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コラム:ドル100円割れリスクは消えたのか=門田真一郎氏
2016年10月13日 / 07:01 / 1年後

コラム:ドル100円割れリスクは消えたのか=門田真一郎氏

[東京 13日] - ドル円相場は9月下旬に改めて100円という水準の底堅さを確認した後、10月に入ると米利上げ観測の高まりによる全般的なドル高基調を受けて上昇に転じ、13日には一時104円台半ばを回復した。

フェデラルファンド(FF)金利先物市場が織り込む12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ確率は7割近くまで上昇しており、ドルが(一部資源国通貨を除く)広範な通貨に対して買われる展開となっている。

過去数年間に米連邦準備理事会(FRB)の引き締め観測が高まった時期と異なり、原油価格の上昇や中国経済指標の改善を受けて新興国通貨やリスク資産は底堅い推移を続けている。このことに加えて、米大統領選挙で民主党のヒラリー・クリントン候補が優勢との見方が強まっていることが、市場のリスクセンチメント改善を通じてドル円相場を支えている面もありそうだ。

9月に日銀が金融緩和の新たな枠組みを導入したことを受けて、当面は日本の金融政策は相場の材料となりにくい。今後のドル円相場を見る上では、FRBの金融政策とグローバルなリスクセンチメントの動向が焦点となろう。

<FOMC内部で強まる意見対立>

まず、FRBの金融政策について、筆者は12月利上げを基本シナリオとしている。ただ、FOMC内部ではタカ派とハト派の意見対立が強まっており、いまだ12月利上げも既定路線とは言い切れない状況だ。

9月20―21日のFOMCでは市場予想通りFFレート誘導目標レンジが0.25―0.50%に据え置かれたが、3人の地区連銀総裁が利上げを求める反対票を投じた。一方、FOMC参加者の政策金利見通し(ドットチャート)では、3人が年内は政策金利据置きを想定しており、これにはブレイナード理事とタルーロ理事も含まれるとみられる。本部理事のなかでも意見対立が強まっている。

10月13日公表のFOMC議事録(9月分)でも、タカ派とハト派の見解の相違が改めて浮き彫りとなった。タカ派のFOMC参加者は「雇用増加の減速や賃金上昇の小幅な加速は労働市場の供給余力がほとんど、または全くないことを示唆している」とし、利上げ先送りで最終的により迅速な引き締めが必要になるリスクがあると主張した。

他方、ハト派は「賃金上昇の弱さ、高水準の非自発的パートタイム雇用、労働参加率の上昇は供給余力の残存を示唆している」とし、経済見通しの「全般的なリスクは引き続き下方に傾いている」と指摘した上で、「インフレが2%目標に向かっているより確信的な証拠を待ちたい」とのスタンスを強調した。

むろん、9月FOMCでの「決定は際どい判断」であり、「労働市場が改善を続け、経済活動が強まれば、比較的近い将来にFFレート誘導目標レンジの引き上げが適切になるだろう」との見方が中道派の主流だったと思われる。ただ、理事を含めたFOMCメンバー内の意見の相違が強まっていることを考えると、今後の経済指標や米大統領選の結果次第では利上げが来年以降に先送りされる可能性も否定できない。

また、12月に利上げが実施された場合も、非常に緩やかな利上げ軌道が改めて示されるとみられるほか、来年のFOMCで投票権を持つメンバーがかなりハト派寄りになることからも、FRBが積極的な利上げを通じて一段のドル高を演出するとは考えにくい。2014年半ば以降の急激なドル高が新興国通貨やリスク資産に大きな圧力を加えた経験を踏まえるとなおさらだ。

<原油高と中国経済持ち直しの円安効果は限定的>

ドルの大幅な上昇が見込みにくい状況下、グローバルなリスクセンチメントがドル円相場を見る上での焦点であり、足元は原油価格の上昇と中国経済指標の改善が、6月の英国民投票での欧州連合(EU)離脱選択後の市場センチメントの安定に一定の影響を及ぼしたと考えられる。

原油価格は9月下旬の減産合意報道以降に騰勢が強まるなか、すでに50ドル台を回復。11月の産油国会合に向けては底堅い推移が見込まれる。ただ、実際にどこまで踏み込んだ合意に至るかなど不透明感が残るほか、米シェール企業のリグ数が(なお低水準ながらも)増加基調に転じていることが、原油価格の上昇を抑える要因となり得る点には留意したい。

なお、原油高は日本の経常収支悪化を通じて円高圧力をいくらか後退させようが、経常収支の赤字化を招くような水準(100ドル超)まで達するとは見込み難く、日本の対外収支が円安要因とまでなる可能性は低い。

次に、夏場以降の中国経済指標は、政府のインフラ投資促進に向けた取り組みや住宅市場の持ち直しを受けて、改善基調に転じた。国家統計局の製造業購買担当者景気指数(PMI)は2月に49.0まで下落したが、足元は拡大・縮小の分岐点である50を回復している。

また、主要な月次経済指標も全般的に持ち直しの動きを示しており、昨年8月の人民元ショック以降に漂っていた中国経済に対する懸念は心なしか後退している、もっとも、足元の成長安定化は将来的な需要の先食いとみられるほか、9月貿易統計など一部の統計では弱さが続いており、来年にかけては再び成長が鈍化に転じる公算が大きい。足元で資本流出が再び拡大している点もやや懸念される。

当面は原油価格の底堅い動きや中国経済指標の持ち直しがリスクセンチメントを支え続ける見込みだ。ただ、FRBの利上げや欧州中銀(ECB)の国債買い取り減額などが市場で意識され、主要国の長期金利上昇圧力が強まるなか、金融緩和期待による低ボラティリティー環境で支えられてきたリスクオン相場の脆弱性には注意が必要だろう。来年にかけて欧州主要国で大きな政治イベントが多く予定されていることもやや気がかりだ。

こうした状況下、ドル円については短期的に100円台前半程度のレンジ相場が見込まれるものの、来年にかけては再び100円割れの展開を予想している。

昨年半ば以降の円高の背景にあったグローバルな不確実性(中国経済懸念、欧州政治リスク、米国経済が循環後期にある点など)は根本的に解消されていないことから、中期的な円高見通しを維持している。

*門田真一郎氏は、バークレイズ証券のシニア為替・債券ストラテジスト。2008年にバークレイズ証券に入社し、銀行戦略調査および外債ストラテジーを担当、2013―16年にバークレイズ銀行で為替ストラテジストを務めた後、16年から現職。海外拠点の為替・金利・経済チームとのネットワークを活かし、為替市場見通しのほか、海外経済・政治動向などについて幅広い情報提供を行っている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)経済学部卒。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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