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コラム:米税制改革後の株価・為替シナリオ=佐々木融氏
December 6, 2017 / 11:03 AM / 10 days ago

コラム:米税制改革後の株価・為替シナリオ=佐々木融氏

[東京 6日] - 米上院は2日、税制改革法案を可決し、税制改革のいくつかのハードルのうち2番目をクリアした。これで下院と上院でそれぞれの税制改革法案が議会を通過したため、残るハードルは、両院協議会のプロセス、上下両院での再度の採決、その後の大統領署名となる。

米税制改革に対する期待が高まったことを受け、週明けの4日は米金利上昇・米株高となったが、5日には早くも調整が入り、米株、米10年債金利は1日のニューヨーク終値水準をすでに下回っている。ドル円相場も4日には113円台までドル高・円安が進んだが、6日の本稿執筆時点では112円ちょうど近辺までドル安・円高が進んでおり、1日のニューヨーク終値近辺まで戻っている。

こうした短期的な反応はともかく、今回の米税制改革が実現した場合、中長期のマーケットや同国の経済にどのような影響を与えるのだろうか。

<S&P500の来年末ターゲットは2800付近>

実は今回の法案が仮にクリスマス前に成立するならば、過去最速で実現する税制改革となる(ただし、今回の税制改革は改革よりも減税に重点が置かれている)。

議会の迅速なペースは、1)12月12日に実施されるアラバマ州上院議員補欠選挙、2)2016年米大統領選挙へのロシア干渉疑惑に関するモラー特別検察官による捜査、という2つのリスクを踏まえたものと言える。

ただ、プロセスの進捗(しんちょく)がこれよりも幾分緩慢だったとしても、今回の税制改革法は、法人税引き下げの大きさという点で依然、歴史的なものになるだろう(法人税の法定税率は第2次世界大戦以降で最低となる)。

当社は、仮に本税制改革法案が成立した場合、今後10年間で約1兆ドル(年間1000億ドル)の景気刺激策が講じられると想定している。しかし、今回の法案が法人税引き下げ重視であり、その他の歳出削減も含まれていることや、キャッシュにさほど制約がない場合でも企業が投資に消極的な姿勢であることを踏まえると(さらに米国経済規模の大きさも加味すれば)、経済成長率の押し上げ効果は2018年で0.25%ポイントにとどまると予想している。

とはいえ、たとえ経済成長率に与える影響はわずかでも、法人税減税が企業収益に大きな影響を与えることは確かだろう。当社の米株ストラテジストは、長期にわたり税制改革が成功すれば、S&P500指数の2018年末のターゲットは2800程度になるとみている。

<米金利高・ドル高効果は限定的、レンジ相場継続へ>

一方、米長期金利への影響については、この程度の景気刺激では小さいだろう。インフレ率に与える影響も軽微と考えられるためだ。

そもそも、前回の米連邦準備理事会(FRB)の利上げ局面と同様、FRBの利上げがかなり進むまで長期金利が上昇することはないと思われる。当社の米債ストラテジストは、2018年末の米10年債金利は2.7%程度までしか上昇しないとみており、イールドカーブが大きくフラット化すると予想している。

そうしたなかで、やはりドルの上昇にも限界があると考えられる。過去のFRBの利上げ局面を見ても、ドルはFRBが利上げを始める前は比較的勢いよく上昇する傾向があるが、いったん利上げが始まると、横ばいか軟調に推移する。従って、仮に今回の税制改革が実現しても、2018年のドル円相場は今年と変わらないレンジ内での推移となるだろう。

今回の税制改正により、米国企業が海外に留保する利益の本国送金がドルを押し上げるのではないかとの声も聞かれる。しかし、当社では、約2.2兆ドルに上ると見積もられる米国企業の海外留保利益のうち7―8割がすでにドルで保有されているか為替リスクがヘッジされているとみている。従って、こうした留保利益が米国に送金されても、ドル買いにつながる金額はさほど大きくはならないと考えている(ただし、自社株買いなどに使われる可能性はあり、米株価にとっては支援材料となるだろう)。

また、同じように2005年に海外留保利益の本国送金を発生させた米国本国投資法(HIA)では、減税を享受するためには実際に本国送金を行う必要があった。しかし、今回の税制改正案では累積海外留保利益に対する強制みなし配当課税が用いられる可能性が高く、実際に本国送金するかどうかは減税の対象となるかに関係ない。

仮にドルにわずかながらも影響を与えるとすれば、財政刺激策がFRBの利上げ期待を一時的に高める可能性だろう。これがドルを押し上げる可能性は排除できない。

しかし、全体像が見えてきた時、米企業収益に与える影響は大きくても、マクロ経済に与える影響がそれほどでもないとの見方が広がれば、米株価を押し上げても、米金利やドルの上昇要因としては力不足だろう。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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