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コラム:日本株とドル円「かい離」の真相=山田修輔氏
2017年11月2日 / 01:44 / 18日後

コラム:日本株とドル円「かい離」の真相=山田修輔氏

[東京 2日] - 筆者は10月22日の衆院選の前週に、英ロンドンのマクロ系投資家を訪問したが、選挙見通しと同等に興味を示された議題にドル円と日本株の乖(かい)離、非連動化があった。

日経平均株価は年初来15%超上昇し、安定推移しているドル円を明白にアウトパフォームしている。本稿では、両市場のかい離の潜在的要因を探りたい。

まず、巷間言われている仮説を検証しよう。財務省の統計によると、9月下旬以来、海外投資家から4兆円近い資金が日本の株式市場に流入している。このため、直近の日本株高騰とドル円の相対的安定を踏まえ、日本株市場への資金流入がかい離の要因であるとの仮説がある。

しかし、海外投資家はそれ以前、売り越し基調だったため、この仮説では2017年を通した両者のかい離は説明できない。

別の仮説は、日本経済がデフレから脱却し、日銀が間もなく金融政策正常化に舵を切るとの観測から、資金調達通貨として日本円が選好されていないというものである。

だが、円相場は資金調達通貨の特性として自己ボラティリティーとの正の相関が強い(円高時にボラティリティーは高い)。そして、足元でもこの正相関は崩れていない。また、この仮説は、債券市場における金融緩和の長期化観測と整合しない。

日銀による上場投資信託(ETF)購入の影響はどうだろうか。この点についてはより深い考察が必要と考えるが、日銀がETF購入を増額した2016年7月以前と以降の日本株とドル円の相関を比べると、日銀によるETF購入日のザラバ(午前9時から午後3時) の相関がむしろ上昇し、日銀が購入していない日における相関は低下している。

では、真因は何か。筆者は以下の4点であると推測する。

<低金利と世界株高の併存が影響>

第1に、過熱せず冷め過ぎてもいない「ゴルディロックス」環境だ。かい離の最大の要因は、低金利と世界株高が併存するこの適温相場環境であると考える。

この組み合わせは従来、ドル円下落と日本株上昇をもたらしてきた。実際、年初来の相場の値動きを週次で見ると、米10年実質金利が低下し、米株が上昇した週には日経平均株価が累積10%超上昇している一方で、ドル円は過去のパターンと一致し、小幅下落している。

ドル円は引き続き米日実質金利差と密接に連動しているが、ドル建て日経平均株価は依然として米株と強く連動している。米株上昇(S&P500指数は年初来15%上昇)と米低金利(10年金利は年初来0.06%ポイント低下)の併存が日本株高と対ドルでの円高に寄与しているようであり、両者の水準のかい離を説明している。

ちなみに、過去10年の米実質金利およびS&P500指数の変動に対するドル円、日経平均株価の値動きをパターン化すると、以下の4つの組み合わせが観測されるので、今後の見通しの参考にしていただきたい。

1)米実質金利上昇と米株高は、ドル円上昇と日本株上昇

2)米実質金利低下と米株高は、ドル円下落と日本株上昇

3)米実質金利上昇と米株安は、ドル円上昇と日本株下落

4)米実質金利低下と米株安は、ドル円下落と日本株下落

<堅調な外需と為替ボラティリティー低下>

さて、かい離の第2の要因は、堅調な外需だ。今年のドル円と日本株のかい離は、マクロファンダメンタルズによっても説明できると考える。

過去6年間の大半の期間において、東証株価指数(TOPIX)の1株当たり利益(EPS)と日本の実効為替レートは、おおむね「円安で増益」の方向にきれいな線形的関係を示してきた。しかし、2017年度は実効為替レートが前年度に比べ5%下落と大きく動いていないが、今年度のTOPIXのEPSは現段階の集計で前年度比約4割の増益となっている。

