March 5, 2019 / 5:16 AM / 2 months ago

コラム:トランプ氏の暴論には正論で、日米協議の矛先は=唐鎌大輔氏

[東京 5日] - 米連邦準備理事会(FRB)に再び批判の矛先を向けたトランプ米大統領の発言には、やや意外感を覚えた。

 3月5日、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は、トランプ政権が日本やEUに対米輸入の拡大を強いても、自国の過剰な消費・投資体質を変えない限り、貿易赤字解消は徒労に終わる可能性が高いと指摘。写真は国連総会のタイミングで会談した安倍晋三首相とトランプ米大統領。2018年9月、ニューヨークで撮影(2019年 ロイター/Carlos Barria)

トランプ氏は2日、保守団体の会合で演説し、「私は強いドルを望むが、わが国にとって素晴らしい強いドルを望むのであって、非常に強いために他国との取引ができなくなるような強いドルは望んでいない」と強調。名指しこそしなかったものの、「FRBには量的引き締めを愛する紳士が1人いる。われわれは強いドルを望むが、理性的になろう」と、パウエル議長を皮肉った。

同種の物言いが散々繰り返されてきたこともあり、為替市場の反応は落ち着いたものだった。しかし、1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で示された基本姿勢は「急変」と言って良いほどハト派的で、実質的な利上げ停止宣言だった。2月20日に発表された同会合の議事要旨も、バランスシート縮小の年内停止をほぼ明言していた。

それでもFRB批判を展開する大統領の挙動には、執拗さが感じられた。

とはいえ、結局のところ為替市場は「相手がある話」の世界だ。欧州中央銀行(ECB)や日銀が金融政策を正常化できていない現状、ドル相場は下がりにくい。トランプ大統領がどこまで正確に相場動向を注視しているかは知る由もないが、為替市場において「ドル一強」の構図が継続中なのは間違いない。

FRBの政策がどうあれ、事実としてドル高だから「不満」ということなのかもしれない(今まで利上げしてきた結果だと考えているのかもしれない)。また、米朝首脳会談で芳しい結果を出せなかったことで、別の「外敵」を必要としているという読みもあながち外れてはいないように思える。

いずれにしても、トランプ大統領が「為替に関心がある」ということには違いなさそうである。

<「相手国が悪い」という発想>

ここで心配なのは、「大統領がドル安を求め、FRBもハト派に転換しているが、ドル高継続」という状況が続くことだ。消去法的に「相手国が悪い」という発想に行きつきやすい。「ECBや日銀が緩和路線を堅持していることでドル高をもたらしている」という、いかにもトランプ氏好みの結論に行き着く可能性が想起される。

もちろん暴論ではあるが、実際に対米貿易黒字が大きいことも、そうした事実誤認を後押ししかねない。これから米国と1対1の通商交渉を控えるユーロ圏や日本は、こうした展開に神経質にならざるを得ない。

より具体的には、米国、メキシコ、カナダの新通商協定(USMCA)に導入された「為替条項」というフレーズが取りざたされやすくなるかもしれない。中国も同種の条項に合意したという観測報道があるだけに、気掛かりではある。

<日本企業の貢献度は大きい>

だが、そもそも通商政策と通貨政策は別々に取り扱われるべき問題である。財務省の浅川雅嗣財務官は3日、パネル討論会に登壇し、日本の経常黒字は所得収支によるもので、貿易問題とは別物と述べたと報じられた。

日本の経常黒字は、過去に行った海外投資のリターンである「あがり」の部分が大きい。今後の対米交渉で、その認識をしっかり強調していく必要がある。これを減らすには、例えば日本の自動車メーカーが米国工場の稼働率を抑えたり、閉鎖するという話に直結する。それこそトランプ大統領が激高する帰結であろう。

米国で事業を展開する多国籍企業の動向をまとめた米商務省の年次調査『Activities of U.S. Affiliates of Foreign Multinational Enterprises』の最新版によれば、2016年末時点での外資系企業の雇用者数は、日本企業が86万人と、全体の約700万人の12%を占める。これは英国企業の17.5%に次ぐ。

また、総資産額は全体の15.8%で、英国の14.77%を上回り、最も大きい。給与支払額も英国の16.6%に次ぐ13.3%を占める。他にも色々な尺度はあり得るが、少なくとも日本企業による米国経済への貢献度が他国に比べて劣後しているとは到底思えない。むしろ、相当大きいという印象だ。

さらに言えば、過去の海外投資の「あがり」は第1次所得収支の黒字に当たり、日本居住者の海外口座に外貨として振り込まれた時点で計上されることから、その多寡が必ずしも円高圧力に直結するとは限らない。

<為替を修正しても赤字は消えない>

同じ討論会で浅川財務官は、日本の貯蓄の増加は高齢化の過程において自然である、とも述べている。貯蓄・投資(IS)バランスに着目した議論であり、この延長線上には「米国の経常赤字は過剰な消費・投資体質の裏返しである」という事実も浮かび上がる。言い換えれば、トランプ政権は他国の批判ばかりではなく、自国の赤字体質にも目を向けたほうが建設的であるという指摘であり、これも全くの正論である。

米国のISバランスは、政府部門の巨大な貯蓄不足と、海外部門の巨大な貯蓄過剰(経常赤字にほぼ相当)が表裏の関係だ。拡張的な財政にまい進し、政府部門の貯蓄不足主導で経常赤字を膨らませてきたトランプ政権は、理論に基づいたこの基本的な事実を踏まえ、いくら時間と政治資源を費やしても、貿易赤字解消という求める結果を得る可能性が低いことを認識する必要がある。

今後、トランプ政権は攻撃的な2国間交渉を通じ、日本やEU(欧州連合)に対米輸入の強制的な拡大を強いる可能性があるが、自国の過剰な消費・投資体質を変えない限り、徒労に終わる可能性が高い。そろそろトランプ政権内に、「為替相場を修正したところで経常(貿易)赤字は消えない」という事実を確実に説明する側近が登場しても良いのではないか。

日米物品貿易協定(TAG)交渉は、今月から5月初旬にかけて動きがあると見る向きが多く、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は3月中に訪日する意向を表明している。米中通商協議や米朝首脳会談など、トランプ政権が外交上の得点機を逃す事態が続いているだけに、日本にとってはあまり交渉に適したタイミングではないかもしれない。

しかし、米国経済に対して日本企業が現実的に果たしている役割や、理論的に正しい事実を丁寧に伝えることが、遠回りに見えて最も近道なのではないだろうか。

(本コラムは、ロイターの外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

唐鎌大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト(写真は筆者提供)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行国際為替部のチーフマーケット・エコノミスト。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構後、日本経済研究センター、ベルギーの欧州委員会経済金融総局への出向を経て、2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

(編集:久保信博)

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below