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コラム:ドル安長期化か、ハト派化するFRB=門田真一郎氏

[東京 17日] - 15―16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、フェデラルファンド(FF)金利誘導目標レンジが市場予想通り0.25―0.50%に据え置かれた。FOMCは順調な米国経済の状況を説明しつつも、世界経済・金融動向のリスクを指摘し、今年の利上げ回数の見通しを4回から2回に引き下げた。

 3月17日、バークレイズ銀行・為替ストラテジストの門田真一郎氏は、米FOMCの慎重なスタンスを踏まえると、昨年のような利上げ期待を背景とした一本調子のドル高は想定しにくく、足元のドル低迷が長引く可能性もあると予想。提供写真(2016年 ロイター)

当社は引き続き6月の次回利上げを基本シナリオとしているが、今回のFOMCの結果は、見た目以上にハト派的な意味合いを持っており、一段とドルの重しとなり得る点に注意したい。

<米国経済は順調だが、利上げ見通しは下方修正>

3月FOMCの声明文では、米国経済に関して改めて前向きな評価が示された。具体的には、個人消費および住宅部門を中心に経済活動の緩やかな拡大を確認しており、在庫主導の成長減速に言及していた前回1月の声明文から景況判断が引き上げられている。

また、「力強い就業者数の増加を含め、最近の広範な指標は、労働市場が一段と力強さを増したことを示している」と堅調な雇用回復の継続にも言及した。先行きについても、「経済活動が緩やかなペースで拡大し、労働市場の指標は力強さを増し続ける」との見通しが引き続き示される形となっている。

FOMC参加者の四半期経済予測でも、順調な経済成長シナリオが維持された。実質国内総生産(GDP)成長率予測は、2016年が前回12月のプラス2.4%から今回は同2.2%、17年が同2.2%から同2.1%へと、それぞれ小幅に引き下げられたが、それでもなお長期の成長率見通し(プラス2%)を上回っている。

労働市場については、供給余力(スラック)の残存を認識しつつも、改善傾向の継続が改めて示された。米連邦準備理事会(FRB)が重視する物価指標であるコア個人消費支出(PCE)デフレーターについても、17―18年にかけて2%目標に向かって加速していくという従来の見通しが踏襲された。

しかし、こうした前向きな経済見通しにもかかわらず、政策金利の予測は16―18年にかけて大きく下方修正されている。FFレート見通しの中央値は、16年が1.4%から0.9%へ、17年が2.4%から1.9%へと、いずれも50ベーシスポイント(bp)引き下げられたほか、18年も3.3%から3.0%へと25bp程度引き下げられた。政策金利見通しの分布も全体的に切り下がっており、ハト派・タカ派問わず利上げの軌道が見直された形だ。

最新予測から想定される利上げペースは、16年が50bp(2回)、17年が100bp(4回)、18年が110bp(4―5回)となる。これは、前回12月時点の予測と比べると、16年が4回から2回に大きく引き下げられており、次回利上げは6月になることを示唆している。なお、イエレンFRB議長は4月利上げの可能性は排除しないが、次回会合までの時間は限られていると述べている。

<FRBは負のフィードバック・ループに陥いる可能性>

FOMCが慎重な金融政策スタンスを示した背景には、世界経済および金融動向に対するリスク認識や物価に対する慎重なスタンスがあった。

今回のFOMC声明文では、「世界経済と金融動向を注意深く監視し、労働市場やインフレ、そして見通しへのリスクバランスに与える影響を評価する」という文言こそ削除されたものの、代わりに「世界経済および金融動向は引き続きリスクをもたらす」という一文が加わった。金融市場が2月後半以降、安定を取り戻していたことを踏まえると、今回のリスク判断は非常に慎重なものと捉えられる。

イエレン議長はこの文言がリスクバランスの方向性を説明するものではないとし、リスクのすべてが一方向に傾いているわけではなく、上下双方向の要因があると述べた。しかし、FOMCのリスク認識は下方に傾いていると考えるべきだろう。これは、経済見通しの安定にもかかわらず、政策金利見通しが大幅に下方修正されたことからも明らかだ。

世界経済・金融動向に対するリスク認識は、将来のFRBの金融政策を制約し得る厄介な問題だ。今後、FRBが利上げを示唆することによって金融環境が引き締まった場合、結果として利上げが難しくなるという負のフィードバック・ループに陥る可能性があるためだ。

また、利上げの示唆によってドル高が進行する場合、人民元を含む新興国通貨がより強い下落圧力にさらされるリスクもある。その場合、中国の資本流出に対する懸念などが再燃する可能性もあろう。FRBがこうした負のフィードバック・ループを自ら断ち切らない限り、将来の利上げペースが現時点の想定よりも一段と緩慢なものとなるリスクは否定できない。

FOMCはインフレ動向についても慎重なスタンスを表明した。まず、声明文で「インフレはここ数カ月間で上向いた」との認識を示しつつも、「委員会の長期的な目標である2%を下回り続けた」と繰り返した。また、イエレン議長は記者会見で、最近のインフレ加速には「一時的な要因が影響している」とし、コアインフレが継続的に上昇するような状況だと結論づけるには至っていないと、慎重な物価観を示した。

さらに、2%目標は「対称的な目標」であり、「インフレの上振れを目指しているわけではない」が、下振れと上振れに対する容認度合いは対称的であるとした。これは、期待インフレ率が2%目標を大きく下振れ続ける場合や、賃金上昇率が緩慢にとどまる場合、実際のインフレ率が目標を多少上振れることも容認することを示唆している。すなわち、インフレ加速に伴って、賃金上昇率の加速や期待インフレ率の上昇が確認されなければ、FOMCが拙速な利上げで対応する可能性は低いと言えよう。 なお、そもそも足下のコアインフレ加速は特殊要因による部分があると見られ、今後は昨年後半の新興国通貨に対するドル高の影響で、再び抑制される公算が大きいと考えている。

こうしたなか、当社は米国経済の回復基調の継続を前提に、引き続き6月の次回利上げを基本シナリオとしているものの、今回のFOMCは金融政策見通しの不透明感を高めるものと判断される。利上げペースが現在の想定以上に緩慢なものとなるリスクに注意したい。

<円に通貨高圧力が集中しやすい構図は変わらず>

今回のFOMCを控え、市場ではタカ派的なメッセージに対する警戒感があったと見られ、ハト派的な結果はドル安、米金利低下、米株高につながっている。先行きについては、FOMCの慎重なスタンスを踏まえると、昨年のような利上げ期待を背景とした一本調子のドル高は想定しにくく、足元のドル低迷が長引く可能性もあるだろう。

一方でドル円については、ドル安による下押し圧力も避けられない一方、FRBのハト派スタンスを受けたリスク資産の回復や日本の政策対応期待などによって支えられる可能性もあろう。ただ、中国、新興国の成長減速や英国の欧州連合(EU)残留を問う国民投票、米大統領選挙といった政治的リスクが控えており、世界経済・金融環境をめぐる不確実性は根強い。再びリスクオフの流れが強まった場合、依然として割安感が大きい円に通貨高圧力が集中しやすい環境は変わっておらず、最終的には95円程度まで円高が進行する余地があると引き続き考えている。

「グローバルリスク」対「政策の限界」という構図のなか、ドル円相場は変動の大きい展開を予想している。

*門田真一郎氏は、バークレイズ銀行の為替ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券株式会社に入社し、調査部で銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当した後、2013年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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