは昨夏から始まっていた世界経済の転換を背景とする相場の流れを後押ししたにすぎないと考えている。その点では、「トランプ相場」という言葉自体、トランプ政策期待の影響を過大評価しているとも言えよう。

<再び勢いを失う世界経済>

ただ、昨年夏以降の相場の原動力となっていたグローバルな景況感の改善や物価基調の持ち直しは、いずれも今年に入り勢いを失い始めている。

まず、グローバル製造業景況感指数は2017年2月に6年ぶりの高水準をつけた後に下落に転じている。この一因として中国における政策支援の弱まりが挙げられよう。中国は2016年に成長安定に向けた大規模な財政拡張を行ってきたが、公的部門の固定資産投資の減速で確認される通り昨年末以降は財政政策による景気支援が大幅に縮小している。

物価については、世界のインフレ・サプライズ(物価指標の市場予想からのかり離)が2月から3カ月連続でマイナス(物価下振れ)に逆戻りしている。原油価格の上昇が一服したことに加え、米国をはじめとする主要先進国では労働市場の引き締まりにかかわらず賃金上昇圧力が弱いほか、ユーロ圏では年初にみられたエネルギー主導の上昇圧力がすでに巻き戻され始めており、英国の川上物価はポンド安によるインフレ圧力の剥落を示唆している。

また、中国PPIも商品市況とともに頭打ちとなっており、年末にかけて再びゼロ%近くまで鈍化することが見込まれる。実際、PPIの先行指標である中国製造業PMI投入価格指数は約1年ぶりに上昇・下落の分岐点である50を割り込んだ。

<ドル円は年後半に110円割れ定着へ>

これまで述べてきた通り、筆者は「トランプ相場」の真のけん引役は世界経済および物価情勢だったとみており、今後もこうしたファンダメンタル面での材料が相場をけん引していくと考える。

ドル円相場については、グローバルな景況感が年初の高水準から調整を続け、物価の下振れ基調が再び強まる中で、今後も下押し圧力にさらされ続けると考えている。

ただ、少なくとも現時点では、2016年前半のように世界経済が大きく悪化しているほどの局面ではなく、あくまで高水準からの調整であることから、基本シナリオとしては急激な円高は想定していない。景況感がピークアウトしつつもなお高水準にあることは、従来ほどでないにせよ、株式市場をはじめとするリスク・センチメントに対する支持要因でもあり続けるためだ。

為替、債券、株式など主要資産のボラティリティーが軒並みかなりの低水準に落ち込んでいることも、投資家のリスク許容度を高めているとみられる。

そうした中、米連邦準備理事会(FRB)の金融政策(6月利上げはコンセンサスだが、今後の利上げ見通しやバランスシート政策については不透明性が残る)、トランプ政権の動向(「ロシアゲート」捜査やオバマケア改廃・税制改革の行方)、地政学リスク(北朝鮮情勢など)を巡る不確実性に振らされながら、水準をじりじりと切り下げ、年後半は110円割れが定着していくと予想している。

*門田真一郎氏は、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券に入社し、銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当、2013―16年にバークレイズ銀行で為替ストラテジストを務めた後、16年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか、海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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