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コラム:ドル115円の厚い壁、米国要因で崩せるか=佐々木融氏
2017年11月6日 / 23:37 / 11日前

コラム:ドル115円の厚い壁、米国要因で崩せるか=佐々木融氏

[東京 7日] - 11月に入り、米国関連でマーケットに影響を与えそうな事柄にいくつか動きがみられた。それらを受けて、ドル円相場は強含み、今年3月以来となる高値を更新したが、引き続き113円台は底堅く、114円台は上値が重い。主要通貨のなかで、中位程度のパフォーマンスにとどまる円とドルに明確な差が出ていないことが背景にある。

米国関連の材料でここ数週間最も注目されていたのは、米連邦準備理事会(FRB)議長人事だっただろう。トランプ米大統領から思わせぶりなコメントが流れていたが、最終的には現FRB理事のパウエル氏指名という無難な選択に落ち着いた。上院での承認は僅差になる可能性もあるが、年末までには承認される公算が大きい。そうなれば、来年3月20―21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)がパウエル新議長の下での最初のFOMCとなる。

パウエル氏の議長就任は政策の継続を意味すると考えられる。パウエル氏は理事としてFOMCの議決に反対したことはなく、また同氏の意見は議会への半期金融政策報告などで示されるFRBや地区連銀スタッフのものに近い。つまり、今後の金融政策については、目先で大きな変化は予想されず、結局、インフレ率やその他の景気指標次第ということになるのだろう。

パウエル氏の議長就任が承認され、イエレン氏が理事としても職を辞すると、正副議長を含む7人のFRB理事ポストのうち4人が空席となる。さらには、ダドリー・ニューヨーク(NY)連銀総裁が、再来年の任期を前に来年半ばまでに退任する予定だとの報道も流れている。ちなみに、NY連銀はFOMCで決定された金融政策の市場でのオペレーションを実行する。その総裁は、他の地区連銀総裁とは異なり毎回FOMCで投票権を持つ重要ポストだ。

あまりに多くのポストが空席となるため、イエレン氏が理事として短期的に残留する可能性もあり得るかもしれない。イエレン氏の議長としての任期は2月までとなるが、理事としての任期は2024年までだ。

引き続きFRB副議長(2つのポストのうち1つはすでにクォールズ元財務次官が指名され上院も承認)、その他の理事、NY連銀総裁の人事に注目する必要がありそうだが、トランプ大統領・共和党下で指名されたパウエル氏、クォールズ氏はともに「金融規制緩和派」として選出されたようにもみえる。今後の任命も「タカ派かハト派か」というより、「金融規制緩和派かどうか」という点がポイントになる可能性もある。

<失業率改善の背景に労働参加率の大幅低下>

FRB議長人事に加えて注目されていた米10月雇用統計は、やや弱めの結果になったと言えそうだ。失業率は前月の4.2%から4.1%と2000年以来の水準に低下したが、その背景は労働参加率の大幅低下であり、あまり良い失業率低下ではない。

しかも、10月の労働参加率の大幅低下は、通常のように失業者が非労働力人口に移行したことが主因ではなく、就業者が非労働力人口に移行したことが主因となっている。つまり、働いていた人が何らかの理由で職を離れ、求職もしていないことが考えられる。就業者数は48.4万人減と4年ぶりの大幅なマイナスとなった。

また、平均時給の前年比は、ハリケーンによる特殊要因で押し上げられていた9月のプラス2.83%からプラス2.43%へと大幅に鈍化した。伸び率としては2016年2月以来の低水準だ。

失業率が低下すれば賃金が上昇し、インフレ圧力が強まるという関係を示したフィリップス曲線は、失業率のデータ自体の信ぴょう性に疑問が生じれば機能しなくなる。インターネットを通じて単発で仕事を請け負う就労形態(ギグエコノミー)が広がるなど働き方が変化しつつあるなか、失業率の正しさ自体に目を向ける必要もありそうだ。

<税制改正の景気刺激効果は限定的>

米国に関するもう1つの注目材料は、税制改正の動きだ。米上下院は10月、2018会計年度(2017年10月─2018年9月)の予算決議を可決し、今後10年間で税制改正による1.5兆ドルの財政赤字拡大を認めた。上院で財政改革法案を単純過半数で通過させることを可能にする財政調整法を活用するためには、予算決議の成立が必須だったため、税制改正に近づいたことは事実だ。

しかし、税制改正には、まだ立法化に向けた長く困難な道のりが待っている。実際、下院歳入委員会が先週示した税制改正案について、大ざっぱな言い方をすれば、「今後10年間で1.5兆ドルの減税」は約5.7兆ドルの減税案と約4.2兆ドルの増税案から成り立っていると整理することもできる。増税側の方が強い反対に直面すれば、減税案も通らない可能性がある。

また、この提案の中心は法人税率の35%から20%への引き下げであり、これが連邦の歳入減少のほとんどを占める。個人所得税についての提案はより複雑だ。税率は全般的に引き下げられたが、多くの控除が縮小または廃止され、その結果、個人への減税は企業よりも小さいものとなっている。いずれにしても、当社では、こうした税制改正が来年の米国経済に与える財政的刺激はわずかなものにとどまるとみている。

国際課税制度改革について、下院案通りとなれば2000億ドル程度の海外留保利益の米国への還流が発生するかもしれない。これは株主への配当を増加させ、株価にはポジティブに働く可能性はある。しかし、これらの海外留保利益のほとんどはすでにドルで保有されているか為替ヘッジが行われているため、米国への還流時にドル買いとなる分は極めて小さいと考えている。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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