December 20, 2019 / 1:16 AM / a month ago

コラム:独立性より「自治権拡大」を図る日銀=鈴木明彦氏

[20日 東京] - 日本では、安倍政権の誕生によって、もともと脆弱(ぜいじゃく)だった中央銀行の独立性はほぼ失われてしまっている。2013年1月に出された政府・日本銀行の共同声明では、デフレ脱却のための政府と日銀の政策連携がうたわれ、日銀は2%の消費者物価上昇率を物価安定の目標とすることとした。日銀は、この物価目標を達成するまで、景気動向にかかわらず、強力な金融緩和を継続することを余儀なくされている。

 12月20日、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの鈴木明彦氏は、もともと脆弱(ぜいじゃく)だった中央銀行の独立性は安倍政権の誕生によってほぼ失われてしまっていると指摘。写真は日銀本店。2016年3月、東京で撮影(2019年 ロイターYuya Shino)

また、日銀総裁をはじめ内閣が任命する政策委員会のメンバーの多くは、政府の考え方に賛同するメンバーに入れ替わっていき、黒田東彦総裁の下での異次元の金融緩和が続いている。金融政策正常化への出口がよく話題になるが、2%の物価目標を達成し、政府のデフレ脱却宣言が出ない限り、出口など存在しない。

<徐々に広がる日銀執行部の裁量>

もっとも、黒田日銀がデフレ脱却を目指して異次元の金融緩和にまい進したのは、2016年1月にマイナス金利を導入したあたりまでだ。黒田体制がスタートして3年たっても物価は上昇せず、マイナス金利に対する批判も高まる中、異次元金融緩和は修正モードに入ってきた。

これらの修正に共通することは、デフレと戦う日銀の強い姿勢を強調する一方で、金融調節における日銀執行部の自由度を広げるという巧妙な仕掛けの存在だ。日銀は、中央銀行の独立性回復という悲願は棚上げして、「自治権」の拡大を目指しているようだ。

<金利調節機能の回復>

自治権拡大の第一弾は、2016年9月の金融緩和強化のための新しい枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」だ。イールドカーブ・コントロールを導入して、日銀保有の長期国債残高とマネタリーベースという量の増加目標を無くし、同時に10年物国債金利の誘導目標(ゼロ%程度)を設定した。

この時、フォワード・ルッキング的な期待形成を強めるためにと称して掲げられたのが、「オーバーシュート型コミットメント」であった。「物価安定の目標」を実現するだけでなく、安定的に持続できるまで量的・質的金融緩和を続けるのだからオーバーシュート型であり、デフレ脱却に対する日銀の強い意志の表れとのことだった。

しかし、これは「日銀保有の長期国債残高とマネタリーベースの拡大基調は維持するが、その拡大ペースは目標ではないので低下しても問題ない」と読むこともできた。

実際、その後の推移を見ると、限りなく横ばいに近い増加となっている。日銀は量の目標に縛られることなく、10年物国債金利を誘導することが可能になり、金利操作という調節手段を取り戻した。

<金利調節における自由度の拡大>

金利調節手段を回復したとはいえ、誘導目標の変更を決定するのは、金融政策決定会合だ。それは当然のことだが、2%の物価目標を達成できないうちは、誘導目標を変更、特に上げることは難しい。

そこで出てきたのが、2018年7月の「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」である。ここでは、誘導目標である10年物国債金利について、「経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるもの」とした。その上で、記者会見で黒田総裁が、「おおむねプラスマイナス0.1%の幅から、上下その倍程度に変動し得ることを念頭に置く」との目安を示した。

日銀は、10年金利を少し上げてイールドカーブをややスティープにしたいと思っていただろうが、あえて決定会合で利上げという正攻法を取らず、上下に変動幅を広げるという対応をした。これは賢い選択であった。

また、その変動幅を会合で決定するのではなく、総裁が記者会見で示したことによって、変動幅はあくまで目安であって正式なレンジ目標ではないとの位置づけになった。こうして、10年物国債金利が事実上の政策金利の地位を得ると同時に、日銀はこれを機動的に誘導することが可能となった。

