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コラム:米減税は迫力不足、来春ドル110円割れも=門田真一郎氏
2017年11月10日 / 04:18 / 7日後

コラム:米減税は迫力不足、来春ドル110円割れも=門田真一郎氏

[東京 10日] - トランプ米大統領が就任後初のアジア歴訪の途に就く前日、米下院は税制法案を公表した。夏場にオバマケア改廃で頓挫した共和党議会は、来年11月の中間選挙に向けて税制法案の成立に躍起となっているが、上下両院案の溝を埋めるのは一筋縄ではいかないだろう。

米連邦準備理事会(FRB)次期議長人事も波乱なく終えた今、9月以降反発したドルの帰趨を占う上で米国の税制審議が最大の焦点となっている。

<「税制改革」ではなく「減税」、成長底上げ効果は限定的>

税制改正が経済・市場に与える影響は、減税(需要刺激)か税制改革(供給拡大)かによって大きく異なる。減税は可処分所得の増加による個人消費の活性化や資本コストの引き下げによる設備投資の喚起を通じて成長率を短期的に押し上げる。

一方、税制改革(例えば包括的な法人税制改革)は生産性改善や資本ストックの伸び率加速を通じて潜在成長率を押し上げることが期待される。米国政府当局は、今回の「税制改革」によって米国の成長率が今次景気拡大局面の平均プラス2.1%に対し同3%程度まで押し上げられると主張している。

ただ、共和党の税制法案「減税・雇用法」は、その名の通り「減税」であり「税制改革」とは言い難い。米シンクタンク「責任ある連邦財政のための委員会(CRFB)」によると、下院版法案の内容は、個人向け減税0.3兆ドル(減税3.3兆ドルに対し税基盤拡大による増税が3.0兆ドル)、企業向け減税1.0兆ドル(減税2.2兆ドルに対し税基盤拡大が1.2兆ドル)、遺産税撤廃0.2兆ドルで、合計1.5兆ドル(今後10年間)の減税となる。すなわち、個人向け減税に比べ財政乗数(景気刺激効率)の低い企業向け(特に大企業向け)減税に偏重した内容だ。

よって、下院法案通りの内容が可決された場合でも、2018年の実質国内総生産(GDP)成長率の押し上げは0.5%ポイントに満たないと当社は推計しており、需給ギャップ改善による物価上昇圧力も限定的にとどまろう。減税による一時的な景気加速後は反動リスクにも注意が必要だ。

減税による供給サイドへの影響も限定的にとどまる可能性が高い。設備投資の即時償却や法人減税は資本コストを幾分押し下げようが、米国の資本コストはすでに数十年来の低水準にあるほか、設備投資の資本コストに対する弾力性は高くない。また、トランプ政権の反移民・反貿易政策は生産性を悪化させる方向に働こう。

今後のステップとしては、下院本会議での下院版法案の採決が行われることと併行して、上院財政委員会が作成している上院版法案も上院本会議で採決にかけられる。上下両院で異なる法案が可決された場合(その可能性が高い)、両院協議会で法案のすり合わせを行い、最終的に上下両院本会議で同一法案が可決され、大統領の署名を経て法律成立となる。

トランプ大統領および共和党指導部は税制改正法の年内成立を目指しているが、上院版と下院版の相違点を踏まえると、年明けまで審議が延伸するリスクも決して小さくない。実際、9日公表の上院版「減税・雇用法」の骨子では、法人税減税の2019年までの1年延期、所得税率の累進性を維持(下院案は簡素化)、州地方税控除の完全撤廃、遺産税の維持など、下院版との相違点が多く見られた。

<割高感が残るドル、下落トレンド回帰の現実味>

税制改正によるドル相場への影響を見る上では、FRBの金融政策の反応が肝となる。その点において、トランプ大統領のアジア歴訪直前に発表されたパウエル理事のFRB次期議長指名は重要だった。パウエル理事の金融政策スタンスはイエレン議長と大きく相違ないと見られ、来年も緩やかな利上げ継続を標榜しつつも、実際の利上げ決定は物価動向に左右されよう。

そもそも、景気サイクルが成熟する一方でインフレ圧力も弱く、自動操縦のバランスシート縮小も開始された今、FRB議長が誰になろうと当面の金融政策の軌道を修正する余地は大きくなかったと考えている。次期議長人事が金融政策に明確な差をもたらし得るのは次の景気後退局面だろう。

減税による短期的な成長押し上げは、物価の反応次第でFRBに来年より多くの利上げを促す可能性がある。当社は減税がなければ2回の利上げを予想しているが、減税が物価加速につながれば3度目の利上げの可能性が浮上する。

一方、減税のみで潜在成長率の押し上げは期待できないことから、政策金利のターミナル・レート(着地点)は2.8%程度から大きく上昇することはないだろう。これは物価の予想外の急騰などによって中期インフレ期待が上振れしない限り、米長期金利の上昇が限定的にとどまることを示唆している。財政赤字拡大やFRB再投資停止を受けた米国債増発による金利上昇圧力の可能性も考えられようが、規制上の安全資産需要などを踏まえると大きく押し上げるには至らないだろう。

ドルの実質実効為替レートは2011年夏に底打ちしてから、2016年末までに4割近く上昇したところで頭打ちとなり、2017年夏までに1割近く下落したが、9月以降は米国の減税・利上げ期待を背景に買い戻されてきた。ドル相場は来年初めにかけて、減税およびFRB利上げ期待に引き続き下支えされると見ている。しかし、その後は中期的な経済見通しや景気サイクルに対する見通しが変わらないなかで、割高感の残るドルは再び下落トレンドに復していくと予想している。

ドル円相場についても、来年1―3月期まではおおむね現行レンジを維持すると思われるが、その後はドル安再開とともに緩やかな下落基調をたどり、来春以降は再び110円割れをうかがう展開を予想している。米長期金利の上昇余地が限定的にとどまる可能性や投機筋の円売りが再び数年来の高水準近くまで積み上がっていることもドル円上昇を抑制するとともに、リスクオフの際に急速な円高に転じるリスクも示唆している。

*門田真一郎氏は、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券に入社し、銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当、2013―16年にバークレイズ銀行で為替ストラテジストを務めた後、16年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか、海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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