August 29, 2019 / 1:32 AM / in 19 days

コラム:駆け込み盛り上がらず、増税後の消費シナリオ=熊野英生氏

[東京 29日] - 10月の消費税率引き上げまで、あと1カ月となった。今回のコラムでは、いくつかの材料に基づき、増税後の消費動向について想定されるシナリオを考えてみた。

 8月29日、10月の消費増税のマイナス影響は小売りや外食などの値引きが吸収し、消費活動は東京五輪の特需によって2020年半ばごろに盛り上がる可能性があると、第一生命経済研究所の熊野氏は指摘。写真は東京都内の繁華街。2015年4月撮影(2019年 ロイター/Yuya Shino)

予想できるのは、1)駆け込み需要が小さいから反動減も小さい、2)税率が上がり、その負担増が実質消費を下押しする効果は残るが、小売りサービスの値引きによって改善が見込まれる、3)消費トレンドの落ち込みが短いため、その後の東京五輪のプラス効果で2020年央の消費が盛り上がりやすい──というシナリオである。

今回は自動車と住宅で反動減対策が講じられているため、1)はもともと予想できていた。家電やパソコン、スマートフォンなどは駆け込みが予想されたが、今のところは目立たない。おそらく、量販店が10月以降に割引やポイント還元キャンペーンを行って、2%の増税分を上回るようなセールを打ってくるのではないかと消費者がみているからだろう。

前回増税した2014年は、日用品や化粧品など広い商材で駆け込み買いが起きた。今回も9月に入ると変化がみられるかもしれないが、今のところは落ち着いている。日用品などは高額ではないうえ、いちど買えば数カ月持つため、消費者は8%と10%の税率の差にそれほど敏感ではないのかもしれない。

実際、消費マインドを示す政府の月次統計はいずれも低調である。内閣府の景気ウォッチャー調査は、ほぼ一貫して悪化している。ただし、こうしたマインドの悪化は、消費支出などとは動きが整合的ではない。「消費マインドが弱いから駆け込み買いも起こりにくい」という説明は、一見信ぴょう性があるように思えるが、実際の消費支出の動きを反映しているわけではないため、場当たり的な説明にみえる。

<キャッシュレス決済のアナウンスメント効果>

スマホなどを使ったキャッシュレス決済に対してポイントを還元するという制度が鳴り物入りで導入されたが、ここに来て実務的な準備の遅れが指摘される。この仕組みに小売りなどの事業者が参加するには登録が必要だが、その申請件数は7月末で24万件。8月21日時点で43万件まで加速したとはいえ、対象となる事業者は全国に200万程度あるとみられており、もともとの想定にはまだまだ遠い。

当初から、中小企業のキャッシュレス決済への参加は、カード手数料の高さもあって限定的とみられていた。2017年度の小売業全体の売上高経常利益率は2.22%だが、資本金1000万円未満の企業に限ると0.93%と利ざやが薄い。資本金1000─5000万円の企業でも1.25%と、厚いとは言えない。

そこにカード手数料が加わると、キャッシュレス決済の恩恵は乏しいというのが中小企業の見方だろう。日本の小売業は、こうした中小、零細企業で売り上げの4割強を占めている。外食(飲食サービス業)も資本金1000万円未満の企業は利益率が低く、やはりキャッシュレス化に二の足を踏んでいると考えられる。

反面、キャッシュレス決済に対して割引を認めるという政策が大々的に打ち出されたことが、多くのスーパー・量販店に刺激を与えていると筆者は考える。つまり、本来の役割とは別に、企業が割引・値引きに活路を見出すアナウンスメント効果をもたらした。

2014年のときは消費者への価格転嫁を優先し、政府は値引きを抑制する立場だった。今回は値引きに寛容であり、消費者もそれをいくらか見越している。中小の小売・飲食サービス業は利益率が低くて割引に応じにくいかもしれないが、中堅・大企業は2014年のときよりも利益率が改善しており、値引きに動きやすい。

<来年3月までに回復へ>

各種報道によると、大手コンビニ各社はキャッスレス決済時のポイント還元を、支払い時に割り引くことに決めたという。大手インターネット通販は、出店企業が出品する商品を購入したユーザーに対し、金額の5%を即時に割り引く方針を打ち出している。キャッシュレスの主体になるカード各社も、その場でポイント分を割り引くという。

一連の動きは、値引きによるアピールが、消費者に対して最も有効とみている証拠だろう。こうした値引きの効果は、10月以降の消費落ち込みを回復させる切り札になる。

消費は2020年1─3月に増税前の水準に戻り、その後は五輪需要によって増加すると筆者はみている。大会直前の来年4─6月はテレビなど家電の販売が伸び、7─9月は旅行などが伸びる。増税の後遺症は、値引きと五輪特需でマクロ的には消えると期待している。

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

(編集:久保信博)

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