January 10, 2018 / 6:03 AM / 10 days ago

コラム:円高にならない日銀緩和からの「抜け出し方」=佐々木融氏

[東京 10日] - 日銀が9日に金融調節で超長期国債買い入れ額を減らしたことを受け、円が主要通貨に対し上昇した。しかし、日銀の国債買い入れ額はすでに減少傾向にあり、もはや主たる政策目標ではなくなっているのだから、これは為替市場の過剰反応と言って良さそうだ。

9日の円買いの背景には、クロス円、特にユーロ円での円ショート・ポジションが大きく積み上がっているとの認識があり、もともと円を買い戻す材料を探していたところにタイミングよく、日銀が口実を提供したというだけだろう。

しかし、今回の円買いは、市場参加者、特に海外勢の日銀に対する注目度が高まっていることも示している。こうしたなか、当社は以下のような予想を立てている。

まず、生鮮食品を除く日本のコア消費者物価指数(CPI)は、エネルギーによる押し上げ効果の剥落後も前年比プラス1%近辺で推移する。それをみながら、日銀はイールドカーブ・コントロール政策下での上限を9月に25ベーシスポイント(bp)に引き上げ、12月には50bpに引き上げる。その結果、年末までに日本国債10年金利は0.6%程度まで上昇。上場投資信託(ETF)購入額も9月に現在の年間6兆円から同3兆円に引き下げる――。

こうした予想は恐らく市場参加者のなかで最もタカ派的だ。そのため、仮に日銀が上記の予想通り金融政策を正常化方向に進めた場合、円が実質実効レートベースでかなりの割安水準にあることを背景に、大幅な円高になるのではないかとの懸念を示す投資家は海外を中心に多い。

もっとも、日銀が当社予想通りの政策変更を行っても、4つの理由からさほど円相場には影響を与えず、世界経済の安定成長、低ボラティリティー環境が続くのであれば、円は引き続き弱い通貨にとどまると予想している。以下、それぞれの理由を説明しよう。

●実質金利はマイナスにとどまる

前述した通り、当社はエネルギーによる押し上げ効果がなくなっても、日本のコアCPIは今年半ばから来年に向けて、おおむね前年比プラス1.0%以上を維持すると予想している。これは、賃上げやサービス価格上昇などもあって、前年比でみて、食料(酒類除く)とエネルギーを除くコアコアCPIが足元の横ばいから徐々に上昇してくると予想しているためだ。

このような前提で、日銀がイールドカーブ・コントロール政策の上限を引き上げ、年末までに日本国債10年金利が0.6%まで上昇したとしても、実質金利は夏頃まではむしろマイナス幅を拡大し、年末まででみてもマイナス圏にとどまる。

●日米名目金利差はそれほど縮小しない

現状、ドル円相場に最も影響を与えているのは、日米2年金利差ではなく、日米10年金利差だ。従って、米連邦準備理事会(FRB)の利上げ期待が高まり、米2年金利が上昇を続けてもドル円相場はもはや反応しなくなっているが、日銀が10年金利の上限を引き上げる可能性に対して、為替市場参加者が神経質になるのも無理はない。

しかし、当社の米国金利リサーチチームは、米10年金利も今年末までに2.7%まで上昇すると予想している。従って、もし当社の日米金利リサーチチーム双方の予想が正しければ、日米10年金利差は現状の240bpから210bpまで30bp程度しか縮小しないことになる。仮に過去1年間の相関関係が維持されたとすれば、日米10年金利差が210bpまで縮小してもドル円相場は110円を若干割り込む程度である。

●円相場を歴史的割安水準にとどめている主因は世界経済

円が実質的に歴史的な安値にあるのは事実だ。日銀のイールドカーブ・コントロール政策が、円を割安な水準にとどめていることに果たしている役割は大きいと考えられる。

しかし同時に、記録的な長さとなっている世界経済の安定成長、またそれを背景とした市場の超低ボラティリティーがファンディング通貨である円を歴史的な割安水準にとどめていることの方がより重要だろう。

それでも、FRBが量的緩和縮小(テーパリング)を始めた2014年以降のドル上昇、欧州中銀(ECB)が資産買い入れ規模の縮小を始めた2017年のユーロ上昇と同様の現象が日銀や円にも起きるのではないかとの思惑は根強い。

とはいえ、特に2014年のFRBの時とは異なり、今年は当社がカバーする国のうち約3割の中央銀行が引き締め方向に動くと予想されており、日銀は目立った例外ではない。また、グローバル経済の強さは加速しており、円がファンディング通貨として売られやすい地合いは以前より強まっている。

●市場への影響を軽減する日銀金融政策の選択肢

現状、日銀は声明文で「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う」という方針だけを示す一方、実際のオペレーションではプラス0.1%近辺を上限に10年金利のそれ以上の上昇を抑えている。従って、プラス0.1%以上の水準への上昇を許容する場合でも、声明文の変更を行う必要はないとも考えられる。

例えば、米国の長期金利が上昇した局面や、ドル円相場が上昇した局面を捉えて、声明文を変えることなく、オペレーションのみでイールドカーブ・コントロール政策の上限を少しずつ引き上げる形をとれば、それほど円相場に影響を与えないと考えられる。

日銀はイールドカーブ・コントロール導入によって、テーパリングを行うことによる市場への影響を防いだ。金利は量的緩和政策以上にダイレクトに為替市場に影響するため、同じように影響を全くなくすことは難しいが、大々的なアナウンスをせずにうまく進めれば、円相場への大きな影響は回避できるだろう。

<日銀ETF購入減額も「量的緩和方式」が有効か>

最後に、株式市場について補足しておきたい。現状、日銀によるEFT買い入れに関しては、イールドカーブ・コントロールの上限と異なり、「保有残高が年間約6兆円に相当するペースで増加するよう買入れを行う」と声明に明記している。従って、株価が堅調に推移している状況下でも、声明を変更せずに大幅に年間6兆円を下回るペースに買い入れ額を減額するのは難しい。

当社は、日銀によるETF購入が株式相場下落時の下支えの役割となった可能性は認めつつも、日本株市場全体が押し上げられているとの見解に対しては懐疑的な見方を示している。しかし、仮に9月に買い入れ額を3兆円に減額した場合、短期的には株式市場に対してネガティブな影響を与えることは避けられないかもしれない。

日本の株式市場に対し、短期的であってもネガティブなインパクトを与えないようETF購入額を減額するには、「量的緩和方式」が良いかもしれない。つまり、矛先を変えてターゲットを曖昧にしてしまう方法だ。

日銀審議委員の講演などで少しずつ「株価が堅調に推移している時に必ずしも6兆円にこだわる必要もないのではないか」とのメッセージを市場に伝え、そうしたメッセージに市場が慣れてきたところで、声明文を「株式市場のリスクプレミアムが適正な水準で推移するよう、ETFの購入を続ける」といった曖昧な文言に変える。そして、記者会見で日銀総裁が「必要があれば年間10兆円のペースで購入することもあり得る」と積極的に発言すれば、量的緩和と同様、実際の購入額が減ったとしても、ネガティブな影響は避けられるのではないだろうか。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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