February 6, 2018 / 4:01 AM / 11 days ago

コラム:急落後の世界株価、経験則が示す「2つのシナリオ」=佐々木融氏

[東京 6日] - そもそものきっかけは米税制改革だったと考えるべきなのだろうか。税制改革法が成立した昨年12月後半から米国の期待インフレ率が上昇し始め、今年に入ってからは世界的に各国長期金利が急上昇を始めた。

そして、2月2日金曜日に発表された、予想を上回る米1月非農業部門雇用者数の伸び、平均時給の増加などを受け、長期金利が一段と上昇、これが世界的な株価の急落につながった。

NYダウは2月2日と5日の2営業日で一時8%超下落。投資家の不安心理の度合いを示すVIX指数(別名「恐怖指数」)は2015年8月(中国人民銀行による大幅な人民元安誘導を受けた後の混乱)以来の水準まで急騰している。

当初は良い金利の上昇だったが、1月雇用統計発表を境に、インフレ懸念を背景にした悪い金利の上昇に変わったと考えられるかもしれない。しかし、こうしたパターンでのリスク回避志向の高まり、株価急落は長くは続かないとみている。株価がさらに下げ続ければ、インフレ懸念も急速に後退し、長期金利も低下するからである。

もちろん、今回の市場の動きを受けて何らかの形で巨額損失を発生させる主体が出てしまい、それがシステミックリスクにつながれば話は別だ。だが、そうでなければ、マクロ経済が堅調さを保ち、企業収益も伸びている中でのリスク回避的な動きは長く続かないと考えられる。

ここからの流れを見ていく上では、米長期金利が低下基調をたどるケースと上昇がまだ続くケースの2つのシナリオに分けて考えた方が良いかもしれない。以下、それぞれ検証しよう。

<2009年の経験則>

まずはここから米長期金利が低下するケースだ。ポイントとして振り返りたいのは、昨年12月半ば以降続いていた「米長期金利上昇・ドル安」の動きだ。過去にもドルが比較的長めの期間急速に下落した時に、週間ベースの下落が7週間続くことが多かった。偶然だとは思うが、今回も7週間連続の下落で止まった。

注目したいのは、その中身だ。過去に7週間ドルが続落した時、米長期金利が今回と同様比較的しっかりと上昇していたのは2009年4月半ばから5月末だ。この時の株価は、米金融危機を受けた急落後の急反発局面にあった。

つまり、当時は世界経済の加速感が強まり、米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和政策などもあって、米国の期待インフレ率が急速に上昇した結果、名目金利は上昇した。だが、実質金利がさほど上がらない中、リスクオンの環境下でドル安が続いた時期だった。景気サイクルの局面は異なるが、世界の金融資本市場の環境・センチメントは今回と似ている。

この時、ドルが反発し始めた後、その他の金融資本市場がどのように動いたかを見ると、今後の動きを予想する上での参考となるかもしれない。当時は、ドルの急落が止まった後、米長期金利が1週間程度上昇してから、急低下した。米長期金利低下とともに、米株価は1カ月間で7%程度下落。その後、米長期金利はレンジ内で横ばいだったが、米株価は急反発し、下落を始める前の水準をはるかに超えて上昇を続けた。

今回の場合、米長期金利はすでに低下を始め、米株価も7%程度下落している。2009年の経験則に倣えば、もう少し米長期金利低下、米株価下落が続く可能性を否定できないものの、米株価急反発のタイミングも意外に早く訪れるかもしれない。

<短期ポジション巻き戻しの可能性>

一方、米国の期待インフレ率と長期金利の上昇がまだしばらく続くと仮定した場合はどうだろうか。

過去15年間で米長期金利が急騰した10回のケースについて、金利上昇の持続期間や上昇幅、株価の動きを検証してみた。米10年国債金利の平均的な上昇期間は2カ月半程度で、平均的な上昇幅は82ベーシスポイント(bp)程度となっている。今回は、現在までのところ長期金利の上昇期間は2カ月弱、米10年国債金利の上昇幅は48bp程度だ。従って、もうしばらく米長期金利の上昇が続いても不思議ではない。

このように米長期金利が比較的急激に上昇している期間、世界の株価も、日経平均株価もほとんどのケースで上昇している。日経平均株価は10回中8回で上昇しており、平均上昇率は10%弱だ。つまり、今後も米長期金利上昇が続いても、株価がこのまま下げ続けるわけではなく、むしろ好調なファンダメンタルズを背景に買い戻される可能性の方が高いと言うこともできそうだ。

為替市場は「ドル高・円高」の典型的なリスクオフの展開となっているが、通常はこうした不安定な状況になると、円高の方が目立ち、ドル円相場はもう少し急激に下落するケースが多い。だが、足元の動きはそれほど急速な円高とはなっていない。本邦企業や投資家による対外投資のフローが根強いことの表れなのかもしれない。

また、こうした環境下では、為替市場の方が敏感に反応する印象があるが、今回は債券、株式市場に比べ落ち着いた動きになっているようにみえるのが印象的だ。楽観的過ぎるかもしれないが、足元の急激な動きは、債券、株式市場で積み上がっていた短期的なポジションの巻き戻しの範囲を出ていないのかもしれない。

*佐々木融氏は、JPモルガン・チェース銀行の市場調査本部長で、マネジング・ディレクター。1992年上智大学卒業後、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月にJPモルガン・チェース銀行に入行。著書に「インフレで私たちの収入は本当に増えるのか?」「弱い日本の強い円」など。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here

(編集:麻生祐司)

*本稿は、筆者の個人的見解に基づいています。

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