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コラム:日米経済対話で開く「円高の扉」=佐々木融氏
2017年2月13日 / 15:25 / 9ヶ月後

コラム:日米経済対話で開く「円高の扉」=佐々木融氏

[東京 14日] - 10日の日米首脳会談は、約40分間の会合と1時間程度のワーキングランチだったという。この程度の時間で重要事項について突っ込んだ話が行われたとは思えず、共同声明も記者会見の冒頭発言も、あらかじめ決まっていたものだったのだろう。

トランプ大統領は記者会見も早く終えたかったようで、会見を打ち切ろうとしたところを、安倍晋三首相にもう1人の記者の質問を受けるように促されていた。そして、その質問に答えた後、「フロリダに行こう」と、うれしそうに約30分間の会見を締めくくった。その後、ツイッターには大統領専用機「エアフォースワン」内で撮影したツーショットが投稿された。

11日朝、トランプ大統領はツイッターに「メラニアと私は日本の安倍首相夫妻をパームビーチのマール・ア・ラーゴにお迎えしている。彼らは素晴らしいカップルだ」とコメントを投稿。その数時間後にはゴルフ場で2人がハイタッチしている写真も投稿した。およそ5時間かけて27ホールもプレーしたとのことで、会談や記者会見の長さを考えると、明らかにゴルフがメインイベントだったようだ。

その夜、ツイッターには安倍首相らとワーキングディナーを行ったと投稿し、「Very good talks!」とコメントしているが、さすがに27ホールもプレーした後のディナーで突っ込んだ話が行われたとは考えにくい。要するに、今回の会談で、日米通商摩擦の可能性が遠のいたと決め付けるのは早計だろう。

<安全保障面では日本側に「最高の結果」>

ただ、安全保障と日米同盟に関しては、日本から見て「最高の結果が得られた」とは言えそうだ。共同声明でも記者会見でも最も強調されたのは、この2点だった。共同声明ではしっかりと「日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用されることを確認」と明記された。日本にとってはここが最も重要なポイントだったと言えよう。

加えて、記者会見の冒頭発言の中で、トランプ大統領は在日米軍をホストしてくれているとして、日本に対して謝辞まで述べた。選挙期間中、米軍駐留経費の全額負担を要求していたのとは大きな違いだ。

また、同じく冒頭発言内で、トランプ大統領は北朝鮮のミサイル・核兵器の脅威に対する防衛は非常に優先度が高いともコメントしていたが、ちょうどトランプ大統領と安倍首相のゴルフが終わった頃を見計らってか、北朝鮮が弾道ミサイルを日本海に向けて発射した。

これに対して、ゴルフ、ディナーを終えた2人が、現地時間夜10時半頃に2人で現れて、2分間だけの共同記者会見を行い、トランプ大統領は一言、「米国は素晴らしい同盟国である日本を100%支持している」と言い切った。北朝鮮のミサイル発射は予想していなかっただろうが、それにより駄目押し的に日米同盟の強固さを印象付けることができたと言えよう。

<会見で垣間見えたトランプ大統領の問題意識>

筆者は、実は今回の日米首脳会談で、トランプ大統領側から何らかの形で日本の為替・金融政策に対して懸念が示されたり、円安修正に対する圧力をかけられたりする可能性があるのではないかと警戒していた(前回コラム)。だが、今回の会談では、とりあえずそのような懸念は杞憂に終わったようだ。

円安に対する不満、貿易不均衡是正のための圧力はいずれ強まることは目に見えている。多少の時間的な余裕を稼げたことは日本経済にとって好ましかったと言えるだろう。

ただ、通商問題に関して、トランプ大統領は記者会見で、日米は「自由、公平、互恵的で、両国にベネフィットがある通商関係を目指す」とコメントしている。通貨政策に関しては、直接的な言及はなかったが、日本メディアの中国に関する質問に対して、以下のように、トランプ大統領は通貨切り下げへの不満を表明した。

「通貨切り下げに関しては、私はずっと不満を述べてきた。最終的には恐らく多くの人が理解し考えているよりもはるかに早く、我々は皆、公平な競争の場(level playing field)に立つことになると信じている。なぜなら、それが公平な唯一の道だからだ。貿易やその他の事で公平に競争できる唯一の道だ。我々はその場に立ち、我々の国に素晴らしい貢献をしようと懸命な努力を続けるだろう。だが、それ(競争の場)は公平でなくてはならず、我々が公平なものにする」

ちなみに、記者の質問は「中国が(為替政策を)大統領が望む方針に転換した場合、米国のアジア太平洋地域への対応に変化はあり得るか」と、中国の為替政策に限ったものではなかったため、トランプ大統領の不満の矛先が中国だけに向けられたものなのか、一般的な通貨切り下げの話だったのかがやや分かりにくかった。

だが、これが日本の為替政策も対象にした発言であるなら、早晩、円安修正を求める圧力がかかってきてもおかしくないだろう。

<過去15年で見れば日本も大規模な円売り介入>

日本は確かに2011年11月以降、円売り介入を行っていない。したがって、過去5年と数カ月、為替操作はしていないとの主張は正しい。

もっとも、過去15年間で見ると、日本は合計55兆円もの巨額の円売り介入を行っている。被害を受けていると思っている側からすれば、過去15年では大量に介入を行っているのであれば、そのおかげで円が割安に放置されていると言うだろう。なお、日本の過去15年間の円売り介入額は、同期間における財の貿易黒字の7割にあたる。

新たな経済対話の枠組みについては、麻生太郎副総理とペンス副大統領の下で対話をしていくこととなった。また、為替に関しては財務相間で議論が継続されていくという。しかし、ここまでの流れを見ると、通商・通貨問題が全て副大統領、財務長官に委ねられて、トランプ大統領がツイッターで全くつぶやかなくなるということではないだろう。

1980年代から90年代にかけて、日米構造協議、日米包括経済協議が設定され、日本は貿易不均衡問題に関して米国から圧力をかけられてきた。今回は安倍首相からの提案によるものだったようだが、日米経済対話が、過去の協議と同じような状況となるリスクは排除できないのではないか。

筆者は引き続き、今年は政治がドル円相場の主要なドライバーとなり、米国の保護主義的な姿勢が円、ユーロ、スイスフランといった資本調達通貨に対するドルの下落につながるとみている。

また、それが日本の企業・投資家が保有する巨額の円ショートポジションの巻き戻しやヘッジ加速を誘発するリスクも高いと考えており、ドル円相場が年末までに100円を割り込むとの予想を維持している。

――関連コラム:トランプ政権「次の標的」は日本か=佐々木融氏

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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