February 7, 2020 / 1:43 AM / 6 months ago

コラム:新型肺炎で景気は腰折れしない=鈴木明彦氏

[7日 東京] - 新型コロナウイルス(新型肺炎)の感染が広がり世界経済に与える影響が懸念されている。確かに1─3月期の中国経済は下押しされることになろうが、世界経済に与える影響は長期化しないのではないか。中国政府も米中貿易戦争の敗北を意味する大幅かつ持続的な成長率低下は回避してくるはずだ。

 2月7日、日本経済は新型肺炎の影響によって景気が腰折れするということはないが、景気持ち直しのタイミングが1から2四半期先延ばしされる可能性がでてきたと、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの鈴木明彦研究主幹は指摘する。写真は東京・銀座。2017年2月撮影(2020年 ロイター /Toru Hanai)

一方、日本経済は後述するように2018年秋から景気後退が続き、足元では下げ止まりのタイミングを迎えている。新型肺炎の影響によって景気が腰折れするということはないが、景気持ち直しのタイミングが1から2四半期先延ばしされる可能性がでてきた。

<広がる景気の先行き懸念>

新型肺炎の感染が広がるにつれて、中国経済はもちろんのこと、日本を含む世界経済に及ぼす悪影響が懸念されてきた。感染力や毒性もはっきりせず、ワクチンや治療法も不明とあっては、経済に与える影響など正直分からない。時々現れる新型の感染病が世界経済を腰折れさせるということはちょっと考えにくいのだが、まずは慎重に見ておこうという見方が多いようだ。

実際、新型肺炎が中国のみならず世界経済にマイナスに作用することは間違いない。すでに、感染の広がりを抑えるために、発生地の武漢がある湖北省は他省との交通が遮断されている。工場の操業停止が中国全土に広がっているが、世界の工場として成長してきた中国でサプライチェーンが寸断されることは、中国以外の国々の生産活動にも影響してくる。

中国人の海外渡航ができなくなっていることは、渡航先となっていた国々のインバウンド消費を減少させる。ここ10年ほどで中国人の海外旅行が大幅に増加し、サービス収支の赤字幅が貿易収支の黒字幅の5割を超えるまでに拡大していることを考えると、この影響は無視できない。

中国の経済活動の停滞がいつまで続くかは不透明だが、まずは感染の拡大を抑えることが最優先の課題であり、そこにめどがつくまでは交通封鎖や工場の休止が続き、経済活動の停滞がしばらく続く可能性がある。1─3月期の成長率の低下は中国当局も覚悟しているだろう。

<世界経済の下押し限定的>

もっとも、新型肺炎によって日本の景気が腰折れすることはない。経済活動の停滞は長引きそうだが、いつまでも続くわけではない。どこかで感染が収束してくれば、経済活動が再開され、中国人観光客も戻ってくる。

サプライチェーンの寸断が長引くようであれば、中国以外での代替生産の動きも広がってくるだろう。この場合、中国経済にとってはダメージが続くが、世界経済にとってのマイナス効果は軽減される。

また、中国当局は一時的な成長率の低下を容認するだろうが、米中貿易戦争の敗北を意味するような経済の低迷を受け入れることはない。それを防ぐような経済対策をとってくるはずだ。

20年の成長率目標は6.0%前後が見込まれている。これが下方修正される可能性は否定しない。しかし、その場合でも新たな目標が5.5%を下回ることはない。5.5%を下回ると20年の国内総生産(GDP)を10年の2倍にするという約束を達成できなくなるからだ。これは政治的に許されない。

仮に、20年の成長率が、19年の6.1%から5.5%まで低下したとしても、世界経済の成長率の下押しは0.1%ポイントとなる。この程度であれば、新型肺炎によって日本経済が腰折れすることにはならない。

<景気後退の判断に駄目押し>

ところで、腰折れという言葉が使われるのは戦後最長の景気拡大が今も続いていることが前提だ。景気の山はいつなのかという議論がされているが、日本の景気は18年秋ごろから後退が続いていると考えた方がよい。

