Reuters logo
コラム:同じ方向に進み始めた日米欧金融政策=佐々木融氏
2017年3月16日 / 11:31 / 9ヶ月前

コラム:同じ方向に進み始めた日米欧金融政策=佐々木融氏

[東京 16日] - 14―15日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)は予想通り25ベーシスポイント(bp)の利上げを決定し、政策金利のターゲットを0.75―1.0%とした。2月末頃から米金融政策当局高官の発言が急にタカ派的となり、利上げ期待が急速に高まっていたことから、今回の決定はすでに織り込み済みだった。

一部の市場参加者の間では、声明文もタカ派的なものとなり、FOMCメンバーの2017年中の政策金利見通し(ドット)中央値が12月FOMC時の年3回の利上げ予想から、年4回の利上げ予想に上方シフトするのではないかとの期待も高まっていた。

しかし、声明文は設備投資、インフレに関する部分で上方修正があったものの総じて見ればタカ派的とは言えず、またドットの中央値も年3回の利上げ予想にとどまった。フェデラルファンド(FF)金利先物市場は、もともと今年の利上げ回数を2.7回程度と織り込んでいたが、ドットが変わらなかったことを受けて、(今回の利上げも含め)2.5回程度の織り込みに後退してしまった。

市場はそもそもドットで示されるFOMCメンバーの利上げ予想を割り引いて見ている。なぜなら、例えば2014年12月、2015年12月のFOMCでは、どちらもドットの中央値は翌年中に4回利上げを行うことを予想していた。しかし、実際にはどちらも1回しか利上げは行われなかった。

つまり、FOMCメンバーの政策金利に関する予想はあまりあてにならないとして、市場はこれをある程度割り引いて見ているのだろう。だから、ドットの中央値が3回にとどまったので、市場の織り込み度合いは2.7回から2.5回に後退したのだ。

過去の経験則から言えば、米連邦準備理事会(FRB)が利上げを行うと、米長期金利、ドルともにピークを打ち、反落する傾向が強い。市場の期待に比してタカ派的とは言えなかったFOMCを受け、今回も米長期金利とドルが反落基調入りする可能性は高いだろう。

結局、ドル円相場は1月中旬以降のレンジ(111円半ばから115円半ば)上抜けに失敗し、今度はレンジの下限を試しに行く展開となるだろう。

<ユーロドル上昇がドル円上値を抑える可能性>

当社は引き続き、米国の保護主義的な姿勢の強まりや欧州の政治的な不安定化が、ドル円相場をドル安・円高方向に向かわせると予想している。こうした政治リスクが顕現化した場合には、レンジを下抜ける可能性もあるだろう。

ただ、実は金融政策も同じドル安・円高方向を指し始めているのではないかと筆者は考えている。なぜなら、日米欧の金融政策は基本的に同じ方向を向き始めているからだ。

2014年から2015年にかけては、「金融政策の方向性の違い」が明確となり、ドルは対円、対ユーロで上昇した。しかし、足元を見ると、先に利上げを行い、市場の期待も過度に高まった米国の金融政策に比べて、日欧の金融政策はこれから正常化に向けた動きが出始めると予想される。政策の方向性が同じになった上に、その温度差がドルを対円や対ユーロで弱い通貨にさせる可能性もありそうだ。

欧州中銀(ECB)は3月9日の理事会で金融政策を予想通り据え置いたが、ドラギ総裁の会見からは、理事会がこれまでに比べて先行きの見通しに満足してきており、差し迫っているわけではないが、徐々に出口に近づきつつある印象を受ける。また、スタッフの経済見通しも、コアインフレ率について2018年に1.5%、2019年に1.8%まで上昇するという強気の見方を示している。

当社はECBが2017年末頃にはテーパリング(緩和縮小)開始を宣言し、2018年第4四半期から緩やかな利上げを開始すると予想している。状況が順調に進めば、こうした期待が今年半ば頃から盛り上がり始め、ユーロドル相場を大きく押し上げるかもしれない。対ユーロでのドル安は対円でのドルの上値を抑えることにもなるだろう。

<金融引き締めに近いのはECBより日銀か>

日銀は15―16日開催の金融政策決定会合で金融政策を据え置いた。日本の場合、コア消費者物価上昇率が年末に向けてプラス1%程度まで上昇していくとの予想が多いため、10年物国債金利に関するコントロール目標である「ゼロ%」を日銀が引き上げるのではないかとの思惑が徐々に高まっている。

しかし、黒田東彦総裁は記者会見で、「物価上昇見通しは2%の目標に向けモメンタムは維持されているが力強さに欠ける」「ヘッドライン、コア、あるいはコアコアの数字がある水準になったからといって、ただちに長期金利の操作目標を変えることにはならない」などと発言し、市場の思惑を否定するような慎重な姿勢を強調した。

日銀はECBに比べれば引き締め方向への動きが遅れているように見えるが、昨年9月の時点ですでに量的緩和政策を事実上止めて、イールドカーブ・コントロールに移行している。国債の買い入れ額については、「概ね現状程度の買い入れペース」として、金利操作を目標としている。

ECBは量的緩和をまず停止し、かなりの期間が経過した後、利上げを行うとの見方を示しているが、日銀はインフレ率など条件が整えば、すぐにでも政策目標である10年の金利を引き上げる可能性がある。こうして見ると、日銀の方がECBより金融引き締めに近いと言えなくもない。

当社のドル円相場に対する弱気な見方は、基本的には米国の保護主義的圧力が高まるとの予想を背景にしたもので、金融政策の方向性によるものではないが、現実の日米欧中銀の動向や市場の思惑も考えると、金融政策の方向性から見ても、ドル安・円高方向へと進む可能性が出てきたのではないだろうか。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
0 : 0
  • narrow-browser-and-phone
  • medium-browser-and-portrait-tablet
  • landscape-tablet
  • medium-wide-browser
  • wide-browser-and-larger
  • medium-browser-and-landscape-tablet
  • medium-wide-browser-and-larger
  • above-phone
  • portrait-tablet-and-above
  • above-portrait-tablet
  • landscape-tablet-and-above
  • landscape-tablet-and-medium-wide-browser
  • portrait-tablet-and-below
  • landscape-tablet-and-below