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コラム:トランプ政権「次の標的」は日本か=佐々木融氏
January 31, 2017 / 12:01 AM / 10 months ago

コラム:トランプ政権「次の標的」は日本か=佐々木融氏

[東京 31日] - 先週、出張で米国の東・西海岸それぞれ2都市を訪問した。1週間4都市を訪問した程度で分かるようなものではないだろうが、筆者なりにトランプ政権下の米国で何が起きているのか、日本はどう対処すべきなのか、感じたことを記したい。

一言で言えば、米国は大騒ぎになっている。ニュース番組はいつ何を見ても、ドナルド・トランプ米大統領の話題一色だ。局によって内容が相対的に好意的か批判的かの違いはあるが、新大統領に関する話題ばかりを追っている。

トランプ大統領は、大統領選の一般投票で300―500万人程度が違法に投票し、それがなければ自分は一般投票でも民主党のヒラリー・クリントン候補よりも多くの票を得ていたはずだと主張し続けている。

また、日本でも報じられている通り、就任式の観客は史上最多だったと繰り返し、「スタンディング・オベーションが止まず、アメフトの試合のようだった」とまで言い放っている。

ちなみに、筆者が話した米国人のほとんどは、「トランプ大統領の任期が早く終わって欲しい」などとあきれていた。ある同僚は、「ここまでの強気相場はトランプ相場などではなく、共和党が上下両院で過半数を取ったことによる、共和党相場だ」と語っていた。

ただ、最も強く印象に残ったのは、30代前半くらいの白人女性の発言だ。「自分の友人には黒人、アラブ系、アジア系が多くいて、これまでそのことを何とも思わず、自分の世代は差別とは無縁だと思っていたが、トランプ大統領の誕生でこうした人種の違う友人と話すときに意識してしまう自分を感じるようになってしまった」。

また、40代くらいの白人男性は、トランプ大統領の誕生は「白人が感じた脅威から生じた結果で、それが逆にメキシコ人、イスラム教徒、その他の人たちの脅威を生んでしまっている」と語っていた。何か大きな社会的な変化が生じ始めているのは事実だろう。

<矢継ぎ早の大統領令で広がる混乱>

それにしても、トランプ大統領の政策は矢継ぎ早に出てくる。ホワイトハウスのホームページを見ると、就任後最初の1週間で15の大統領令を発し、11人の外国首脳と会談したという。また、新政権チームとしては、75人の下院議員とそのスタッフ、35人の上院議員とそのスタッフと法案について議論したと書かれてある。

ただ、あまりの動きの速さに混乱が生じているのも確かだ。トランプ大統領は難民の受け入れを120日間停止したほか、イスラム教徒が多いイラク、シリア、イランなど7カ国からの市民入国を90日間停止するとの大統領令に署名した。

これにより、多くの人が米国の空港で入国を拒否されたり、米国へ向かう飛行機に搭乗する前に止められたりしており、それに対してニューヨークの連邦地裁が大統領令の効力を部分的に停止する判断を示すに至っている。

ところで、メキシコなどの国からの輸入品に関税をかけるという国境税の議論は、法人税制改革と一緒に語られているが、出張中に聞いた話によると、実質的には法人減税にならない可能性が高いとの見方もあるらしい。米国は法人所得から控除できる項目が非常にたくさんあるが、こうした控除項目がなくなる可能性があるためだという。

また、メキシコ国境の壁については、私の同僚や、ニュース番組のコメンテーターも、「結局、壁の費用を払うのは米国人じゃないか」と批判していた。トランプ大統領がメキシコ大統領と電話会談し、費用の問題をひとまず棚上げにしたのは、そうした批判に気付いたからかもしれない。風見鶏のポピュリストなのか、朝令暮改型のリーダーなのか。いずれにせよ、トランプ大統領は意外に頑固ではない可能性もある。

<メキシコとは休戦状態へ、中国批判も鎮静化>

ただ、以下の件については、今回の出張を経て、かなり心配になった。それは、中国に関する発言がトランプ政権からあまり聞かれないことと、意外に日本に対して厳しい目が向けられていると感じたことだ。

米国の貿易赤字の半分は対中赤字である。したがって、米国の批判は中国に対して最も強く示されるべきだ。それでも、今のところ中国に対する動きはほとんど見られない。まさか、春節の間は控えておこうということなのか。

一方、日本に対しては予想以上に手厳しいと感じる。米国の貿易赤字に占める、対日本、対メキシコ、対ドイツはそれぞれおおむね10%程度で大差がない。なのに、対ドイツの貿易赤字はそれほど言及されず、またメキシコとの間ではとりあえず一戦交えた後の休戦状態といった感じになっており、むしろ友好ムードまで感じる。

だが対日関係については、トランプ大統領は、環太平洋連携協定(TPP)交渉から脱退し、2国間での協議を行い、交渉の中で「通貨安誘導に対し極めて極めて強い制限を導入していく」と表明するなど、かなり厳しい姿勢を明確に示している。

トランプ大統領は、メキシコに関して実は米国経済にとって非常に重要な国だと気付いたのかもしれない。実際、ほとんどの米国人はメキシコからの移民が米国経済を支えていることは分かっている。また、中国との交渉は一筋縄では行かないことも分かっている。仮に中国製品が急に米国に入ってこなくなったりしたら、米国経済は潤うどころか大混乱に陥るだろう。

そう考えると、実際にたたきやすいのは日本だとトランプ大統領が気付き、日本がスケープゴートにされはしないかと心配になる。通関統計によれば、2016年の日本の貿易黒字は4.1兆円だが、このうち米国に対する貿易黒字は6.8兆円だ。つまり日本の貿易黒字はほとんど米国から稼いでいる。そして、対米貿易黒字6.8兆円のうち4.3兆円が自動車の貿易黒字である。米国の自動車業界から文句を言われやすい状況にあることは確かだ。

さらに、日本は安全保障上、米国の庇護の下にあるため、あまり強気に出ることができない。特に日本は、メキシコやドイツと異なり、安全保障上、比較的差し迫った危機にさらされている。

トランプ大統領は今後、矢継ぎ早に出した政策に対して、メディアや民主党から詳細を詰められたりして、順調に政策を進めることができない可能性が高い。おそらく、ほとんどの政策が何らかの障害にぶち当たると予想される。そのとき、最もスケープゴートにされやすく、国民の目をそらすのに使われるのは日本なのではないだろうか。

筆者は、米中貿易摩擦の過熱を背景に、米政権がドル安政策を採用してくるリスクが高いと考え、全般的なドル安によるドル円相場の下落(円高・ドル安)を予想してきた。だが、現実には日米貿易摩擦の再燃でもっと大きな円高圧力が起きやしまいか心配だ。トランプ政権誕生から1週間強が過ぎた今、1990年代前半と同様に、米政権がドル円相場を直接的なターゲットにしてくるリスクも排除できないのではないかと考え始めている。

トランプ大統領のエネルギッシュな動きを見ていると、為替相場に関する圧力くらいで済めばまだ良いほうで、もしかしたら、安全保障や外交面で日本は大きな転換点を迎え、ごく短期間での決断を迫られるときが来るのではないか。

筆者は典型的な無党派層ではあるが、2月10日に予定されている日米首脳会談では1人の日本人として安倍首相を応援したいと思う。メキシコでは、壁建設問題での米国に対するペニャニエト大統領の対応に野党も賛辞を贈ったそうだ。今回は日本も「オールジャパン」で臨む必要があるような気がする。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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