好調な企業収益には、国内景気の回復に加え、堅調な輸出が寄与しており、輸出額は1―9月期に前年比12%増加している。為替が安定するなかでの輸出増であり、海外需要の伸びがけん引している。

為替(円安)要因以外の輸出増は、金融危機以降久しく観察されてこなかった事象である。日本の競争力が突如大幅に向上したというよりは、2016年以降の世界的な製造業サイクルの好転に起因すると考えられる。ファンダメンタルズの観点からは、為替以外の要因による輸出増が、年初来の日本株とドル円の水準かい離を説明できる可能性がある。

第3の要因として考えられるのは、為替ボラティリティーの低下に伴う「業績相場」への移行の可能性だ。

やや専門的な話になるが、主成分分析を用いて日経平均株価指数上位15銘柄の日次変化率について変動要因を計測すると、一番よく説明している変数(第1主成分)の説明力は2016年以降、ドル円のボラティリティーとともに低下し、10数年来の低水準となっている。つまり、為替ボラティリティーの低下に伴い、株式投資家にとって企業レベルのファンダメンタルズに対する為替レートを含めたマクロ環境の相対的重要性が低下したと言える。

言い換えれば、株式投資家はドル円のレンジ(または平均回帰)相場を想定し、ドル円の日次または週次変動に対して反応しなくなった可能性がある。

<追加緩和余地縮小と財政シフト>

4番目の要因としては、日銀の追加緩和余地の縮小とマクロ経済政策における財政政策へのシフトが考えられる。2013年4月の量的・質的金融緩和導入以降、金融政策は金融環境の緩和・実質金利低下を通じ、円安圧力と株高圧力をもたらしてきた。日銀は債券市場(イールドカーブ・コントロール)と株式市場(ETF買い入れ)により直接的な市場介入にまで踏み切っている。

しかし、2016年9月のイールドカーブ・コントロール導入決定以降、国内インフレが低水準にとどまる一方で追加緩和余地が限定的となるなか、日銀による政策変更は当面想定されない環境となった。

むしろ、日本の政策の焦点は財政政策へとシフトしている。財政政策に対する思惑は株式と通貨を同方向に動かす傾向がある点には留意しておきたい(財政拡張は株式と通貨にポジティブ)。

<再連動シナリオの真偽>

では、ドル円と日本株が収斂(しゅうれん)・再連動する可能性はないのか。短期的な不確実性は、米連邦準備理事会(FRB)の次期議長人事と今後の政策パスに集中している。

まず、タカ派的なFRBと堅調なグローバルマクロ環境の組み合わせは、株高が継続するなかで米実質金利上昇をもたらし、ドル円と為替ボラティリティーを押し上げる。この環境では、ドル円は日本株にキャッチアップしよう。

特に1ドル=115円を突破した場合、株式投資家が企業収益を予想するうえで為替レートの重要性が上昇するため、両者は再連動する可能性がある。むろん、1つのリスクは、タカ派過ぎるFRBが株高を崩す展開である。

ハト派なFRBと堅調なグローバルマクロ環境の組み合わせは、現状継続となろう。為替ボラティリティーは当面低水準にとどまる可能性がある。こうした環境では、短期的な調整を経るかもしれないが、日本株は堅調な外需にけん引されて上昇基調を維持し得る。

株式市場は企業ファンダメンタルズに基づき売買される公算が大きい。パウエルFRB理事のFRB議長昇格人事と堅調な世界経済の継続はこのシナリオをもたらし得る。ただし、この環境が続くほど、バブル生成の懸念も並走して高まっていくことだろう。

*山田修輔氏はバンクオブアメリカ・メリルリンチのチーフ日本FX株式ストラテジスト。PIMCOをはじめとして米国の金融機関でマクロ経済、市場分析に従事し、2013年より現職。2005年マサチューセッツ工科大学(MIT)学士課程卒、2008年スタンフォード大学修士課程卒。CFA協会認定証券アナリスト。石川県小松市出身。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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