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コラム:日銀の金融政策に対する「7つの疑問」=佐々木融氏
2017年7月21日 / 01:55 / 2ヶ月前

コラム:日銀の金融政策に対する「7つの疑問」=佐々木融氏

[東京 21日] - 日銀は20日の金融政策決定会合で、予想通り金融政策を据え置く一方、2%の物価目標達成時期に関する予想を、これまでの「2018年度ごろ」から「2019年度ごろ」に先送りした。ただ一方では、景気に対する総括判断を上方修正しており、日銀の金融政策はますます市場参加者にとって難解なものになってきたと言えそうだ。

このように市場参加者との対話がうまくいかない状況が続くようだと、将来何かしらのショックが発生した時に、日本の金融市場、金融システムが予想以上のダメージを受ける可能性もある。

市場参加者の1人として、現在の日本の金融政策に関する素朴な疑問点をいくつか挙げてみたい。

1)なぜインフレ率は今でも2%が適切なのか。

日銀が2%のインフレ率を目指すのは、消費者物価(CPI)には上方バイアスがあること、金融政策には糊代(のりしろ)が必要なことに加えて、他主要国の中央銀行もおおむね2%程度のインフレ率を目指して金融政策を行っているからだ。

最後の点については単に他の中銀をまねているということではなく、他主要国と同水準のインフレ率を長期間維持することができれば、為替レートが比較的安定するという効果を見込める。

しかし、そもそも、主要10中銀の中で、コアインフレ率2%超えを達成しているのは現状、英中銀(BOE)だけだ。仮に何らかの構造的な理由で世界的にインフレ率が低下しているのであれば、上記の他の2つの理由を考慮しても2%が適切とは言い切れず、すでに非現実的な水準となっているのかもしれない。

今でもインフレ率2%を目標とすることが本当に正しいのか、既存のマクロ経済学の「常識」にも疑いの目を向けて、改めて検討すべきではないだろうか。

2)金融政策で企業は賃金を上げるのか。

今回の展望レポートで、そして黒田東彦総裁も記者会見で指摘している通り、足元では経済が拡大し、企業収益は最高水準にあり、失業率は歴史的に低く、有効求人倍率はバブル期以来の水準にある。それでも、企業の賃金・価格設定スタンスはなお慎重なものにとどまっている。

黒田総裁も記者会見で指摘したように、物価だけが上がることを消費者は受け入れられず、賃金も上がる必要がある。逆に言えば、賃金が上がらなければ、物価が安定的かつ健全な形で上昇することはないだろう。

日銀は今回も「マクロ的な需給ギャップが改善していく中で企業の賃金・価格設定スタンスも次第に積極化してくると考えられる」としているが、黒田総裁就任直後の展望レポートから日銀は同じような文言を繰り返している。企業が賃金を引き上げないのは、構造的な問題であり、そもそも金融政策で何とかできるようなものではないだろう。

3)金融政策で物価が上昇するような状態にあるのか。

近年、インフレ率が上がらないのは日本だけの現象ではなく、世界的な傾向だ。当社が算出する、先進国のCPIの前年比を見ると、それぞれの期間中の平均値で1980年代は4.4%、1990年代は2.5%、2000年代は1.9%、2010年以降現在までは1.4%となっている。

インフレ率の低下傾向は明らかに世界的な現象であり、構造的な要因が背景にある可能性が高いだろう。よく言われるように、インターネットが普及した結果、今や椅子に座ったまま、さまざまな店舗を比較し、最も安い価格で買い物をすることができる。

加えて、郊外の大規模店が増えており、車で出かけて、割安な品物を大量買いすることも普通になっている。これ以外にも、さまざまな社会的な変化が物価水準に一定程度影響を与えている可能性は高い。これらは金利やマネタリーベースの操作によって変化させることができるような事象ではないだろう。

