August 27, 2015 / 5:34 AM / 4 years ago

コラム:危機は「10年に一度」やって来るのか=丸山俊氏

[東京 27日] - 中国人民元切り下げに端を発する世界同時株安に動揺が広がっている。中国景気の減速に歯止めがかからないこと、そしてそのことが世界的なデフレ懸念を助長したり、さらなる人民元切り下げ観測をかき立てたりして新興国・資源国だけでなく先進国も巻き込んで金融市場のパニック的な調整に発展してしまった。

もっとも、突然の人民元切り下げは、結果はどうあれ通貨安を通じた輸出促進に主たる政策意図があったわけではないというのが現地における一般的な理解である。

そもそも背景には、米国金融政策が出口戦略に向かう一方、日欧をはじめとする各国が金融緩和を積極的に推し進める中でドルに実質的にペッグしている人民元が周辺国通貨に対して大幅に切り上がっていたこと、人民元の国際化を進める上で欠かせない国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)通貨バスケットへの採用に向けて中国が為替制度の柔軟化を進めようとしていたことがある。

このことは、最初の人民元切り下げ後に中国当局が人民元買い・ドル売り介入を通じてスムージングオペを行っていることからもうかがい知れる。

<世界的パニック売りの背景>

とはいえ、周辺国(特に資源国)にとっては対岸の火事では済まされない。過去にも基軸通貨ドルの政策金利引き上げは常に世界金融市場に極度の緊張をもたらしてきた。実際、米国の利上げを直接的または間接的要因として1987年にはブラックマンデーが、1997年にはアジア通貨危機が、2007年にはサブプライムローン危機がおよそ「10年に一度」のタイミングで発生している。

その発生メカニズムは至って単純である。つまり、ドル安・低金利を背景にハイリスク資産に流入した過剰流動性が、利上げによって逆流することで通貨や株式、商品、不動産などの大幅な価格調整をもたらすというものだ。

とりわけ、ドルに対してペッグ制やレンジバンド制などの一種の固定相場制を採用している高金利の新興国通貨はドルとの金利差を収益機会とするキャリートレードの対象になりやすい。しかし、米国利上げ観測によって新興国通貨とドルの金利差が縮小し、資金が逆流すると新興国通貨は一転して通貨攻撃にさらされやすくなる。

対外資本への依存度が高く、対外債務の満期が短く、外貨準備が脆弱で、国際収支が赤字である国も同様だ。今回は米国の出口戦略に1997年のアジア通貨危機にはなかった中国の人民元切り下げが加わって新興国・資源国に対して金融市場の圧力がかかり、最悪の場合、債務危機や銀行危機などを通じて金融システム問題に発展し、先進国もそれに巻き込まれるとの連想がパニック的な売りを招いていると考えられる。

しかし、幾多の危機を経てドル融通などの国際的なセーフティーネットが構築されてきたこと、銀行セクターの健全性が高まっていること、後述するように先進国の内需を中心とする景気回復メカニズムは途切れていないことなどから、加速度的に危機が顕在化する可能性は極めて低いのではないか。短期的に見れば金融市場のボラティリティー高騰は優良資産に対する絶好のエントリーポイントとなるだろう。

<中国発世界景気後退リスクは低い>

「世界第2位の経済大国」という枕ことばに、中国に対する懸念ばかり先立つようだが、世界経済の限界的な稼働率(または需給ギャップ)に影響を与えるのはあくまでも超過需要であって経済そのものの規模ではない。

その点で、世界で唯一巨大な超過需要を生み出している米国の景気減速は世界経済の景気サイクルに大きな影響を与えるが、中国経済の場合、部品・原材料などの中間財輸入を除けば最終財において超過需要を生み出しているわけではない。唯一資源のみ巨大な超過需要を生み出しているため、コモディティー価格には中国の需要が少し落ち込んだだけでも深刻な影響が及ぶ。その意味で、中国経済が仮にゼロ成長に落ち込んでも世界経済が実質的に景気後退に陥る可能性は低いのではないか。

繰り返すが、世界経済の景気サイクルは経済規模のみではなく、他国の景気循環に直接的・間接的に影響を及ぼす超過需要という観点が重要だ。ちなみに、1990年代、世界第2位の経済大国である日本はマイナス成長に陥ったものの、世界経済、特に米国経済への影響は極めて小さかった。それは日本が輸出主導型経済で世界に対して超過需要を生み出していなかったからだ。

中国の景気減速は世界経済の大きなリスクではあるが、世界経済の機関車である米国経済を景気後退に追いやるというほどのものではないだろう。むしろ原油をはじめとするコモディティー価格の大幅な下落は先進国経済にとってプラスであることは疑いのない事実であり、世界に超過需要を生み出している先進国の購買力向上(資源国から非資源国への所得移転)が世界第2位の経済大国である中国の景気減速をやがて大きく減殺してくれると思われる。

以上のことに鑑みると、優良資産のバーゲンセール到来と捉えれば短期的には楽観的になれるだろう。ただ、通貨安競争は世界経済の成長センター不在が問題の本質であると捉えれば、長期的には悲観を禁じ得ない。

10年に一度の危機は2015年には訪れないだろう。しかし、2016年にその前触れが、2017年には当座の危機を回避するためにこれから取られるであろうさらなる金融緩和や財政拡張によって再び過剰流動性相場に逆戻りする結果、やがて本当に危機が到来する可能性が否定できないのである。

*丸山俊氏は、BNPパリバ証券の日本株チーフストラテジスト。早稲田大学政治経済学部卒業後、三和総合研究所に入社し、クレディ・スイス証券を経て2011年より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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