June 11, 2018 / 7:15 AM / 2 months ago

コラム:円高示唆する米金融政策「2つの転換点」=門田真一郎氏

門田真一郎 バークレイズ証券 シニア為替・債券ストラテジスト

 6月11日、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト、門田真一郎氏は、ドル高金利時代はリスクオフのクロス円売りのみならず、ドル円の下落リスクにも注意が必要だと指摘。写真は米ワシントンにあるFRB本部ビル。2014年10月撮影(2018年 ロイター/Gary Cameron)

[東京 11日] - 2015年に始まった米連邦準備理事会(FRB)の利上げサイクルは、今週12―13日の連邦公開市場委員会(FOMC)で2つの大きな転換点を迎える。

第1に利上げ局面が「金融緩和縮小」から「金融引き締め」に移行すること、第2に米ドル(以下、ドル)が先進国で最高金利通貨になることだ。これらは中期的なドル相場やリスク資産動向を占う上で重要な転換点となろう。

<G10の最高金利通貨になるドル>

第1の転換点は、前述した通り、米利上げサイクルの局面が「緩和縮小」から本格的な「引き締め」に変化することだ。金融政策スタンスを測る上では、中立金利が言及されることが多いが、これは潜在成長率および物価安定に中立的な実質政策金利の水準を指す。

ウィリアムズ・サンフランシスコ地区連銀総裁(次期ニューヨーク連銀総裁)らのモデル(Holston, Williams, and Laubach, 2017)によると、米国の中立金利は金融危機以降0%前後で推移している。現在の実質政策金利は0%とまさに中立水準にあるが、今後はそれを徐々に上回る「引き締め」局面に入っていく点に注意したい。

実際、FOMC内でもそうした局面変化への認識が高まりつつあるようだ。前回5月分のFOMC議事録では、「対称的」物価目標を巡る議論が注目されたが、フォワードガイダンス修正の可能性も俎上に上がっていたことは重要だ。

具体的には、フォワードガイダンスでは「今後の会合で修正が必要となる可能性」が指摘された上で、「フェデラルファンド(FF)金利が近く長期的な均衡水準に達するか、それを上回る可能性がある」中、声明文における「FF金利はしばらくの間、長期的に実現が見込まれる水準以下に維持される可能性が高い」や「金融政策スタンスは緩和的に維持」といった文言を近く修正することが適切になるとの主張がみられた。

今週のFOMCでは、ドットチャート(FF金利の予想分布)に加えて、そうしたフォワードガイダンスの変化が注目される。筆者はFRBが「穏やかに緩和的」などといった表現を用い、従来からの政策局面の変化を認識すると考えている。

第2の転換点は、今回の利上げをもって米国の政策金利が主要先進10カ国(G10)の中で最高水準となることだ(多くの新興国通貨も上回る)。現在のFF金利誘導目標レンジは1.50―1.75%であり、実効FF金利は1.70%前後で推移しているが、25ベーシスポイント(bp)の追加利上げが実施されれば、現在G10で最高水準にあるニュージーランド準備銀行(RBNZ)の1.75%を上回る。

ドルがG10において単独で最高金利通貨となるのは、2000年5月以降で初めてだ。なお、RBNZは5月の金融政策報告(SMP)で2018年末の政策金利を1.8%、2019年末を1.9%としており、2000年当時のように米利上げに追随する可能性は低いことを示唆している。

また、他の主要中銀でもFRBを上回るペースの利上げは想定されず、ドルがしばらくは最高金利通貨となる公算が大きい。

<リスクオフのドル買いは期待薄に>

米金融政策の2つの転換点は金融市場にとってどういう意味を持つのだろうか。

まずは米金融政策が「引き締め」局面に入ることで、リスク資産が調整圧力を受けやすくなる可能性に注意したい。過去の利上げサイクルでは、政策スタンスが「引き締め」に転じると株式と債券の逆相関が崩れ、リスク回避的な動きが発生しやすくなる傾向があった。

トルコ、インド、ブラジルなどの主要新興国中銀が緊急利上げなどの通貨防衛策を迫られるほど新興国売り圧力が強まっていることは、米金融政策の「引き締め」と無縁ではないだろう。トランプ米政権の減税・財政拡張による内需拡大が米国の経常赤字(および財政赤字)を拡大させることも、国際資本獲得競争で競合する高金利・経常赤字の新興国に対する調整圧力を強めていよう。

この観点に立つと、先進国ではオセアニア通貨、新興国ではトルコやメキシコが相対的に脆弱と考えられ、今後も下方リスクに注意したい。

他方、こうしたリスク資産の調整は円高リスクにつながろう。過去のリスクオフ局面では、円とドルがともに安全通貨として買われる結果、ドル円よりもクロス円が下落しやすい傾向にあった。しかし、ドルが最高金利通貨となり、経常赤字拡大や高金利によってドル資産保有者が増加する結果、リスクオフの際にも(特に対円では)ドル買いが生じにくくなる可能性に注意したい。

実際、ドル短期金利がG10内で優位性を増すほどリスク回避時のドル買い圧力が弱まる傾向が過去にも確認された。ドル高金利時代はリスクオフのクロス円売りのみならず、ドル円の下落リスクにも注意が必要だ。

筆者は短期的には減税・財政拡張を受けた米経済の相対的強さを背景とする米利上げはドルの下支え要因となり、ドル円も現行レンジでの底堅い動きを見込んでいる。しかし、米金融政策の転換点は中期的なドル相場やリスク資産が双方向に振れる可能性を示唆しており、リスク資産調整による円高圧力には注意が必要だろう。

門田真一郎 バークレイズ証券 シニア為替・債券ストラテジスト(写真は筆者提供)

*門田真一郎氏は、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券に入社し、銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当、2013―16年にバークレイズ銀行で為替ストラテジストを務めた後、16年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか、海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。

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