4)インフレ目標達成時期を6回も先延ばしして、フォワードルッキングな期待形成に寄与できるのか。

黒田総裁は昨日の記者会見で、日本の予想物価上昇率が足元の物価に引きずられる傾向が強いことについて、それを十分勘案していなかったと率直に認めた。もっとも、同時に「見通しが外れたから信用がなくなるということではない」とも発言した。

率直に言って、これは通常では受け入れ難いロジックだろう。筆者も含め、民間のエコノミストやストラテジストも見通しを外すことはよくあるが、「外し続けても自分の信用はなくならない」とは言えない。

一方で、日銀は、物価安定目標の実現に強くコミットし金融緩和を推進していくことで、中期的な予想物価上昇率は上昇傾向をたどると説明している。今回の日銀の見通しは当たると信じてくれる人がどの程度残っているかは疑問だ。

5)日銀政策委員9人中8人が見通しに自信なしなのか。

日銀は、今回の展望レポートの中で、2%の物価安定目標に向けたモメンタムは維持されているとして、黒田総裁も記者会見の中で、モメンタムが維持されている状況であり、追加緩和が必要だとは考えていないと指摘した。一方で、物価見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向を中心に下振れリスクの方が大きいと指摘している。

さらに、「政策委員の経済・物価見通しとリスク評価」では、9人の委員のうち、8人が自身の2019年度のコア消費者物価指数の見通しに関して「下振れリスクが大きい」としている。前回4月の時は「下振れリスクが大きい」と指摘した委員は9人中6人だった。

日銀は今回の会合で2%の物価目標達成時期に関する予想を、これまでの「2018年度ごろ」から「2019年度ごろ」に先送りしたが、どうやら政策委員のほとんどが2019年度でも無理な可能性が高いとみているように受け止められる。これでは中長期的な予想物価上昇率に影響を与えることは難しいだろう。

6)日銀の上場投資信託(ETF)購入額は本当に「小さい」のか。

日銀が毎年6兆円のペースでETFの買い入れを行うことにコミットしている点に関して、黒田総裁は副作用もなければ、コーポレートガバナンスを阻害することもない、購入額も東証の時価総額と比べれば小さなものだと指摘した。しかし、本当にそうなのだろうか。

日銀は7月10日時点で15.6兆円の株式を保有している。東証の時価総額は約600兆円なので日銀はその約3%を保有していることになる。

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が保有する国内株式は35兆円程度なので、日銀の保有額はそれよりは小さいが、市場参加者が問題にしているのは、日銀は今後も毎年6兆円のペースで買い入れを行うというコミットメントを簡単に止められないのではないかということだ。

仮に2019年度になっても物価が目標に到達せず、まだ同様に6兆円の購入を続けていれば、日銀の株式保有額はGPIFを超えることになるだろう。負債の性質を考えた時、国の年金基金よりも多くの株式を保有する中央銀行は本当に大丈夫なのだろうかと非常に心配になる。

7)市場機能を損ねることのコストを軽視し過ぎてはいないか。

また、もう1つ気になるのは、黒田総裁が記者会見でETF購入について、押し目買いの機会を失わせているとの批判もあるが、と質問された際、「債券でも株でも、値が大きく動かないと利益が出ないかもしれないが」と答えた点だ。

最近、日銀からこうした発言が聞かれることが多い気がする。つまり、「市場が動かなくなると市場参加者は利益が出せなくなるので、自分のことを考えて文句を言っているのだろう」というニュアンスの発言だ。

しかし、市場参加者が利益を出せない管理された市場は当然、活力を失う。多くの参加者はその市場から撤退し、市場として機能しなくなる。日銀が日本経済の活性化のために金融政策を行っているのであれば、経済の重要な構成要員である企業の資本調達の場の機能を奪って良いとは思えない。

国債市場に関しても、先進国で最も大きな対国内総生産(GDP)比での国家債務を抱えている日本の国債市場から、参加者を追い出すことが本当に正しいことなのか疑問に思う。日銀は市場機能を損ねることのコストを軽視し過ぎているのではないか。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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