April 29, 2019 / 10:55 PM / 3 months ago

コラム:「令和」に持ち越す負の遺産、くすぶる増税延期論=熊野英生氏

[東京 30日] - 景気情勢を巡る雰囲気は、4月1日に新元号「令和」が発表されて以降、がらりと変わった。新しい時代を前に人々のマインドが前向きに切り替わり、景気後退の話題は忘れ去られたようにみえる。

 4月30日、第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は、消費増税を再び延期すれば財政再建が宙に浮くと同時に、安倍政権は「問題先送り内閣」というイメージを強く残すと指摘。写真は新元号の発表後に会見した安倍晋三首相。4月1日、東京で撮影(2019年、Franck Robichon/Pool via Reuters)

関連商品の売り上げは1カ月で11億円(インターネット通販のみ)と試算され、5月1日の新天皇即位をはさんだ大型連休も消費にプラス効果が見込まれる。とりわけ国内の旅行需要は1兆4824億円と、前年同期から3323億円増加するとみている。

この上げ潮ムードに冷水を浴びせたのが、萩生田光一・自民党幹事長代行が4月18日に行った発言だ。萩生田氏は7月1日に発表される日銀短観を見た上で、10月の消費増税延期を検討する可能性を示唆した。7月21日が有力視される参議院選挙で、与党は増税延期を公約に掲げるということなのだろうか。

安倍晋三政権はこのところの相次ぐ閣僚辞任で神経質になっていたはずだ。4月21日には統一地方選挙の後半戦も控えていた。萩生田氏の発言は、単なる失言だったとは思えない。

<景気判断は一直線に悪くならない>

2月までの統計データは生産を中心に悪化しており、内閣府の景気動向指数(一致CI)は3カ月連続で低下した。米中貿易戦争が中国経済を直撃し、貿易取引を減少させたためだ。日本国内でも、5月20日に発表される1─3月期の実質国内総生産(GDP)が前期比マイナスに転じるとの見方がある。

いずれも消費増税の実施を政治的に怪しくさせる材料である。

しかし、中国経済の悪化懸念は製造業購買担当者指数(PMI)が3月にリバウンドし、景気の拡大と縮小の分岐点である50を超えたことで、いったん歯止めがかかったとみられている。金融緩和の効果が表れてきたためで、一時的に頭打ちになった上海総合指数も再び上昇している。

問題は4月以降の国内景気である。前述したように、新元号の発表で3月までの悲観ムードは一変した。英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)期限が、10月末日まで延期されたことも明るい材料だ。

5月1日に令和元年が始まれば、楽観ムードはより高まるだろう。4月末からの10連休が旅行需要を押し上げ、4─6月期のGDPを上向かせる。7─9月期は増税前の駆け込み需要が個人消費にプラスに働く。景気は一本調子に悪くならない。

5月に発表される1─3月期GDP(速報値)と、7月に発表される6月の短観だけを捉えて景気の先行きを真っ暗とみれば、ミスリードになりかねない。

そもそも判断材料として挙げられた短観は、4月発表の3月分は業況判断指数(DI)こそ悪化したものの、設備投資計画は強い数字だった。中長期のトレンドで考えるならば、DIだけで判断することも早計にみえる。

<増税しないときのコスト>

10月の消費増税は、なぜリーマン危機級の景気悪化がなければ実施すると条件をつけているのだろうか。この条件は、多少の景気悪化であれば増税の予定を変えないという方針でもある。

仮に増税を中止すると、幼児教育や高等教育の無償化はどうなるのか。景気にプラスだからと言ってそのまま実行すれば、単純に2019年度以降の財政収支が悪化する。歳出増が続くため、財政赤字幅は継続的に拡大する。2020年度は東京五輪のために歳出増となり、五輪景気の反動による税収減も加わる。

2019年度中に消費税を引き上げるから、教育無償化の費用を毎年賄い、五輪イヤーの財政収支悪化をカバーできる。何よりも、安倍政権が2021年9月までだとすると、増税延期によって財政赤字を膨らませたまま退場することになる。次期政権は財政赤字という負の遺産を抱えたまま、経済政策を運営する足かせをはめられる。

一時的な景気悪化であれば増税すると言っているのは、2020、21年度の財政収支悪化につながらないようにするためである。

<「問題先送り内閣」のイメージ>

3度目の増税延期は財政再建が宙に浮くと同時に、安倍政権は「問題先送り内閣」というイメージを強く残す。そして平成時代の負の遺産を令和に持ち越すことになる。

かつて国会議員の中には、増税延期を決めた理由について、選挙に負けると元も子もないなどと説明する人がいた。10月の増税によって景気悪化が長引くことになって、元も子もないという理屈は今回も成り立つのか。

政策を行うとき、それを実行したときのコストと、見送ったときのコストを比べて考える。目先の景気指標だけで見送りを考えるのは、そこに隠れているコストを十分に吟味していないように思える。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

熊野英生氏

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

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編集:久保信博

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