ここで、金利が急騰してしまわないように用意されたのが、政策金利のフォワードガイダンスだった。政策金利のフォワードガイダンスと言いながら、長短金利の水準をガイダンスしているのが不自然だが、政策金利の引き上げや長短金利の大幅な上昇は意図していないというメッセージは伝わった。

同時に、10年金利の想定変動幅の拡大とセットにすることによって、一時的ならばそれを超えても「現在のきわめて低い長短金利の水準」の範囲内と見なすことが可能になった。実際、その後の10年金利の推移を見ると、日銀執行部は事実上の政策金利を機動的に動かす自由度を得たと言えよう。

<利下げ回避の抜け道>

米連邦準備理事会(FRB)が予防的利下げに転じたこともあって、日本でも政策金利引き下げの思惑が出てきた。7月30日と9月19日の政策決定会合の発表文では、利下げの思惑をかき立てるような文言が加えられたが、10月31日の決定会合では、利下げが行われることなく、代わりに難解なフォワードガイダンスが出てきた。

政策決定会合後の記者会見での黒田総裁の発言に敬意を表して、これは利下げの可能性を示唆したものという評価が一般的だ。

長短金利の水準が政策金利を下回って、利下げの思惑が出てきた場合、このガイダンスに基づくと日銀には二つの選択肢がある。一つは、政策金利を据え置いて日銀執行部が長短金利を高めに誘導することだ。二つ目の選択肢が、決定会合で政策金利の引き下げを決定することだ。

つまり、新しいフォワードガイダンスは金利据え置きと利下げの2つを想定している。だから、利下げの可能性を示唆したという解釈が成り立つ。

一方、このガイダンスに基づくと、長短金利を政策金利より高い水準に維持できるのであれば、追加金融緩和を行う必要がなくなる。実際、10月以降の10年金利の推移を見ると、新しいフォワードガイダンスは、政策金利を上回る水準に長短金利を誘導することによって、利下げを回避する抜け道を日銀執行部に用意したと言えそうだ。

<次の一手はマイナス金利脱却>

日銀執行部の次の一手は、マイナス金利からの脱却ではないか。マイナス金利政策をやめるという決定は政策決定会合で決議しなければならないが、自治権を広げてきた日銀執行部はマイナス金利政策の存在意義を薄めることができる。

すでにその準備が始まっている。まず、日銀当座預金の増額分のマクロ加算残高(ゼロ%を適用)と政策金利残高(マイナス0.1%が適用)への配分は、執行部の判断でほとんどがマクロ加算残高に配分されている。この結果、政策金利残高はその規模を少しずつ縮小させ、日銀当座預金残高に占める割合は5%前後にまで低下している。

また、10月以降無担保コールレート(翌日物)がマイナスではあるが、やや水準を上げてゼロ近傍を中心に推移するようになっている。かつては政策金利であった無担保コールレートをゼロ近傍に誘導させようと、もし日銀執行部が考えているのならば、これは重要な変化だ。

政策金利といっても日銀当座預金への付利は銀行にとって調達金利ではないので、貸出金利が政策金利に連動して動く必然性はない。ただ、マイナス金利を付利される当座預金との間で裁定取引が発生し、無担保コールレートがマイナスとなり、市場金利や貸出金利が低下する。マイナス金利が深掘りされると貸出金利がさらに下がることが懸念されている。

しかし、マイナス金利が続いても、あるいは深掘りされても、無担保コールレートの平均をゼロ近傍に誘導できるのであれば、政策金利と貸出など市場金利との連動を断つことが可能になり、マイナス金利政策は実質的な意味を持たなくなる。こうした地ならしが済んだところで、マイナス金利の終了を政策決定会合で正式に決定すれば、金融市場に大きな混乱は生じないのではないか。

(本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています)

鈴木明彦氏

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

(編集:橋本浩)

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