January 22, 2018 / 6:52 AM / a month ago

コラム:米国政治リスク再燃、ドル安前倒しか=門田真一郎氏

[東京 22日] - 米議会で年初から続いた与野党交渉は1月19日深夜、物別れに終わり、連邦政府はトランプ大統領の就任1周年となる20日に一部閉鎖に追い込まれた。

連邦政府閉鎖は、オバマ前政権時の2013年10月以来だ。上院で法案の議事妨害(フィリバスター)を打ち切るために必要な60票を確保できなかったことが障害となった(共和党上院議員は51人にとどまるため、民主党の支持が必要だった)。上院では21日にも、2月8日までの「つなぎ予算(継続予算決議)」が審議されたが、結局、民主党との折り合いがつかず、政府閉鎖は3日目に突入した。

共和党のマコネル上院院内総務は同法案の採決を米東部時間22日正午(日本時間23日午前2時)ごろに行うと述べている。共和党のライアン下院議長も同法案への支持を表明しており、上院さえ通過できれば速やかに連邦政府再開に向かおう。

連邦政府閉鎖の米国経済成長への影響は1週間当たりマイナス0.1%ポイント程度であり、短期間の閉鎖であれば悪影響も限定的に抑えられる。実際、政府閉鎖の可能性が事前に広く報じられていたこともあり、22日朝のドルの反応は限定的だった。

ただ、「つなぎ予算」を巡る与野党交渉は予断を許さない状況だ。また、今回の連邦政府閉鎖は、米国政治が再びリスク要因となりつつあることを認識させるものだったと言わざるを得ない。税制改正機運の高まりによって米国政治がドルのサポート材料として意識されてきた昨秋以降の状況とは様変わりだ。

こうした状況を踏まえ、本稿では、主に予算交渉、通商政策、インフラ投資を中心に、今後の米国政治の注目点を確認したい。

<債務上限巡る交渉も難航必定か>

仮に「つなぎ予算」の再延長が無事に決まった場合でも、米国政治の焦点は引き続き予算を巡る協議となる。そもそも、2017年10月に始まった2018年度の歳出法が未成立のため、これまで時限的に歳出を賄うための「つなぎ予算」が度々用いられてきた。

予算交渉難航の理由は、メキシコとの国境の壁建設費用や幼少期入国の不法移民への救済制度(DACA)などについて、ホワイトハウス、議会共和党、議会民主党の間で合意形成ができなかったことにある。

これらの問題を「つなぎ予算」交渉に結び付けたことが今回の連邦政府閉鎖の遠因だ。米東部時間22日正午にも採決が行われる「つなぎ法案」は(成立しても)2月上旬に失効する見込みであり、それまでに2018年度歳出法が可決されるか、「つなぎ予算」が再延長されなければ、再び連邦政府閉鎖に追い込まれる。

さらに、3月ごろには債務上限引き上げの最終期限も迫る見通しだ。実際のところ、昨年12月8日に債務上限凍結法案はすでに失効しており(すなわち、その時点で連邦政府債務残高は上限に到達)、現在は特別措置や米財務省の保有現金からの拠出で政府の歳出が賄われている。こうした措置も3月ごろに使い果たされる見込みだ(ただ、2―4月は税収が振れやすい時期のため、具体的な期限は前後する可能性がある)。

今回の与野党の瀬戸際交渉と、その結果としての連邦政府閉鎖は、債務上限を巡る交渉も難航するリスクを示唆していよう。債務上限問題の影響は、「つなぎ予算」失効による連邦政府閉鎖を大きく上回るため、市場での注目度も相応に高い。

<米保護貿易政策はドル高・円高要因か>

米国の通商政策も2018年のリスク要因となろう。2017年のトランプ政権は、環太平洋連携協定(TPP)脱退やカナダ木材への関税発表などで大統領選挙中の米国第一主義的な主張の一部を実現してきたが、中国の為替操作国認定や他国との通商交渉など未実施の課題は多く、今年も通商政策面でのリスクが残されている。

まず、現在進行中の北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉の第6回会合が23―29日の日程で行われる予定だが、米国が強硬姿勢を続ける中で協議は難航している。今回合意まで至らなければ、3月ごろまで交渉が継続する見込みだが、その後は7月のメキシコ大統領選挙や11月の米中間選挙を前に協議はいったん停止する可能性が高い。

この他にも、米韓自由貿易協定(KORUS)の見直し交渉が年初に始まった。また、中国との通商対立や対日自由貿易協定(FTA)交渉などの懸念も市場ではくすぶり続けている。11月中間選挙に向けて、3月にもテキサス州を皮切りに予備選挙が始まる中、トランプ政権が有権者の支持確保に向けて通商政策に再び傾倒していくリスクには細心の注意を払いたい。

なお、保護主義的な通商政策は必ずしもドル安要因ではない。為替市場は、通商政策の変更が各国の国際収支や競争力に与える相対的影響を織り込む形で動くためだ。NAFTA分裂は特にメキシコに与える悪影響の方が米国への影響を上回るため、米大統領選後にもみられたように、大幅なメキシコペソ安要因となろう。

また、保護主義政策は世界貿易への悪影響を通じて、輸出依存型の製造業立国(韓国、シンガポール、タイなど)の通貨に対する下押し圧力を強める。この場合、リスクセンチメントの悪化とともに、むしろドルや円といった安全通貨には買い圧力が強まる可能性が大きい。

<インフラ投資規模縮小ならドル上値抑制>

市場の一部では、インフラ投資政策を今年の上振れ要因とみる向きもある。トランプ政権は現在、インフラ投資計画の詳細を協議しており、1月30日の一般教書演説で内容が示される可能性があると報じられている。連邦政府による約2000億ドルの拠出に加え、自治体や民間部門も合せて総額1兆ドル以上のインフラ投資を促す計画となる模様だ。

ただ、議会共和党の主流派はインフラ投資政策よりも社会保障改革を重視しているほか、共和党保守派は減税後に一段の財政赤字拡大をもたらす政策に反対する公算が大きい。

また、トランプ大統領案は民主党案(1兆ドルの政府拠出)を大きく下回っており、民主党が中間選挙前に共和党の成果と見なされ得るインフラ投資案を支持するインセンティブは小さいだろう。よって、中間選挙前に米国経済見通しを大きく押し上げるようなインフラ投資計画が可決される可能性についてはやや懐疑的にみている。これはドルの上値を抑制する要因となろう。

最後にドル円相場見通しについて触れておきたい。筆者は、ドル円が2018年前半は110―115円前後のレンジ推移を続けた後、年後半は日銀金融政策の正常化開始や全般的なドル安を背景に、徐々に下落圧力が強まり、年末105円に達すると予想している。

言い換えると、あくまで年前半は米減税による景気浮揚効果がドルを下支えするという見方だ。ただ、本稿で指摘したような米国政治関連のリスクが実現した場合は、こうした予想に対するドル安リスクとなることに注意したい。

*門田真一郎氏は、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券に入社し、銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当、2013―16年にバークレイズ銀行で為替ストラテジストを務めた後、16年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか、海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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