景気の山・谷は、内閣府の経済社会総合研究所が有識者を集めて開催する景気動向指数研究会で議論される。景気の山・谷の判断基準であるヒストリカルDIは18年11月から50%を下回っている(景気動向指数CI・一致系列の過半が下降となる)。つまり、いずれ18年10月を山として認定するか否かの議論がなされることになる。

その判断基準は、1)波及度、2)量的な変化、3)景気後退の期間、の三つである。実は、14年3月も景気の山の候補となり、同研究会で議論がなされたが、山とは認定されなかった。波及度の判断基準の目安は、ヒストリカルDIがゼロ(景気動向指数CI・一致系列のすべてが下降となる)近傍まで下がっていることだが、この基準を満たしていなかったことが山と認定されなかった主たる理由だ。

これに対して、18年10月について同じ基準で考えてみると、山と認定されることになりそうだ。量的な変化と景気後退の期間の基準を満たしていることに加えて、波及度についてもヒストリカルDIがゼロまで下がっている。

景気動向指数に採用されている指標の数値は今後まだ改定されるが、それでも18年秋に景気が山をつけたという判断がなされるだろう。仮に、新型肺炎の影響によってこれらの指標がさらに悪化するならば、景気が山をつけて景気後退に入っているという判断に駄目を押すことになろう。

<景気の「山」の判断は先送りへ>

ただ、同研究会は当分開かれないのではないか。主な経済指標の19年分の改定が終わる今年の中ごろには、研究会を開催してもよいタイミングとなる。しかし、そこで18年10月に景気は山をつけたという判断がなされてしまうと、政治的には困ったことになる。

戦後最長の景気拡大は幻だったということになるだけでなく、景気後退が続いている間に消費税率を10%に引き上げてしまったということになるからだ。平時の景気の変動を理由に消費税率引き上げのタイミングの良し悪しを判断することは適切とは思わないが、世の中では10%への増税のタイミングに対する批判が出てくるかもしれない。

安倍政権が続いている間、特にいずれ行われると考えられる解散総選挙より前のタイミングで研究会を開催するのは、官僚としては避けたいところだ。

実際、同研究会が開かれるタイミングはかなり開きがある。例えば、12年3月の景気の山については、13年8月の研究会で認定された(この研究会では12年4月を山と暫定的に認定し、その後15年7月の研究会において12年3月で確定)が、14年3月を山と認定するか否かの検討が行われたのは、17年6月と3年以上が経過していた。

今回の場合に当てはめると、同研究会は今年半ばに開催される可能性もあれば、22年1月まで開催されないかもしれない。山の認定は安倍政権の次の政権の仕事になりそうな雰囲気だ。

<景気持ち直しのタイミングは後ずれ>

タイムリーな景気の議論をするには、政府の山・谷の判定を待つ必要はない。18年秋から景気後退が続いていると考えるならば、今は景気の山がいつ来るかではなく、景気はいつ谷をつけるかを考えるべき時だ。

足元では、中国向け輸出に持ち直しの兆しが現れ、次世代通信「5G」関連の需要が拡大し、電子部品・デバイスに持ち直しの動きが出始めていた。まさしく今が、景気が下げ止まって谷をつけるタイミングであったと考えられる。

そのタイミングで新型肺炎の感染が広がってきたわけだ。景気持ち直しの兆しに水を差す動きであるが、景気が底打ちするという大きな流れは変わらないだろう。新型肺炎の影響によって、景気持ち直しのタイミングは1から2四半期ほど後ずれすることになるのではないか。

(本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています)

鈴木明彦氏

*鈴木明彦氏は三菱UFJリサーチ&コンサルティングの研究主幹。1981年に早稲田大学政治経済学部を卒業し、日本長期信用銀行(現・新生銀行)入行。1987年ハーバード大学ケネディー行政大学院卒業。1999年に三和総合研究所(現・三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2009年に内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、2011年に三菱UFJリサーチ&コンサルティング、調査部長。2018年1月より現職。著書に「デフレ脱却・円高阻止よりも大切なこと」(中央経済社)など。

(編集:橋本浩)

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